Nikon D500での野鳥撮影

待望のDXフォーマットのフラグシップ

ニコンのデジタル一眼レフカメラは、D1系、D2系まではニコンがDXフォーマットと呼称するAPS-Cサイズのイメージセンサーを採用していましたが、D3からFXフォーマットと称するフルサイズのイメージセンサーに移行してしまいました。

D1x、D2xsと使ってきましたが、DXフォーマットの方が自分の仕事には断然有利でした。医療カメラマンとして、動物の手術シーンや眼科撮影をするには、DXフォーマットであるが故に、術創に近づかずにより遠くから撮影できたり、目が小さい動物もより拡大されるのです。望遠撮影も、マクロ撮影も、FXフォーマットの1.5倍の優位性があります。

D2xsの後継機D3がFXフォーマットになってしまったため、しばらく待ってD300sを入手しました。これも良いカメラでしたが、6年間使い、メーカー公表のシャッターカウントをはるかに超えると不安になり、どうしようかと悩んでいました。
そこへD500発売のアナウンスです。満を持して発売された、ニコンDXフォーマットのフラグシップという位置づけで、望遠系、マクロ系写真がメインの人々にとっては、ずっと待ち望んでいたスペックのカメラでした。

実際使用してみて、長らく待たされただけあります。歴代DXフォーマットカメラと比較すると、かなり進化していることがわかりました。

野鳥写真家として気になるカメラのスペックは、露出とフォーカスです。それ以外はどうにでもなるのですが、露出とフォーカスだけはカメラの性能に依存する割合が大きいため、カタログスペックだけではなく、実際にフィールドで使用した感覚が大変重要です。

露出

D500にはハイライト重点測光が搭載されています。写真を仕事としている多くの人が最も恐れているのは、白飛びではないでしょうか。フィルム時代は多少のごまかしが効きましたが、デジタル時代になって、白飛びは致命的です。黒つぶれは多少救済できることはあっても、RGBが255になってしまった白飛びは、ボツにするしかありません。そのため、プロカメラマンは常に若干アンダー目に撮ったり、ブラケット撮影をするようになりました。
ハイライト重点測光は、画面上の明るいハイライト部を重点的に測光するので、白飛びしにくくなりました。
しかし、これも万能ではなく、暗い背景のシラサギは飛びますし、曇り空バックの野鳥は黒つぶれします。ハイライト重点測光でも定石通り、被写体と背景の明暗差を加味して、経験則から露出補正をする必要があります。
シラサギ類を撮影するときは-1以下、青空背景の場合は0付近、曇り空背景の場合は+1以上に補正します。
野鳥撮影において、ハイライト重点測光に優位性があるかどうか、判定は微妙です。ハイライト重点測光の測光範囲がよくわかりません。マニュアルにも記載がないのですが、どうもスポット測光の測光範囲よりも広い範囲を測光しているような印象を受けます。思っている動きにならないことが多いので、最近はスポット測光と併用しています。状況によってはスポット測光の方が安定することもあります。
カメラ側が何を撮ろうとしているのか認識できない以上、いずれの測光モードも万能ではなく、一長一短があります。要はそのモードで使い慣れると癖がわかるので、補正もしやすくなります。何も考えずにシャッターを押せば撮りたいものに露出がドンピシャにあうというものは未だできていないので、まだまだ撮影者の経験と勘がものを言います。

露出に関してだけは、撮影前に過不足が分かるミラーレス一眼の方が直感的でわかりやすいでしょう。シラサギの露出が白飛びしているかどうかは、ミラーレスならファインダーで確認できますが、一眼レフだと撮ってから画像を確認するまでわかりません。
将来的にはカメラが被写体を分析し、「この人は鳥を撮ろうとしているのだ」と認識して、鳥の露出が最適になるように露出決定をするようになるかもしれません。いずれにしてもそのような機構は一眼レフよりも、ミラーレス一眼の方が可能性を秘めているでしょう。

感度

ISO 1,640,000相当まで使えるという触れ込みでしたが、さすがにこれはかろうじて写る緊急用で、常用感度は51200までです。それでも許される画質かというと、人それぞれ基準が異なるので、ISOいくつまで許容できるかは個人の判断になります。

