医療カメラマンとして仕事をしていますが、獣医療の現場では外部寄生虫が検出され、急遽撮影を強いられることがあります。ダニやノミなどは1mm以下のものも多く、通常のマクロレンズでは同定ができません。今までは有限遠補正光学系の対物レンズを使った超マクロ撮影をしていましたが、無限遠補正光学系の対物レンズの方がカメラレンズの前に装着するだけで撮影できそうなので試してみました。
無限遠補正光学系の対物レンズを通過した光は平行光線になるので、カメラの望遠レンズの直前に対物レンズを設置し、カメラレンズのピントを無限遠に設定すれば、理論的には超マクロ撮影が可能になるはずです。顕微鏡の結像レンズの代わりに望遠レンズを使う方法です。
オリンパスの無限遠補正光学系レンズの結像レンズの焦点距離は180mmです。180mmの望遠レンズを無限遠で使用すればちょうどよさそうですが、顕微鏡対物レンズの一次像のイメージサークルは、接眼レンズの絞り径から推定して、おそらく18mm程度だと思います。これはDXフォーマットの短編程度です。イメージサークルが出ないように、より画角が狭い200mm以上の焦点距離が含まれるズームレンズでも試してみました。
顕微鏡レンズ
手持ちの無限遠補正光学系の対物レンズは、Olympus製Plan 4×/0.10 ∞/-です。これは像面弯曲を補正した4倍対物レンズ/開口数が0.10、無限遠補正光学/カバーグラス厚指定なしというスペックです。実習用顕微鏡のレンズなので、それほど良くはありませんが、Plan系なので像面が平坦になるように補正されていて、Plan系レンズは暗黙にアクロマートの色消しがなされています。アポクロマートほどではないにしても、2色の色消しがなされている撮影に対応した対物レンズです。
結像レンズとして使うカメラレンズ
適切な焦点距離のZマウントレンズを持ち合わせていないため、Fマウントレンズを使用しました。FTZ-IIを介して使用しました。
テストで使用したレンズは、
・AF Zoom-Micro ED 70-180mm F4.5-5.6D
・AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VR
の2本です。
顕微鏡レンズとカメラレンズの結合
ステップダウンリングを組み合わせて、カメラレンズのフィルター径からRMSマウントに変換し、顕微鏡対物レンズを装着しました。
カメラボディ
ZマウントシステムではNikonのZ50を使用しました。イメージサークルが接眼レンズの絞り径からおそらく18mm程度であると予想されることと、拡大撮影なので、DXフォーマットの方が有利だからです。また、露出補正を行うためにはミラーレスが圧倒的に有利となります。さらに、電子シャッターを使えるので、ブレからも開放してくれます。
上記レンズはFマウントなので、FTZ-IIを介して装着しています。
ISO感度を100に固定し、絞り、シャッター速度をマニュアルで制御して露出を調整しました。
実験
理屈通り、カメラレンズの先端に無限遠補正光学系の顕微鏡対物レンズを取り付け、カメラレンズのフォーカスを無限遠にするだけで超マクロ撮影が可能となります。
Plan系の対物レンズであれば像面が平坦であり、アクロマートの色収差補正がされているので、十分撮影に使えるレベルです。被写界深度が浅いのですが深度合成などの手法で立体物も高解像度で記録することができるでしょう。
今回は比較のために、10円硬貨の表面(平等院鳳凰堂が描かれている面)中央の扉をターゲットとして撮影しました。
Z50にはフォーカスピーキング表示機能があるので、手持ちでもカメラを前後して容易にピント合わせが可能です。ISO 100固定、絞り開放でシャッター速度の変更で露出を制御しました。
AF Zoom-Micro ED 70-180mm F4.5-5.6D
AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VR
イメージサークルと倍率
オリンパスの結像レンズの規定から焦点距離180mmの無限遠で使用した場合、DXフォーマットではイメージサークルが写ってしまうと思っていましたが、レンズによってかなり異なるようです。インナーフォーカスのレンズは撮影距離によって焦点距離が変動しますが、今回は無限遠で使用しているので、その影響ではなさそうです。
実際にイメージサークルがどのように写り、撮影倍率がどのくらいになるのか、実測してみました。以下、各レンズでの焦点距離とイメージサークル、倍率の記録です。
ターゲットは1mmの千鳥柄スケールです。
AF Zoom-Micro ED 70-180mm F4.5-5.6D
AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VR
