The value of a man should be seen in what he gives and not in what he is able to receive.
若い頃、このアインシュタインのこの言葉を読んで、感銘を受けました。「人の価値は、その人がどれだけ得られるかではなく、どれだけ与えるかによって測られるべきである」と言ったニュアンスでしょうか。以来、この言葉がずっと脳裏に焼き付いています。
人間、誰しも生きていくためにはお金も必要ですし、住むところも、着るものも必要です。時には贅沢もして、美味しいものも食べたいし、豪邸に住んで、おしゃれに着飾りたいと言う人も多いでしょう。それは否定しません。生物としての本能ですから、正常な感覚なのでしょう。仕事柄、野生動物を見ているとよくわかります。変な言い方をすると、多くの野生動物は虚栄心で生きています。他よりもちょっとでも美しく見られたい、強そうに見せたい、良い声で歌いたい、餌をたくさん採りたい、などと常日頃考え、実践しています。縄張りを広げ、餌を確保し、雌を呼び込み、自分の遺伝子を沢山残す目的です。それが実現できた生物が進化の過程で淘汰されずにすみ、結果的に生き残っているのでしょう。自然界には他者に対する優しさなどというものはありません。自己の利益だけ求めて行動したものが最終的に生き残るのです。
人も生物の端くれですから、虚栄心が強く、他人を蹴落とし、億万長者になって、沢山の子孫を残したいと思うことは、決して悪いことではなく、生物としては正しい流れなのでしょう。
「利己的な遺伝子」という有名な本がありますが、何億年の進化の過程で、生物はそのようにふるまうように造られてきたのです。利己的な遺伝子を持つ個が生き残って繁殖し、利他的な遺伝子を持つ個は淘汰されたのです。したがって、現存する生物はみな利己的に振舞う遺伝子を引き継いでいるのです。それが自然界の掟なのでしょう。遺伝子の立場に立って考えると、一見利他的に見える、親が子を命をかけて守ったり、祖父母がせっかく貯めた老後の資金を孫のために使ったり、と言った行為は結果的には遺伝子を遺すための利己的な振る舞いに帰着します。生物としては自然なのです。
しかし、もっとグローバルな視点で、人としてはどうか、と言うことをアインシュタインは問いかけているのだと思います。生物として利己的なのは良しとしても、人としては利他的な振る舞いがもっと評価されるべきではないか、という訴えだと解釈しています。世の中は、お金や名誉、名声を手に入れた利己的な人間が評価されがちですが、血縁関係もない人のために努力して、与えようとする利他的な人間の方がもっと評価されるべきだということでしょう。
思えば、人間が持つ愛や、優しさ、友情、といったものは、利他的な行動を指す言葉です。見返りを期待せず、他者に利益を与えるだけの感情や行動です。おそらく、これは生物の中で人間だけが持つようになった感情なのではないでしょうか。寄付やボランティアなども、利他的な行動をとれる極めて人間的な活動なのだと思います。「寄生」は一方的に利益を得る関係、「共生」は双方に利益がある関係、それに対して、一方的に利益を与える関係を表す言葉がありません。生物界では、別個体に対しても、別種に対しても、相手に利益を与えるだけの関係というものが存在しないからでしょう。
先日、都内の薬師堂でこんな言葉を見つけました。
もらえば幸せ
あげればもっと幸せ
表現は違いますが、アインシュタインの言葉と根底は同じだと思います。見返りを期待せず、純粋に他人に利益を与える行為を、気持ちが良いと感じたり、うれしいと思えるのは、人間だけに与えられた特権なのでしょう。
こういう考えの人が増えてくれればよいのですが、人間なら誰しもこの感情を持ち合わせているとは限りません。世の中には必ず「得る人」と「与える人」がいます。残念ながら、与える人よりも得る人の方が圧倒的に多く、与える人はごくわずかしか存在しないものです。
こういった感情や考えは年齢とともに変化するかもしれません。多くは、若いころは得る人で、加齢とともに与える人になる傾向があるようです。しかし、中には若いころから与える人が存在します。その人の周りの人たちは皆幸せになります。そういう人が何十人か、何百人の中に一人くらいいます。誰しも、クラスの中や、学校の中、サークルの中、会社の中などで、極めて稀ですが、出会ったことがあるはずです。いわゆる「与える人」です。
親切で優しく、愛情深く、ポジティブで、その人がいるだけで場が明るくなる人です。
しかし、そういう「与える人」は総じて商売や金儲けが下手で、生活は結構厳しかったりします。
アインシュタインはそれを言及しているのでしょう。与える人がもっと評価されても良いのではないかと。
自分ははたしてどうでしょうか。「あげるともっとうれしい」気持ちはよく分かりますが、周りの人に与えているか、と問われるとはなはだ疑問です。
相対性理論を作り上げ、宇宙の謎を解明した物理学者から出た言葉であることが興味深いところです。きっと、博士の周りには、彼の才能を利用しようとする利己的な人間がたくさん集まってきたのでしょう。彼の言葉からは、それに閉口する様子が伺えます。宇宙の謎よりも、人の営みの方がアインシュタインにとっては理解しがたいことだったのかもしれません。
ゲーテも200年前から同じようなことを言ってました。
利己的でない好意的な行いが、もっとも高い最も美しい利子をもたらす。
自分も、得る人間ではなく、与える人間になりたい、と思いつつ、未だ修業が足りないと痛感する今日この頃です。
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