撮影禁止とネットバカ問題についての考察

とある高校の文化祭の出し物。
10年以上前なので、撮影制限はありません。姪っ子が在学していたので彼女の良き思い出にと、野鳥撮影用の超望遠レンズを付けてガシャガシャ撮影していましたが、女子高ということもあり、今なら連行されそうです。

最近は子供の運動会や文化祭は撮影禁止の学校が増えているというニュースを見ました。びっくりです。第三者ならともかく、家族も撮影禁止だそうです。学校の思い出の写真が撮れないということです。

そんなニュースを見て、驚きと同時に非常に残念な気持ちになりました。私の様に小学生の頃は体育だけ5であとはほぼオール2だった学生にとっては運動会くらいしか活躍の場はないのに、その記録が何も残せなくなってしまいます。

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なぜ撮影禁止が増えているのか

学校のイベントなどを撮影すると、必ず家族以外の生徒も写ってしまいます。それを何も考えずにネット上にアップロードして公開してしまう人が多いのでしょう。生徒たちの写真は個人情報ですし、悪用される可能性もあります。学校側は何か起きたら責任を追及されるので、防衛手段として「撮影禁止」にしているのでしょう。
建前上禁止にしておけば、それに違反して撮影した写真で問題が起きても主催者は言い逃れをすることができ、矛先を違反して撮影した親御さんに向けることができます。禁止をうたっていないと、何か問題が起きたときは、最近の傾向としては謝罪会見で園長や校長が引っ張り出され、「何で撮影禁止にしなかったんだ」、「問題が起きることは想像できただろ」、「ITリテラシーが低すぎる」などと父母や記者に詰め寄られ、徹底的にやり込められるシーンが目に浮かびます。
気持ちはわからなくもありませんが、なんだか寂しい流れです。そんな世知辛い世の中になってしまったのでしょうか。

でも、よく考えると、この問題はイベントを撮影禁止にすれば済むような話ではありません。根底にもっと大きな問題が潜んでいるように感じます。運動会の撮影禁止なんて、より深い問題の氷山の一角のように思えます。

問題の分析

フィルム時代は、運動会や文化祭、発表会などのイベントは、親が我が子の活躍の場を記録する重要なイベントで、そのために世のお父さんたちは頑張ってカメラを買ったり、望遠レンズを買ったりしたものです。撮影禁止なんて誰も考えたこともなく、とにかく自由な位置から競って写真を撮っていました。撮った写真はプリントしてその子の成長記録や大切な思い出としてアルバムに整理されました。

それについては誰も文句は言いませんでしたし、家族以外の人間が写っていても問題にはなりませんでした。むしろ友達やクラスメイト全員が写っている写真の方が思い出としての価値は高い写真になります。
問題になるとしたら、お父さんが撮影に失敗して撮れていなかったり、全部ブレていたりして家族から総すかんを食らうくらいです。

ですから、「写真を撮る」という行為や、「印刷して家族や友人と楽しむ」こと自体は何の問題もないはずです。

雲行きが怪しくなったのは、80年代頃から日本でもインターネットが普及しはじめたこと、さらに今世紀になって携帯電話やスマートフォンが普及してきたことが挙げられます。それでも最近まで子供のイベントで撮影禁止などという話は聞いたことがありませんでした。ここ数年で急にそういう話がでてきたのは、SNSの普及でしょう。SNSの普及により、スマホで撮影した写真や動画を誰でも簡単にアップロードできて、情報を公開する環境が整ってしまったからです。

インターネットも正しく使う分には便利な場ですが、普及速度に対して教育が追い付かず、結果的に「ネットバカ」を量産してしまったことに原因があると思っています。あまりに簡単に自分の写真や動画、音声、文言などあらゆる情報をネットで公開できてしまい、自分が何をしているのかも分からず、世界中の人に公開しているのだということも正しく認識せずに行ってしまっていることが問題なのです。ネット上で現在大変問題となっている誹謗・中傷、いじめ、犯罪予告の脅迫など、ITリテラシーの低さを物語っています。
ネット関連の犯罪で捕まるとみな口をそろえて「こんな大ごとになると思わなかった」と言います。自分が何をしているのか分かっていないネットバカの典型です。要するに、何も考えずに写真や情報を世界に発信してしまう人間が増えてしまったということです。これは子供、若者、中年、お年寄りを問わず、全世代に増えたのです。