結果
AF Zoom-Micro ED 70-180mm F4.5-5.6Dの方は、なぜか135mm付近からDXフォーマットは完全にイメージサークル内に包含され、ケラレがない写真が撮れました。
180mmでの使用時、撮影範囲が丁度横6mm、縦4mmの範囲が写っています。これはまさしくぴったり4倍撮影になっています。4倍すると24mm×16mmとなり、DXフォーマットと同じです。
イメージサークルが直径18mmほどと想定していましたので、カメラレンズが180mmでもイメージサークルはDXフォーマットよりもずいぶん小さいことを予想していました。しかし、実際のイメージサークルはもっと広いようです。この組み合わせでは135mmあたりから使えそうです。実測で3倍ほどになります。
一方、AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VRのレンズでは、135mmではまだDXフォーマットよりもイメージサークルが小さく、ケラレが生じます。同じ135mmの焦点距離で、無限遠の設定なのですが、イメージサークルの写りが全く異なりました。
目測で180mmあたりから実用的になり、300mmではかなり拡大された像が得られます。実測値から計算すると、200mmで約5倍、300mmで約7倍となります。
絞り値による変化
AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VR を使用して絞り値による変化をテストしました。
OHTO(オート) ニードルポイント ボールペン 油性替芯 P80-07NPの先端です。ノートリミングです。0.7mmのボールがこのくらいの大きさに写ります。
レンズの絞りを絞っても被写界深度が深くなるわけではなく、全体の光量が減り、周辺の減光が見られます。機序はよくわかりませんが、平行光線の段階で周辺が絞られるので減光されるのかもしれません。レンズ内の絞り位置などによっても変わりそうです。いずれにしても、絞るメリットはあまりなさそうです。
考察
取り扱いも性能も有限光学系のレンズで十分だったのですが、顕微鏡メーカーはこぞって無限遠補正光学系に切り替えてしまったので、有限光学のレンズは入手困難になってきました。中古市場を探すしかありませんが、年月とともに状態が良いものも少なくなってくるでしょう。これからは無限遠補正光学系の中古レンズが超マクロ撮影用として入手しやすくなってくると思われます。
いずれの光学系でも、とにかくCCD上に結像させれば撮影できますので、あとは工夫だけです。等倍以上の撮影が必要な場合はこのような方法で超マクロ撮影が可能になります。
上の実験結果から、結像レンズとして180㎜領域を含むズームレンズを使うと連続無段階で倍率を可変でき、面白い使い方ができるようになります。ただし、2つのレンズでのテスト結果からイメージサークルの写り方が異なるので、やってみないと分かりません。なぜこのような違いが出るのかも、光学の専門家ではないので機序がわかりません。
いずれにしても、カメラレンズの距離を無限遠に設定して、イメージサークルのケラレがない焦点距離以上の範囲は使えます。
例えば、上記70-300㎜を使うと、180mmから300mmで、約4倍~7倍の倍率可変機構を手に入れられます。有限遠補正光学系ではそんなことはできなかったので、これは無限遠補正光学系を使う大きなメリットとなります。
ただし、対物レンズの解像度が上がるわけではないので、むやみに拡大すると像は悪化しますので、結果を見て調整する必要があります。
可能であれば、Zマウントの200mm前後を含むレンズの方が理想的だと思います。NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VRあたりが良さそうです。機会があったら試してみたいと思います。
実写
新紙幣
丁度新しいお札が出たので、日本の印刷技術の粋を集めて作られた新券(1万円札)の偽造防止用マイクロ文字を写してみました。1文字の幅は約0.3mmとのことですので、NIPPONGINKOで約3.3mmほどになります。
今回利便性を感じたのは、ズームができることです。300mmだとNIPPONGINKOがすべて入りませんが、240mmに引くと全部入りました。
昆虫
虫が苦手な人はご注意ください。
アブラゼミの単眼を AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VR の300mmで撮影してみました。約7倍です。手持ちで22枚撮影したものをコンポジット(深度合成)してみました。適当に撮った割にはそこそこ写りました。
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