不覚:鳥類のくちばしは下嘴だけでなく、上嘴も開く:キョエちゃんの動きは正しかった

皆さんは鳥類の嘴が上下とも開くことをご存知でしたでしょうか。不覚にも自分は知りませんでした。長年獣医大学で教えたりエキゾチックアニマル専門の動物病院に勤務しながらも、鳥類の上嘴は頭骨に固定されていると信じていました。もっとも、大学で教えている科目は情報学ですし、動物病院の仕事は撮影がメインであり、出身は建築学科なので生物は専門外なのですが、この20年ほどさんざん野鳥の撮影をしていながら、上嘴が開くことを今まで知りませんでした。ガーン!!!

物心ついたころから文鳥と暮らしていたし、現在も文鳥と暮らしています。仕事では博物館の骨格標本の展示にも関わりましたし、論文用の鳥類の骨格標本の撮影にも携わってきました。身近な野鳥の観察ガイドも出版したし、毎年カレンダーも出しています。こんなにもどっぷり鳥類にはまっていたくせに、そんなことも知らなかったと言うことで、かなりショックを受けています。

鳥類学者に確認

アオジちゃんの食事シーンを連写した画像を処理しているときに気づきました。
ボスの某K博士に問い合わせたら、「よく気づきましたねえ! チコちゃんは偉いですねえ。 じつは、そーなんです。」とのお返事をいただきました。
統計をとったわけではありませんが、この言い方からすると、こんなことを知っているのは鳥類学者だけで、世の中の大多数の人は上嘴は固定で下嘴だけが可動だと信じているのではないかと思い、自分も含めて世の中の間違ったイメージを正しておこうと思いました。
すでにご存じで「上嘴が動くなんて常識じゃん」な方は無視していただいて結構です。

身近な獣医に「鳥の上嘴も開くって知ってた?」と聞いたら「へ、そうなの?」という反応だったので、おそらく獣医大学でもそこまでは教えないのでしょう。

鳥類は上嘴も開く

種によっても可動域は異なるようですが、多くの鳥類の上嘴の中にある上顎骨は頭骨と緩い連結をしていて、外観的にも動くのが確認できます。特にカモ類などは嘴自体も柔らかく、よく動くことが確認されます。明確な関節があるわけではありませんが、積極的に「しなる」と言うか、折れ曲がるような構造になっています。

証拠画像

頭は動いていないのに、種を挟んだ上下嘴がかなりの可動域で上下に動いていました。

2枚ずつ3セットの画像でアニメーションを作ってみました。目の位置は変わっていないので、頭骨と上下顎骨はかなりルーズな接合になっていることがわかります。

ドナルドダックのアニメーションは正しかったのです。さすが動物の動きをとことん観察してアニメーションに取り入れたウォルト・ディスニーは偉大です。改めてドナルドダックのアニメーションをみてみると、上嘴も動いています。所詮マンガだから、と思っていましたが、実は事実に基づいた観察眼のたまものだったのです。恐れ入りました。
ツイッターのマークは現在なくなってしまいましたが、あのマークも上嘴が開いており、正しいことがわかりました。
デザイナーさんたちは皆さん知っていたのでしょうか。知らなかったのは私だけなのかもしれません。

追記

キビタキのさえずりの撮影からも上嘴が開いているシーンが撮れました。前半は3枚、後半は2枚の静止画を交互に表示するアニメーションを作ってみました。さえずり時でも上嘴が開いていることがわかります。

なぜ誤解が生じたのか

私の場合は骨格標本が勘違いの元でした。骨格標本は乾燥している状態ですし、撮影に際しては標本を壊してはいけないので、基本的に極力触らないように撮影します。きれいな標本は買うと結構高価なのです。
標本を見ると、上嘴は頭骨にがっちり固定されているように見えます。明らかな関節なども見受けられず、とても可動するようには見えません。実際生きているときは柔らかく曲がるのでしょうが、乾燥した標本では曲げると割れてしまうでしょう。鳥の骨は薄く軽く作られているため、はれ物を触るように丁寧に扱います。とても曲げてみようなどと思いません。

また、我々哺乳類の上顎は頭骨に固定されており、下顎だけが動きます。鳥も当然同じであろうという先入観を持ってしまっていたのが敗因です。

参考文献

そんなことがあって某K博士を質問攻めにしたところ、本や論文集を送ってくださいました。ちょうど終活している最中なので活用してほしいということで、分厚い専門書が7冊ほど届きました。

確かに鳥の嘴の動きは鳥類学者には面白いテーマだったようで、研究しつくされているようです。様々な図による解説がありますが、動きはかなり複雑です。キーポイントは方形骨という独特の形状の骨が下顎関節近くにあり、方形骨の動きによって上嘴を押し上げる力に変換されます。方形骨にはプッシュロッド的な役割を果たす骨がまるでマルチリンク機構のように接続されています。
筋肉と骨格の動きを知らないとなかなか理解できませんが、いつか模式的な解説ができればと思っています。

いずれにしても、鳥の上嘴も上下に動くという事実を知っただけでも自分にとっては収穫でした。こんな重要なことを知らずに生きていくところでした。くわばらくわばら。

著者
Yama

大学卒業後しばらくは建築設計に従事。その後人工知能の研究所で知的CADシステムやエキスパートシステムを開発。15年ほどプログラマをしていましたが、管理職になるのが嫌で退職。現在は某大学の非常勤講師(情報学)、動物医療系および野鳥写真家、ウェブプログラマ、出版業などをしながら細々と暮らしています。

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