もうこういう世の中になってしまったのですから、義務教育として小学生から教えなければいけないのでしょう。私たちが子供の頃は「知らない人に付いていっちゃダメだよ」とか、「道に座っている人と目を合わせちゃダメだよ」などと教育されましたが、現在は「知らない人に裸の写真送っちゃダメだよ」とか、「人の悪口をSNSで書いちゃダメだよ」、「〇月〇日に〇〇を爆破します、などと書いたメールを送っちゃダメだよ」なんてことを教えないといけないのです。

スマホ問題

現在、世の中に写真を撮る術を持っていない人はほとんどいないと思います。幼児やジャングルに住んでいる人たちを除いて、ほぼすべての人類はいつでも写真が撮れる状態です。これは数十年前では考えられなかった画期的なことです。昔は写真を撮るには最低限の撮影知識が必要でした。さらに高価なカメラを持っている必要があり、フィルムを買って装填し、撮影して巻き戻し、写真屋さんに持って行ってフィルム現像、印刷のプロセスを経てはじめて写真が見られる状態になりました。フィルム代、現像代、印刷代も安くはなく、学生にはハードルが高いものでした。

それが今は写真に対する知識がゼロの小学生でも無制限に写真が撮れて、それを世界中に公開できてしまうのです。それがどういうことなのかもわからずに、とにかく簡単にできてしまうのです。これはかなり恐ろしいことなのですが、それを本人たちは分かっていませんし、誰も教えてくれていないのです。

思うに、現在ITリテラシーがない「ネットバカ」や「スマホバカ」が量産されていると言われているのは、若い人たちが悪いのではなく、親世代の人たちが悪いのです。さらに言うと、もっと上のインターネットの黎明期からネット社会を生きてきて、新しいものをどんどん開発だけしてきた我々世代がいけないのです。
しかし、インターネットがこれほど爆発的に普及し、全人類がカメラ付きスマートフォンを持ち歩き、写真や動画をすぐにその場で全世界に公開できるようになるとは、数十年前には誰も予想できていませんでした。本当にあれよあれよという間に利便性だけが追及され、現在の状況になっています。ITリテラシーを教える前に小学生に撮影や配信の環境だけを与えてしまっているのです。
腹ペコの児童の前にケーキを置いて「食べるな」と言うようなものです。

今こそ動き出さないととんでもない世界になりそうで危惧しています。

ネットバカ

インターネットにかかわる仕事を始めた1980年代からウェブサイトは存在していましたから、誰でも写真をスキャンしてウェブ上で世界に発信することは可能でした。エディタでHTMLを書き込む方法でしたが、そのようにしてウェブサイト製作の仕事をしていましたし、掲示板などで写真を公開する方法はいくらでもありました。

しかし、当時ウェブサイトを作成できるのは技術者であり、インターネットに精通した、今でいうITリテラシーが高い人です。その頃の方が情報の扱いは丁寧でした。出版物でもチラシでも、写真を撮った人の著作権や写っている人物の肖像権を巡って問題が起きていましたから、いまよりもずっと敏感であり、慎重でした。いちいち契約書を交わしたり、念書を書いたりして問題を避けることにずいぶんと労力をかけていました。

それが昨今のインターネットの普及、SNSの大頭によって著作権や肖像権という概念が薄くなってきているように思います。ネットにアップされている情報はすべて自由に使っても良いと勘違いしている人が大多数です。
学生にレポートを書かせても、ウィキペディアから文章はコピーして、画像検索で写真やグラフまで拾ってきて簡単にレポートができてしまいます。ぱっと見は素晴らしいレポートに見えますが、本人には何も残っていません。

