「いただきますって英語で何て言うの」とか「ごちそうさまって英語で何て言うの」とよく聞かれます。日本人だったら一日に何度も使うフレーズなので、海外に行ったら何と言うべきか知りたくなるのは当然です。
以前日本のすばらしい文化である「いただきます」のフレーズを取り上げましたが、世界にはそれに相当する言葉はあるのでしょうか。
何も言わない
実は、「いただきます」や「ごちそうさま」に対応する英語はない、が正解です。
アメリカは多民族国家なので、人種や宗教によって何かお祈りをささげたり様々な風習はありますが、日本人が普通に使う「いただきます」や「ごちそうさま」にぴったりと合う英語訳はないのです。
英語だけではなく、ドイツ語圏のオーストリアにも住んでいましたが、「いただきます」や「ごちそうさま」に該当する言葉は聞いたことがありません。
食事が出されて、Thank you とか Shall we start くらいは言いますが、そのまま何も言わずに食べ始めるのが普通です。
敬虔なクリスチャンだったら家長の長いお祈りがはじまったりしますが、学校のランチタイムやレストランでは見たことがありません。皆雑談をしながらそのまま食べはじめます。最初は違和感を感じますが、それが彼らの文化です。
ヨーロッパも同じでした。出された食事や作ってくれた人に「これから食べるぞ」という宣言は何もせず、普通に会話をしながらバクバク食べはじめます。
ある程度日本で育った日本人基質が染み込んだ人間にとっては大変奇異にみえます。「何で何も言わずに食べはじめるの」という違和感を大いに感じます。外国で外国人と食事をするたびに強く感じますが、逆に食事の度に「いただきます」「ごちそうさま」と言う呪文を発する日本文化の方が世界的には極めて稀なことなようです。
日本人は普段家で食べる朝ごはん、昼ごはん、夜ご飯でも言いますし、会社の忘年会でも、デートの食事でも言います。誰に聞かせるわけではなく、アパートで一人で食べる時だって「いただきます」や「ごちそうさま」はだけは言う人が多いでしょう。何も言わずに食べることに罪悪感を感じます。
翻訳できない
そもそも「いただきます」という言葉は、生き物である植物や動物の命を奪って我々は食べているので、それら犠牲となった動植物に対する感謝の言葉であり、かつそれら食材を美味しい料理という形に仕上げていただいた料理人に対する感謝の言葉です。
そして、「ごちそうさま」も、その大切な命をしっかりと栄養にさせていただきました、という感謝や、美味しい料理を作ってくれた人へのお礼の言葉です。
大変良い言葉であり、食事の度にそれを発する日本文化は素晴らしいと感じています。
しかも、「ごちそうさま」は使われる場面によって多彩な意味として使われます。純粋に食事終わりの言葉だけではなく、おいしかったという意味でも使われますし、もうお腹いっぱいという表現として使われることもあります。支払いをしていただいたお礼にも使います。
さんざんノロケ話を聞かされたときも、もう聞きたくないという意味で「ごちそうさま」なんていう表現をすることもあります。
そんなことを正確に翻訳しようものなら大変な文章になってしまうでしょう。
海外の友人にも聞かれたことがありますが、うまい訳ができなくて困った覚えがあります。日本の文化だと言って逃げるしかありません。
もう癖になっているので、海外でもついつい「いただきます」とか「ごちそうさま」と言ってしまいます。言葉を発してしまうと、何て言ったのか必ず聞かれて面倒なことになるので、できるだけ心の中で言うようにしています。
やっぱり違和感
三つ子の魂百までと言われるように、ひとたび身に付いた風習はなかなか消えるものではありません。海外では言わないように気を付けていても、やはり何も言わずに食べるのは抵抗があります。
数年前に久しぶりにアメリカに行って知り合いのパーティーに呼ばれました。呼ばれた人たちは三々五々適当に集まって談笑しながら「いただきます」も言わずに食べ始めて、食べ終わって「ごちそうさま」も言わずに今度は酒を飲んで談笑しています。それが普通なのです。
アメリカ人的なノリノリな様子で部屋に登場し、親しい友人にはハグしたり、ハイタッチをしたりして、そのまま椅子に座って用意してある食べ物をおもむろにムシャムシャ食べ始める光景をみて、何だか急に可笑しくなって笑ってしまいました。
日本だったら「なんて育ちが悪い人なんだ」と思われる行動ですが、彼らにしてみれば、食べる前と後に変な呪文を唱える日本人の方が奇妙に見えるのでしょう。
違和感ありますが、そういう文化の違いが面白いところです。
他の言語や文化は詳しく調べたわけではありませんので、よくわかりません。他のアジア圏やアフリカ、南米など、自分が知らない国や文化圏にはあるのでしょうか。それとも世界中で日本だけの文化なのでしょうか。
研究テーマとして調べてみると面白いかもしれませんね。
フードロスとSDGs
「いただきます」や「ごちそうさま」を食事の度に発する文化は、個人的には素晴らしい文化だと思いますが、海外でそれが取り上げられているのをあまり見たことがありません。「もったいない」や「おもてなし」の文化は世界で注目され、海外メディアなどで取り上げられたりして世界的に有名なフレーズとなっています。
今度はぜひ「いただきます」や「ごちそうさま」をそのままの言葉で、日本の文化として取り上げてほしいと思います。日本発信の文化の輸出です。
フードロスやSDGs達成のためのキーワードにもなるのではないでしょうか。”Itadakimasu”や”Gochisousama”という言葉がが世界中に広まるといいな。