Exposure Time : 1/800
F Number : 8.0
Exposure Program : Manual
ISO : 900

それでもフィルム時代に比べたら圧倒的な高感度で、それまで撮影不可能だったものが可能になりました。これは素晴らしいことです。
しかし、数あるカメラの中で、D500が特別に高感度耐性があるとか、ノイズが少ないというものでもありません。どんな場合でも低感度で撮った画像の方が優れていますし、 物理的に 面積が広いフルサイズにはかなわないでしょう。
仕事で眼科以外の医療写真を撮る時は基本的にISO 100固定です。野鳥写真の場合はISOオートにしてますが、可能であれば、ISO 6400以下になるように絞りとシャッター速度を調整しています。絞り開放、シャッター速度を手持ち低速限界にしてもISOが6400以上になったら、撮影終了の基準にしています。その状況で撮影しても使える写真にならないからです。

カレンダーの仕事など、B4以上の出力に対応する場合は、ISO 1000以下を基準としています。絞り開放、シャッター速度を手持ち限界速度にしてもISO 1000を超える暗さになったら撮影終了です。

フォーカス

D5のフォーカシングユニットをそのまま使っているようです。D300sとの比較では、体感的には速く、かつ迷いが少なくなった気がします。フルサイズ用のフォーカシングユニットの流用なので、DXフォーマットでは、153点のフォーカシングポイントが、ほぼ画面全体にあるような感覚です。空背景の飛翔写真などでは、かなり有利になりました。

フォーカスモード

シングルモードとコンティニアスモードがありますが、野鳥撮影では、よほど特殊なシチュエーションでない限り、コンティニアスモードで使用します。

AFエリアモード

この設定が一番悩むところだと思います。色々試しましたが、やはり万能なモードはなく、状況に応じて適宜変更する必要があります。
個人的には、通常はグループエリアAF にしていて、ファンクションキーで、シングルポイントAFもしくはダイナミック25点と、オートエリアAF に切り替えられるように設定しています。シングルポイントAFやダイナミック25点はブッシュの中の鳥を写す場合や、周りに障害物が多い時に使います。
オートエリアAFは空や水背景の飛翔シーンを撮る時に使います。いずれも撮影中に設定し直す時間はないので、ファンクションキーを押すだけで切り替わるようにしておくと瞬時に切り替わるので重宝します。

バッテリー

D1系、D2系の頃から比べると、格段に進化しています。
Nikonのサイトでは、バッテリー EN-EL15 で、公称1240枚となっていますが、私の使い方では3千枚ほど撮れます。本体に1つバッテリーを入れ、 マルチパワーバッテリーパックに1つ入れていますが、 マルチパワーバッテリーパックの電池のみ交換する使い方です。野鳥撮影では、1日5千枚ほど撮ることがありますが、その位であれば マルチパワーバッテリーパックの電池を一度交換するだけで済みます。一眼レフなので、待機中の電力はほとんど消費しないのでしょう。ミラーレスだとこうはいかないと思います。
本体+ マルチパワーバッテリーパック内に1つずつ入れ、念のため予備に2つ持って行きますが、予備の2つ目を使ったことはありません。
ただし、Bluetoothをオンにするとバッテリー消費が激しくなります。

マルチパワーバッテリーパック

私の場合は仕事での使用が前提なので、上に書いたように、 マルチパワーバッテリーパックは必須です。医療カメラマンとしては、手術は待ってくれませんし、野鳥写真家としても鳥は待ってくれません。可能な限りバッテリー交換をしなくて済むように準備しておくことが肝心です。
個人的には大柄な人間なので、 マルチパワーバッテリーパックがあった方が手になじむ大きさになります。手が小さい人にはカメラが一回り大きくなってしまいますので、きびしいかもしれません。
純正の マルチパワーバッテリーパック( MB-D17 )はしっかり固定でき、ボディと一体化されます。がたつきなどは全くなく、剛性感が高い作りです。縦位置のシャッターボタンもあり、大変便利です。

マルチパワーバッテリーパック の電池から消費するように設定しておくと、ボディのバッテリーはほとんど消費しないので、 マルチパワーバッテリーパックの電池を交換するだけで済むようになります。ボディのバッテリーよりも マルチパワーバッテリーパックのバッテリーの方が圧倒的に交換しやすいので、ハードなユーザーにはおすすめです。

いざという時のために単三電池ホルダーも買ってあります。緊急時に単三電池8本でカメラを駆動できます。何らかの原因で充電バッテリーが使えない場合、コンビニに走れば撮影を続けることが可能です。