ネットのフリー素材と言えども、黙ってレポートに貼って自分の名前で提出したられっきとした犯罪になります。そんなことも分かっていない人間が急速に増えています。これもネットバカと呼ばれている方々が悪いのではなく、それを教えない大人たちが悪いのです。

大人も分かっていない

実は大多数の大人たちも分かっていないのです。学生の親たちの世代もネットの情報を利用して仕事をしています。社会を牽引している働き盛りのネットに精通してるはずの親世代でも、毎日のように情報漏洩のニュースが流れたり、ウイルス感染、ネット犯罪など、聞かない日はないほどIT系の問題が起きています。まだまだ人類がインターネットというものに対して対応ができていない証拠です。人の進化よりもネットの進化の方が圧倒的に速いので、ついていけてないのです。
そんな状況ですから、親が子供に教えることもできないでしょう。

ネットバカの弊害

世の中のネット関連の問題は、一部のネットバカの増殖によるものだと思っています。もちろん、ITリテラシーが高く、ネットを正しく利用している人もいますが、どんな世界にも勘違いしている人が一定の割合で存在します。
ネット依存症で、スマホを離すことができない方々です。家でも電車の中でも歩いている時でも、常にスマホをいじっていないと落ち着かないような中毒症状の方々です。何かイベントがあるとすぐに写真を撮ってSNSにアップしないと気が済まないようです。

とにかく自分はこんなに幸せなんだ、こんなにおいしいものを食べているんだ、こんな良いところに住んでいます、こんな良い洋服を買いました、こんな良い車乗ってます、と世間に公表したくて仕方がないのでしょう。いわゆる「リア充」と呼ばれている方々です。

レストラン、カフェなどの飲食店では、当たり前のようにスマホで飲食物や店内の雰囲気などを撮影している人が多くなってきました。そのままSNSにアップロードするのでしょう。お店側も、インスタ映えするということで宣伝になるので大いにやってくれというところもあるでしょうが、撮り方によっては問題になります。スマホのカメラはほぼパンフォーカスなので、背景のお客さんも普通に写ってしまいます。でもそんなことは気にしないのでしょう。そういう非常識な方々のために、撮影禁止と書いているレストランなども目にするようになってきました。

そういう人たちが親になると、子供自慢に移行します。運動会や発表会で自分の子供が活躍している写真をどんどんアップロードしてしまいます。そういう場面で一人で写っているということはまずありませんが、ITリテラシーがない親たちはお構いなしにアップロードしてしまいます。下手したらリアルタイムで写真をアップロードしたり、もっとヤバイネットバカは動画をライブ配信してしまいます。

運営側もまさかそんなことをされるとは思っていなかったのでしょう。生徒たちの顔写真が許可なくネット上に公開されてしまうのです。それが当たり前という時代になってしまったということなのでしょう。
フィルム時代やSNSが普及する前はそんなことは考えもしなかったことですから、主催者側もどうしていいかわからず、「撮影禁止」にせざるを得なかったのだと思います。自分や自分の子供の写真がネットに公開されていたら文句を言われるのは学校でしょうから。

カメラは可、スマホは不可

ネットで検索すると(かく言う私もネットありきで生活しているネットバカです)、「カメラでの撮影は可、スマホは不可」としているところが多いようですが、これもITリテラシーが低い主催者側が設定した条件のように思えます。
ずいぶん前からカメラはスマホと連動できて、カメラで撮った写真はスマホ経由で簡単にインターネット上にアップロードできます。逆に、最近のカメラでスマホとつながらないものはほとんどありません。動画で生中継することだって可能な時代です。家族で参加している姿がリアルタイムで写っていれば、家が留守であることが泥棒に分かってしまったり、運動会で失敗した画像や動画がアップされるといじめの対象になってしまったり、可愛い児童が写っていれば、変質者のターゲットになってしまう可能性だってあるということです。多くのネットバカの方々はそういう想像力はありませんし、投稿前に画像を加工する技術も持っていないことが多いのです。そこが一番の問題だと思います。

