ここ20年ほど、仕事として動物の眼科診療の撮影を行っています。眼科診療の写真は、飼い主さんへの説明、記録、画像判定、学会発表、後学のためなどに利用できるため、可能な限り撮るように心掛けています。
しかし、動物の眼科撮影は特殊な領域で、誰でも簡単に撮れるというものではありません。特に担当していた動物はエキゾチックアニマルであり、眼球自体も小さく、医療現場の撮影としてはかなり難易度が高い撮影です。そのため、様々な照明装置やアダプターなどの開発をしてきました。
眼科専用のカメラも市販されているようですが、ここでは一般的なデジタル一眼レフカメラでいかに動物の眼科検査を記録するかを考察します。
今までの変遷を少し紹介します。
動物眼科撮影の難点
まず第一に、暗室で弱い光で行われる検査だということです。写真は光を記録するものですから、暗いということは大きな問題となります。これには随分悩まされました。
次に、人間の場合は「動かないでください」と言われれば、しばらくじっとしていてくれます。しかし、台にあごを乗せて動かないでいてくれるようなことはなく、人で使っているような固定された眼科撮影装置は使えません。そのため、動物の動きに合わせてこちらが動く必要があり、機動性が高いカメラでの速射性能が求められます。
記録したい検査
眼科検査には様々な方法や手法があります。超音波検査やX線検査以外の光学的に見る検査は基本的に何らかの手法で映像としてカメラで記録できるはずなので、今まではその記録にチャレンジしてきました。
前眼部外貌
普通に目を目の正面から撮った写真です。これは特にテクニックはありませんが、強いて述べるとしたら、被写界深度を確保するために、適切に絞り込む必要があります。
エキゾチックアニマルでは、ハムスターなどのように小型の種類も多く、目を画面いっぱいに写すのは困難です。等倍マクロレンズなどを使って可能な限り大きく写しますが、目の表面は球面であるため、中央部と周辺部で距離が異なってきます。マクロで近距離撮影するほどその差は顕著になり、絞りを考えずに角膜中央にピントを合わせると角膜周辺ではボケてしまいます。記録写真としては、画面上のすべての点にピントが合っていて欲しいので、かなり絞り込んで撮影すると良いでしょう。
徹照像
徹照像検査とは、目から離れた場所からペンライトなどで目に光を入れると網膜からの反帰光が得られ、中間透光体(角膜、前房、水晶体、硝子体)の濁りや透過を阻害している病変などを見る手法です。
カメラ業界の用語を使うと、いわゆる赤目現象です。一般写真では嫌われ、いかに赤目現症が起きないようにするかがポイントですが、徹照像を得るためには、逆にいかに安定的に赤目現象を発生させられるかがポイントになります。
赤目現象ができるだけ起きないように作られているカメラで、赤目現症を効率的に起させるには少々工夫が必要です。
細隙灯顕微鏡検査
スリット検査とも呼ばれる検査で、細い線状の光源像を角膜や水晶体に投影して、それらの断面を観察する検査です。暗室では光が当たっている箇所しか見えないので、細い光を入れると断面が見えるようになる現象です。
これは有用な検査で、角膜の異常や水晶体の異常、濁りなど様々なことが分かります。動物の眼科検査でも頻繁に行う検査です。
これも撮影はなかなか難しく、かなり拡大して写さなければならないことや、動物はじっとしてくれないので、暗い光を高速シャッターで撮らなければなりません。
スリット亢を投影できるストロボなども開発しましたが、動く動物に使うのは困難で、お蔵入りとなりました。
フルオレセイン染色検査
角膜の傷や潰瘍の有無を調べる検査です。フルオレセイン染色液は、角膜の実質が選択的に染まる染色液なので、正常な部位は染まらず、表面がえぐれたり、潰瘍などで実質が露出している部分のみ染まります。
蛍光染色液で、青い励起光を当てると黄緑色の蛍光を発します。
これも暗室で行う検査で、微弱な光なため、一般的なカメラで記録するのはかなり困難です。
眼底検査
網膜や血管、視神経乳頭などを見る検査です。度数の高い凸レンズを眼前に置いて視線と平行に近い光線を入れると眼底像が見えます。映像は倒立像になります。
専用の眼底カメラも売られていますが、かなり高価で、使用頻度からするとなかなか一般の病院で用意するのは難しいと思います。普通の一眼レフでいかに眼底撮影をするかも考察してみたいと思います。
これから少しずつ別ページで紹介していきたいと思います。