L型プレート

医療カメラマンとして使う時はストロボブラケットを付けるためにクイックシューが必要となります。野鳥写真家としては普段は手持ちですが、稀に一脚を使用することがあり、その際もクイックシューが必要となります。その他、商品撮影やモデル撮影などの時は三脚に固定する必要があります。
様々な機材に取り付けるため、クイックシューはすべてアルカスイス互換にしています。D500は前述のように マルチパワーバッテリーパックも付けているので、 マルチパワーバッテリーパックにも対応したアルカスイス互換のL型プレートが必要になりました。
D500のようなメジャーなプロ用機種ですと、ちゃんと作ってくれている会社がありました。早速購入して、以来、ずっと付けっ放しです。 マルチパワーバッテリーパックの電池交換もスムーズにでき、本体の左側にあるコネクタ類のアクセスも問題ないように作られています。横位置、縦位置ともアルカスイス互換のプレートになっていて、どちらの方向でもクイックシューに取り付けられます。剛性も問題ありません。

大きさ、重さ、ホールド性

身長180cmオーバー、体重80kgオーバーの自分にとっては程よいサイズ感であり、大きさも重さも苦になりません。D1系、D2系を使ってきたので、D500はむしろ小型軽量すぎて、心許ない感じがするほどです。しかし、女性や腕力に自信がない人にとっては、これに超望遠レンズをつけたセットを手持ちで使うのはいささかしんどいかもしれません。
マルチパワーバッテリーパック MB-D17やアルカスイス互換のL型ブラケットなどを装着して、D500単体よりもかなり大きく膨れ上がっていますが、個人的にはそのくらいが適度な大きさと重さで、手にしっくりとフィットします。

不満点

D500の問題なのか、タブレット、もしくはアプリの問題なのか分かりませんが、Snapbridgeのつながりがあまりうまくいきません。快適につながることもあれば、まったくつながらないこともあります。つながっても、途中で切れることがしばしばあります。バッテリー消費も激しいので、現在はBluetoothをオフにしています。私の環境ではどうも安定しないようです。

総論

総合的に、野鳥など、動きがある被写体を撮影するカメラとしては、これ以上ない、最高のスペックだと思います。体力と価格に問題がなければ、イチオシの一眼レフカメラです。

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Nikon デジタル一眼レフカメラ D500 ボディ

Nikon マルチパワーバッテリーパック MB-D17

追記1

2018年4月、シャッターカウント13万枚でシャッターが切れなくなりました。サービスステーションに持って行ったらシャッターユニット交換となりました。Nikonの公称値なのかどうかわかりませんが、調べると「20万回のテストをクリア」と書いてあるので、13万回で壊れたのはちょっと早いように思いますが、許容範囲なのでしょう。その間、撮影の仕事はそれまで使っていたD300sを復活させてしのぎました。
修理は思ったよりも早く、1週間ほどで治りました。

2020年7月12日に撮影した画像のEXIF情報を見ると、シャッターカウントが409010となっているので、シャッターユニット交換後、28万枚撮っていることになります。その間、まったく問題なく、快調です。
しかし、公称値の20万回を大きく超えているので、重要な撮影ではZ50をサブ機として持って行っています。小型で軽いので、FTZ付きでもカメラバッグの隙間にちょうど入ります。

追記2

2021年末のZ9発売に伴い、全面的にミラーレスに移行することにしました。いよいよ一眼レフの時代が終わりを告げようとしています。しばらくは共存するでしょうが、近い将来、各カメラメーカーは一眼レフの製造を終えることでしょう。40年以上一眼レフを使い続けてきたので大変残念な思いですが、時代の流れに従わざるを得ません。

追記3

Z9を使い始めると、あまりの出来の良さにD500は引退となりました。動体の捕捉はまだD500の方が良さそうですが、Z9のファームアップに期待しています。
完全電子シャッターとなったため、壊れる部品がほとんどなくなりました。シャッターカウントを気にしなくて済むのは精神的に楽です。
本職の医療写真も、副業の野鳥撮影もZ9ですべてこなせるようになりました。
長年使ったD500は愛着があるので、永久保存します。

著者
Yama

大学卒業後しばらくは建築設計に従事。その後人工知能の研究所で知的CADシステムやエキスパートシステムを開発。15年ほどプログラマをしていましたが、管理職になるのが嫌で退職。現在は某大学の非常勤講師(情報学)、動物医療系および野鳥写真家、ウェブプログラマ、出版業などをしながら細々と暮らしています。

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