ITの教育

大学で情報学の授業をしていますが、現在の学生たちは生まれた時からインターネットが存在していますし、小学生からスマホやタブレットを使って育ってきた方々です。それなのに、ネットに関する教育を受けていません。ネットの情報を使うのが当たり前で、レポートや論文ににウィキペディアの情報やネットのフリー画像を何で使ってはいけないのか理解できません。中学高校でスマホを使いはじめるのだったら、中学の教育課程に組み込むべきです。小学生からネットに触れるのでしたら、小学生の時からITの正しい理解と安全な使い方、やって良いこと悪いことなど、徹底的に教え込むべきです。そうでないと、10年後には一億総ネットバカになるでしょう。

著作権や日本が加入しているベルヌ条約の無方式主義も小学生でも理解できるので、最初から教えるべきでしょう。ネットでフリーで流れている画像であっても、それを自分の名前で出すレポートや論文に無断で使ったら著作権法違反のれっきとした犯罪になるということをなかなか理解してもらえません。

レポートやプレゼンテーション資料の作成法を学ぶ授業の課題で「自分で撮った写真のみ使用可」という条件を出したら、「ネット上の画像を自分のスマホで複写した写真なら使って良いですか」と真剣に聞いて来た学生がいて愕然としました。事態はここまで来ています。

ネットバカ対策

以前、盗用と剽窃の記事を書きましたが、日本の大学でもようやく論文のネットからの盗用や捏造などを厳罰化する動きになってきました。しかし、IT教育は依然遅れたままです。これでは片手落ちです。
誰が書いたかわからないネット上の情報をレポートや論文に引用したり、無断でネットの写真を使ったり、データを加工したりしてはいけないということをもっと早い段階で教えないといけないのです。大学で教えるのでは遅すぎます。

こういった問題は、政府が正しく認識して、文部科学省が早急に対策をする必要があると思っています。小学生、中学生からきちんと教科として教えるべきです。写真や動画は簡単に撮れますが、それをSNSにアップすることがどういうことなのか、理解できないまま使用してしまっているのです。

車の運転だって、最初に座学で交通ルールや車の物理的な特性などを何十時間も学ばせ、教習所内で十分に運転技術を習得してから路上に出て教官の指導の元で練習し、試験を受けてはじめて運転ができるようになります。
今のネットを取り巻く状況は、免許を持っていない人がいきなり路上で運転をしているようなものです。教育や訓練の部分が完全に欠如しているのです。車の運転に例えると危険極まりない行為と思えますが、ネットバカは野放しです。犯罪に巻き込まれたり、全財産を失ったり、人を傷つけたり、最悪人を殺すことだってあるのです。片手にスマホ、反対の手に飲み物を持って電動自転車に乗ってお年寄りを跳ねて命を奪ってしまったという痛ましい事件がありましたが、ネットバカの典型です。

個人的にはネットバカを批判しているのではなく、ネットバカを量産してしまっている現代のIT教育の遅れを問題視しているのです。
スマホ見ながら歩いちゃダメだよとか、他人が写った写真を勝手にネットにアップしちゃダメだよとか、ネット上の儲かる話は詐欺だよとか、ネット・スマホ時代に即した教育が早急に必要だと感じています。

文科省の方、ご検討ください。

追記:ネットバカの応用

店舗などは昔から撮影禁止のところが多かったのですが、近年は撮影可のお店が増えてきているようです。某家電量販店、100均ショップなどでは撮影可の店舗があります。
「こんなの売ってたー」「これは安い」などと商品を撮影してSNSにアップロードしてくれると宣伝になるからでしょう。視聴者が多いインフルエンサーであれば、その書き込みによってその商品が爆発的に売れることもあるようです。まさにネットバカの応用です。悪いことばかりではないようです。

著者
Yama

大学卒業後しばらくは建築設計に従事。その後人工知能の研究所で知的CADシステムやエキスパートシステムを開発。15年ほどプログラマをしていましたが、管理職になるのが嫌で退職。現在は某大学の非常勤講師(情報学)、動物医療系および野鳥写真家、ウェブプログラマ、出版業などをしながら細々と暮らしています。

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