写真撮影という行為で、唯一残された人間の仕事です。
カメラがしてくれること
近年のカメラは電子化が進み、オートフォーカス、自動露出、自動ホワイトバランス、自動感度調整、顔認識、瞳認識、動物認識、手振れ補正、と、どんどん進化してきています。写真を撮ろうと思った時、これらをすべてカメラが設定してくれます。数十年前はすべて手動でやっていました。すさまじい進化です。
これらをすべてカメラに任せても、大きな失敗はなく、概ね満足できる写真が撮れるようになっています。特にこだわった写真を撮るのでなければ、カメラを買って、すべて自動の設定で使ってもよく撮れると思います。旅行に持って行くために買った人などは、このような使い方でしか使わないことも多いようです。
スマホと同じくらい楽で、スマホよりもきれいに撮れる、という程度の認識です。これはこれで理にかなった使い方ですし、カメラメーカーも目指している方向でしょう。
こだわりを持って表現をしたい人のみが絞りを手動で設定したり、露出補正を自ら行う使い方をするようです。
カメラがしてくれないこと
上記のように、昨今の電子化が進んだカメラでは、自動設定で何不自由なく上手に撮れてしまいます。唯一人間に残された仕事が「構図」です。構図は芸術的センスの要素が強いので、なかなか上達しない人もいますが、 優れた構図の作品を見 たり、デジタル時代なので、さまざまな構図で撮影してみることによって少しずつ分かってくるものです。
同じ被写体であっても、構図によって別のものに見えることがあるほど、写真における構図は大変重要です。一般的に全体が均質な写真はありません。注目すべきポイントがどこかにあるはずです。構図とは、それを写真の中のどこに置くか、という話です。
被写体は無限にありますし、背景や天気、画角、距離、時間帯などのパラメーターを考慮すると、「こういう場合はこういう構図が最適である」などという定石を語ることなど不可能であることがわかります。
日の丸写真
撮りたいものをど真ん中に配置する構図です。避けるべき構図の代名詞のように言われていますが、時と場合によります。
初心者がカメラを買って、友達と旅行に行って撮った写真は、ほぼすべて日の丸写真でしょう。構図のことを何も考えずに撮ると、自然と日の丸写真になります。記念写真としてはそれも悪くはないのでしょうが、そればかりだと素人っぽいつまらない写真に見えてきます。そんなことから、「日の丸写真=素人の写真」というイメージが定着してしまったのでしょうが、「日の丸写真=悪い写真」とは限りません。
プロカメラマンでも、意図して日の丸写真にする事もあります。日の丸写真も考えてそうしたのであれば立派な構図です。シンメトリーを活かした風景や、ポートレート写真なども意図して日の丸写真の構図にしているものもたくさんあります。最近はインスタグラムなどで正方形フォーマットが横行しているので、必然的に中央配置の構図も増えているように見受けられます。何といっても日の丸写真は直球勝負で素直に被写体を目立たせます。
私の場合は、医療系の撮影依頼が比較的多いので、そういう仕事の時は、基本的に患部や術創をど真ん中に配置する日の丸写真しか撮りません。しかも絞り込んでできるだけ背景までピントが合った写真を撮ります。顕微鏡写真や天体写真も日の丸写真が基本です。
構図を考えた風に、術創や寄生虫を少し端に寄せたり、月の写真の一部を切ったりしても誰も褒めてはくれません。背景をきれいにぼかしても意味がなく、むしろ情報の欠落となって学術的価値は下がってしまいます。
その他の構図
巷では、構図の解説をしている本が山のように存在します。ネットで調べても何百万件もヒットすることでしょう。それだけ悩んでいる人が多く、それだけ色々な考え方や解決方法があるということです。
二分割法、三分割法、対角法など、様々な構図の定石が紹介されていると思いますが、シノゴカメラで一枚の写真をたっぷり時間をかけて撮る場合以外は、こんなことを考えながら撮る人は少ないと思います。一応、定石として知っておくことは重要ですし、気づかずに応用しているのかもしれませんが、日の丸写真以外の構図では被写体を中心からオフセットしているわけですから、自然とその他の〇〇法と言われている構図になっているものです。
