がんばってね

家内は某大学英米文学科卒で現在は塾の講師をしています。母親も英語塾を開いていたので、小さいときから英語漬けだったようです。しかし、海外で暮らしたことはなく、日本の英語教育で育ち、受験英語に長けています。その殻を破るためか、日常会話での表現をよく質問されます。私の英語はあやしいもので、現地の小学生レベルで、そこから成長していません。的確に応えられるものもあれば、まったく答えられないものもあります。

今日の質問は「がんばってね」でした。

「がんばってね」って英語でなんて言うのか、です。
これは難題ですが昔から様々な人に聞かれて、何度も考察してきた命題なので、的確に答えられます。シェリーのヒバリでHailの日本語訳がないのと同様に、「がんばってね」を一言で表す的確な英語訳は「ない」というのが正解だと思っています。
まずは日本人が何事にも気軽によく使う「がんばってね」を分析する必要があります。

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「がんばってね」とか「がんばってください」はどういう時に使うのか

  • これから大手術に向かう人に
  • 受験しに行く学生に
  • 政治家に
  • アイドルの握手会で
  • 特に意味はなく別れ際に

などなど、日本人は結構頻繁に使います。
しかし、これらは「もっと頑張って仕事しろよ」とか、「もっと勉強しろよ」という意味ではありません。手術は患者が頑張ってもどうしようもないことですし、アイドルはすでに睡眠3時間で頑張っているので、これ以上がんばったら死んでしまいます。ですから、そもそもこういった時に日本人がよく使う「がんばってね」は、「うまく行くことを祈っています」とか、「応援しています」という意味で使われているのでしょう。
したがって、直訳して “Work hard.” なんて言うと誤訳になってしまうケースがほとんどです。

グッドラック

ニュアンスとして日本人が気軽に使う「がんばってね」に一番近いのは、”Good luck.” ではないでしょうか。アメリカ人はこの言葉を大変良く使います。おそらく、日本人が頻繁に使う「がんばってね」と同じくらいの頻度で、同じようなシチュエーションで “Good luck.” を使います。かたや本人の努力を強要するような表現であり、かたや幸運を願う神頼みの表現ですが、言っている人の根底にある感情は同じなのではないでしょうか。

ただし、「がんばってね」の意訳として「Good luck」は的を射ていると思いますが、「Good luck」の訳は必ずしも「がんばってね」ではありません。Good luckの方が使う範囲は広いものです。例えば、アメリカ人は旅行に行く人にGood luckと言いますが、それを日本語の「がんばってね」には訳せません。逆は必ずしも真ならず。1対1に対応しているわけではありません。

それだけではない

もっと言うと、アメリカ人は思ったことをズバズバ言う民族なので、上記のシチュエーションでは結構使う言葉が異なるでしょう。シチュエーションに応じて、”You can do it.” とか、 “Do your best.” 、 “Try everything.” 、 “I’m counting on you.” 、 “I’m your biggest fan.” 、 “Be good.” などといった表現も使われるでしょう。”I’m sure you can make it.” などと断定する表現もよく使われます。シチュエーションによっては、「がんばってね」の英語訳は “I love you.” かもしれません。これらも日本語に直訳するとおかしな表現になってしまいますが、日本語の自然な会話だったら「がんばってね」とか「がんばってください」くらいが妥当な訳になるのでしょう。ですから、「がんばってね」の英訳は、これらすべてが状況によって正解となりうるのです。

「海外帰国子女なのに英語はいつも80点」でも書きましたが、これも私がテストでいつもバツを食らう理由です。和訳も英訳も、いつもシチュエーションを考えて意訳してしまうのです。明日試験だ、という人との別れ際に “I’m sure you can make it.” と言われたら、その和訳は「がんばってね」が正解だと思うのですが、日本の英語のテストではバツなのです。「あなたが合格することを私は確証しています」なんて友達に対して言うわけないじゃないですか。そういう意味を込めて、普通は「がんばってね」と言って送り出すものです。

間違っていないと思うのですが、今さら言っても仕方がありません。

著者
Yama

大学卒業後しばらくは建築設計に従事。その後人工知能の研究所で知的CADシステムやエキスパートシステムを開発。15年ほどプログラマをしていましたが、管理職になるのが嫌で退職。現在は某大学の非常勤講師(情報学)、動物医療系および野鳥写真家、ウェブプログラマ、出版業などをしながら細々と暮らしています。

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