01の実験で、レンズ光軸近くから照明光を導入すれば比較的効率よく徹照像が得られることが分かりました。実戦用の順同軸照明装置は、ストロボ光をより効率的に集め、ケラレが出ないギリギリまでレンズ光軸近くに光を導入する装置を開発してみます。
NikonのストロボのTTL自動調光は大変良くできているので、調光機能は活かしてそのまま使います。発光部からストロボ光を光ファイバーに導入し、それをレンズ先端まで導きます。Nikonのデジタル一眼レフのストロボ撮影は、シャッターを押した瞬間に、ストロボは一度プレ発光し、それが被写体にあたってレンズを通して入ってきた光を測定し、必要な光量を計算して、その値に準じて本発光をして露光する、という複雑な動作をします。そのため、ストロボの発光部から何らかの方法で光路を曲げて光軸側近に導く必要があります。
被写界深度を確保するため、通常はある程度絞りを絞って撮影しますので、照明装置によってケラレない範囲で、レンズ先端外周よりも内側に入れても大丈夫な範囲があります。これは実際の撮影距離や絞り値で実験しながら調整するのが手っ取り早いでしょう。
設計
設計のポイントは、
- ストロボのTTL調光を利用するため、ストロボ発光部から光を導入する。
- 撮影距離によってレンズ全長が変動するため、フレキシブルな導入路である必要がある。
- ストロボ光の出口はケラレない範囲でレンズ光軸に近づけたい。また、任意に位置の調整ができることが望ましい。
- 光の射出部はレンズ先端に近づける。近くないと射出部が写ってしまう。
- 01の実験から、迷光があると角膜表面で反射し、写ってしまうので、迷光処理が必要。
これらを踏まえて、次のような条件で設計を行いました。
- ストロボ発光部から光ファイバーでストロボ光を導入して、レンズ先端近くに導く。
- 光ファイバーの長さはレンズの最大繰り出しを想定して長さを決める。
- 導入した光をレンズ先端光軸近くから射出するため、直角プリズムで光路を90度曲げて射出する。
- 射出位置は簡単に動かせて、ケラレを見ながら調整ができるように磁石で取り付ける
- 迷光防止のため、ストロボおよび光ファイバー部は遮光する。
プリズムの制作
適度な大きさの直角プリズムがなかったため、アクリルで自作することにしました。アクリル棒から直角二等辺三角形を切りだし、ひたすら研磨して仕上げます。
屈折率1.49のアクリルで全反射するかどうか心配でしたが、レーザー光でテストする限り、反対側に抜けていないので、全反射してくれているようです。
簡単に言うと、ストロボの光を光ファイバーの束に導入し、それをレンズ光軸側近まで導いて、プリズムで90度曲げてレンズ光軸に平行に照射するようにしたものです。レンズの光軸に対して、準同軸の照明となります。
絞り込んで撮影するため、発光部はレンズ外周よりもさらに内側に持って行っても発光部によってケラレないようにすることができます。事前に絞り込みプレビューをして、発光部でケラレないぎりぎりの位置に発光部を移動して撮影に臨みます。
虹彩の状態にもよりますが、目の光軸とずれると反帰光が得られなくなります。意外と微妙な位置関係で歩留まりが悪かったので、2点の照射にしました。上下から照射することによって、反帰光が得られる確率が格段に上がりました。
ストロボは上に向けてその中央の光を光ファイバーに導入していますが、あえて集光したり、それ以外の光を遮光していません。そのまま天井に照射され、軽いバウンス撮影の効果を期待しています。目だけの照明ではなく、顔全体もバウンス光によって写ってくれた方が分かりやすいからです。
テスト撮影をすると、光ファイバーからの迷光が結構多く、それが輝点となって角膜に線状の像を写しだしてしまいました。そのため、光ファイバーを黒い布でカバーしました。これで線状の像は出なくなりました。
これで効率よく赤目現象が起きてくれるはずです。
左の電池とLEDは、ピント合わせ用の照明です。ストロボ発光するまでは真っ暗なので、ピントも合わせられないので、常時点灯している照明が必要でした。
輝点像が2個できてしまうので、いささか邪魔ですが、これで効率よく徹照像が得られるようになりました。
人は「動かないでください」と言われれば、しばらくはじっとしていてくれますが、動物はそんなことは聞いてくれません。常に動き回っているところに、ピントを合わせて撮影します。そのため、固定式の装置ではなく、汎用一眼レフで何とか徹照像が撮れないかと相談されて20年ほど前に開発したものです。
随分使いましたが、現在はよりコンパクトな別の装置を開発して使っています。理屈は同じで、可能な限りレンズ光軸近くから照明することができれば徹照像は比較的簡単に得られます。
応用
光軸の側近からの照明になるので、穴状の奥まで照明光が届きます。口腔内、外耳道、鼻孔など、通常のストロボだとけられてしまうようなものでも撮影することができます。動物の口腔内の撮影では重宝しました。
しかし、影がまったくできない、いわゆる無影撮影になるため、立体感が喪失します。あらためて人は様々な情報を整理して映像を見ているということを実感しました。影は邪魔だと思う一方で、立体表現のための重要な要素だったのです。
これは何だか分かるでしょうか。まず、この肌色の組織が出っ張っているのか凹んでいるのかさえ分からないと思います。
実はワラビ―の育児嚢です。深い位置にある乳頭を撮影するために準同軸照明装置を使って撮影しました。画像を見て驚きました。自分で撮っておきながら、何を撮ったか分からなかったのです。皮膚にできた出っ張った腫瘤のようにしか見えなかったのです。
普通のストロボを使うとこのように写ります。明らかに袋状の凹みであり、その底の方に乳頭があることが分かります。影は重要な情報であることをあらためて知りました。