画面を縦横3分割してその交点にターゲットを無理に配置するのも不自然なこともありますし、定石にとらわれ過ぎてシャッターチャンスを逃すこともあります。日の丸写真ではない構図の場合は、自分の感性を信じて被写体が美しいと思える位置に配置するのがベストなのです。
偉そうに言うと、「考えるな、感じろ」ということだと思います。
どうオフセットすると良いのか
上記のように、自分が意識して実践している構図は「日の丸写真」か、「それ以外」の2種類しかありません。日の丸写真は、大好きなものをドーンとど真ん中に配置するので、何も難しくありません。例えば、一輪の花のアップ、正面を向いた人物やこちらに向かって走って来る犬などは日の丸写真が最もインパクトがある構図になるでしょう。
さて、では横を向いている人や動物はどうでしょうか。日の丸写真だと何となく違和感を感じるのではないでしょうか。
憶えることは一つだけでいい
小学生の頃から、写真家かつ芸術家であった伯父に写真を習いました。マミヤユニバーサルプレスにブローニーフィルムを装填し、撮影して、現像までするということをやらせてくれました。学校では落ちこぼれでしたが、露出は完璧に理解していて、露出計で光量を測って絞りとシャッター速度をコントロールしていました。生意気なガキです。
その叔父から教わった構図の極意は一つだけです。
向いている方向の空間を広くする
です。
覚えることは、たったこれだけですべての構図に通用するというのです。以来、50年以上、自分はこれだけを守って構図を決めています。趣味で撮るときも、仕事で撮るときもこれだけです。何分割法とか、対角線法とか、知ってはいても、実際の撮影中は考えたことがありません。とにかく被写体の向きを見て、向いている方の空間を広くするように心がけるだけです。それで、今まで数十年間写真を撮って来て、大きな失敗はないので、伯父の言っていたことは正しかったのでしょう。覚えることがそれだけなので、落ちこぼれだった小学生でも覚えられましたし、すぐに実践もできました。
写真は動いている世界の瞬間を切り取ったもの
世の中は静止しているわけではなく、常に流動的に動いています。写真とは、シャッターを押した瞬間の光景を切り取る行為です。人物や動物、自動車、電車、飛行機などはすべて基本的には向いている方向に動きがあるものです。ですから、向いている方向とは、シャッターを押した直後にそのターゲットが動く方向でもあるのです。その方向が見えないのは不安であり、動く方向の空間が見えていると安心感が生まれます。
もちろん、意図的に向いている方の空間を詰めて、視線の先を見せないようにして想像力をかき立てるという構図もあるでしょうが、緊張を強いられ、あまり気持ちが良い構図とは思えません。
もっと範囲を広げると、建築物、樹木、山、岩、湖などの静物もよく見ると向きがあります。こっちが正面だよー、という向きです。石ころだろうと、野菜だろうと、擬人化すると顔が見えてきます。それを見出すのがきっと優れたカメラマンなのでしょう。それが見えてくれば、風景写真でも「向いている方向の空間を広くする」という構図のテクニックは当てはまります。
つまり、何を撮るときでもその被写体の向きを考え(感じ)、向いている方向の空間を大きくするように構図を決めるのです。上下や左右だけではなく、斜めを向いていてもその方向の空間を空けるようにします。おそらく、それで99%うまい構図になるはずです。
再び日の丸写真に戻ると
同じ理屈で、被写体が正面や真後ろを向いた時は、必然的に中央配置になり、日の丸写真になります。記念写真や証明写真も正面図なので、日の丸写真で良いのです。私の仕事の一つである術創などは向きがないので、日の丸写真になります。顕微鏡写真や天体写真も、向きがないか、こっちを向いているという解釈ができるので、日の丸写真が正解です。
まとめ
構図の解説書や何十万件とある構図のテクニックを紹介したウェブページを否定する気はありませんが、個人的には撮影中に構図の方法論を考えることはありません。撮影中はフォーカスや露出調整で忙しいので、難しい構図の理屈を考えている時間がないのです。唯一、被写体の向きを探して、向いている方向の空間を空けるだけです。
構図で悩んだら、あたまでっかちになった構図理論をぜーんぶ捨てて、向いた方向を空けるだけというシンプルな方法も実践してみてください。ラクーに、自然な構図が身につくと思います。