ウィーンのアメリカンインターナショナルスクール(AIS)では、ウィーンという土地柄なのか、音楽と物理を混ぜたような面白い授業がありました。
座学
音階の仕組みを習います。これは完全に物理の世界です。弦の長さを変えるとどうなるか、弦の質量を変えるとどうなるか、張力を変えるとどう変化するかを様々な実験装置で見せられます。気柱も長さによって音程が変わることや倍音の出方が変わることを教わります。中学生の内容としてはいささか高度な内容でしたが、実験装置で体感できるので、理解できました。
そして様々な楽器の紹介です。チェンバロ、ピアノ、ギター、バイオリン、パイプオルガン、フルートなど、どのように音階を出しているのかを座学で勉強します。
それで終わらないところがこの授業のすごいところです。
楽器の製作
何と、その後オリジナルの楽器を作れというのです。材料は何を使っても良く、最終的に「メリーさんの羊」を演奏するという課題です。
実に面白い。
中学生レベルですから、新しいタイプの楽器を創造するなどということは到底できません。見よう見まねで、ギターっぽいもの、琴っぽいもの、笛っぽいものなどをそれぞれ作って来て、1人ずつクラスの前でメリーさんの羊を演奏するのです。
それでも弦の長さを変える方式、張力を変える方式、気柱の長さを変える方式など各自工夫して制作します。
自分は廃物利用の木の箱に棒を付けてギターっぽいものを作りました。
メリーさんの羊
課題曲がメリーさんの羊なところも絶妙です。そもそもエジソンが世界ではじめて録音に成功した有名な曲ですし、ドレミソの4つの音階が表現できれば演奏できる曲です。素人が作った楽器で演奏するにはうってつけです。
弦楽器でしたら、1本の弦で4つのフレットを作ればドレミソっぽい音階を作れますし、張力を変化させるタイプの楽器でも何とかそれっぽく演奏できるでしょう。
シンプルなものには、棒に1本弦を張っただけのもの、筒に鉛筆を突っ込んだだけのもの(鉛筆の出し入れで気柱の長さを変える)、バケツをひっくり返して脇に立てた長い棒とバケツの中央に穴を空けて棒の先端と弦で結んだもの(ウォッシュタブベース)など、それぞれ個性あふれる楽器を作って来て、何とかメリーさんの羊を奏でるのです。自分が作ったギターもどきは4本の弦で、ドレミソだけが出る楽器でした。うまくても下手でも拍手喝采で終わります。中学生ですから、響版や音響学的な配慮はまったくなく、ほとんど聞こえないような小さな音だったり、チューニングがめちゃくちゃだったりしますが、いいのです。
これも強烈な印象で、50年以上経った今でも鮮明に覚えています。とにかく自分で調べて、考えて、材料を調達して、組み上げて、練習して発表するという授業内容です。みんな楽しみながら一生懸命に取り組んでいました。こういう授業を行いたいものです。