球のこと

およそ世の中で球ほど美しい物はない

山内 昭

ものごころついた頃から何故か球に魅了され、幼稚園児のころから近所の鉄くず屋さんの周辺から落ちている球を拾って集めていた記憶があります。今考えると、大型機械のベアリングの球だったのか、直径3cmほどの鉄の球が結構落ちていました。当時は砂利道だったので道に球が落ちていても大して問題にならなかったのでしょう。砂利道に埋まり込んだ錆びた球をほじくり出しては持って帰って磨いて、おもちゃ箱に保管していたのを覚えています。そのころから球のコレクションがはじまり、球にどんどん魅了されて行きます。

ベアリング球、パチンコ玉、ビー玉、ラムネ瓶の詮など、硬い材質の球でないと心踊らず、なぜか柔らかいボールにはさほど興味がわきません。また、球の精度が高いほど萌えます。

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コレクション紹介

異なる材質や径が違う球をみつけるとついつい欲しくなってしまいます。

木の球

集成材を加工した球。精度も高く、美しい球です。一目ぼれしました。

石の球

直径100mmの石の球。なぜか近所の百均で売っていました。迷わず購入。

ガラスの球

ガラスの球です。直径100mmを超えるサイズなので、かなり重量があります。
あるショップの閉店セールでこれも100円でした。

同じショップで売っていたカットバージョンです。型では作れないと思いますので、真球を製作した後、カットして製作したものと思われます。これも100円でしたが、元はかなり高価なものだったのではないでしょうか。製作者のこだわりを感じます。

金属の球

球を作る日本の技術は世界一だそうです。歪みのない真球は見ているだけでほれぼれします。左はクロームメッキ、右は金メッキの金属球です。

天体

中学生になると当然のように天体に興味を持ちます。ほとんどの天体は球ですから。口径100mmのニュートン式反射望遠鏡を買ってもらい、夜な夜な月や惑星を眺めていました。巨大な球というだけでワクワクしたものです。特に木星や土星は、いかにも球が漆黒の宇宙空間に浮いているように見え、ずっと眺めていたい衝動にかられます。

小学生のころから写真は撮っていたので、もちろん天体写真にも興味を持ちました。しかし、当時はまだフィルムの時代で、写真屋さんに現像に出しても、思うように焼き付けまでできず、あきらめてしまった思い出があります。自動現像機だと暗いと判断され、やたらと明るい写真に焼き付けられてしまいます。背景が黒くなるように手焼きで指定すればそれなりに仕上がりますが、何倍も費用がかかってしまうので、学生の身分であまり試験的撮影などできなかった時代です。今ならデジタルなので、思う存分試行錯誤ができますが、当時は写真を撮るということは結構大変だったのです。

ケプラー予想

高校の化学で結晶構造を習います。そこで出会うのが泣く子も黙る「六方最密充填構造」です。名前も素敵ですね。「六方最密充填」ですよ。しかし、これを習った1970年代は、まだ「最密」とうたってはいけないと言うことも知ります。この時代では、六方「最密かもしれない」充填構造と言わなければならなかったはずです。なぜなら、まだこの構造が「最密」だと証明されていなかったからです。

そんなことから必然的に球の充填構造に興味を持ちます。調べると、これはケプラー予想という問題に行き着きます。ケプラーは、今から約400年前の天才数学者であり、天文学者です。

400年ほど前のある日、彼は文通相手が知り合いの船乗りから相談を受けたという話を聞きます。「船底に砲弾を効率よく積むにはどうしたらよいか」と。当時は海賊が横行していたので、商船も身を守るために大砲と球形の砲弾を大量に積んでいました。彼は直感的に「八百屋さんが丸いフルーツを積む方法だ」と答えます。それがケプラー予想の始まりだと言われています。数学の世界では、証明されない限り定理とは呼ばず、「予想」と呼びます。八百屋さんがフルーツを積む方法は、それが最も効率的な充填構造であるかどうかは証明されていなかったので、ケプラー予想と呼びます。

八百屋さんの丸いフルーツの積み方

400年前にどんなフルーツを扱っていたのかわかりませんが、オレンジを思い浮かべてみましょう。3個のオレンジをぴったりくっつけて正三角形を作ります。その中央の窪みにオレンジを乗せると安定します。それを連続すると三角錐状に積み上げることができ、崩れることなくしっかりした構造を保てます。これがケプラーの言う八百屋さんが丸いフルーツを積む方法です。確かにこれ以上密に積む方法は無いように思えます。しかし、証明されない限り、最蜜とうたってはいけないのです。箱にパチンコ玉を入れて、ガチャガチャと何万回か振ってみると、ケプラー予想よりも充填効率が良い詰まり方になるかもしれないのです。

ヒルベルトの23の問題

実はこの問題はケプラーが予想してから400年間様々な数学者が証明しようとして挫折しています。ケプラー予想に取り憑かれ、人生を棒にふった数学者もいたでしょう。しかし、誰も成功しませんでした。

20世紀から21世紀に移行するときにミレニアムとして人々がフィーバーしたように、100年前に19世紀から20世紀に移行するときも大騒ぎがあったそうです。その時に当時の有名な数学者ヒルベルトは1900年にパリで行われた国際数学者会議から ミレニアム公演を依頼されます。彼は数学界の重要な未解決の23の問題を発表し、20世紀に解決するよう促したのです。この公演が大変話題となり、事実、世界中の数学者たちは20世紀中に解決すべく動き始めたのです。20世紀の目覚ましい数学の発展は、ヒルベルトのこの公演のおかげだったと言っても過言ではないでしょう。ヒルベルトの23の問題を解決するために、この100年で新しい数学や考え方が次々と生まれました。

23の問題は、一般人には難解なものも多いのですが、いくつかは日常的な問題で、一般の人も理解できるけど単に証明するのが極めて困難であるという問題も含まれています。ケプラー予想もその中の一つです。問題は簡単に理解できるけど、証明しようと思うと途方に暮れてしまうパターンの代表です。
八百屋さんがオレンジを積む方法が一番充填効率が高いのか、もっと充填できる詰め込み方があるのか、20世紀の数学者たちは挑戦しました。

ケプラー予想の他に問題自体は簡単に理解できるものとして有名なものは、四色問題やフェルマーの最終定理などがあります。

四色問題はどんな地図でも隣り合う境界を挟んで同じ色にならないように塗り分けるには4色あれば十分であるということの証明です。これも400年以上前から地図を制作していた人たちは知っていましたが、誰も証明できませんでした。4色あれば十分であることを証明するか、5色以上必要となるパターンを見つけることがこの問題の決着になります。

フェルマーの最終定理も有名で、本来これも当時は証明されていなかったので、「定理」と呼ぶのは間違っていて、フェルマー予想と呼ばれるべきでした。しかし、フェルマー自身は本の余白に「この定理の証明のための素晴らしい方法を思いついたが、それを書くにはこの余白は小さすぎる」と書き残したまま亡くなってしまいます。これは有名なエピソードとして語り継がれ、20世紀の数学者たちを大いに刺激しました。そして1995年、ワイルズによって20世紀中に見事に証明されます。
フェルマーの最終定理は、「3 以上の自然数n について、xn + yn = zn となる自然数の組 (xyz) は存在しない」という中学生にも理解できる単純明快な問題です。しかし、証明には300年以上かかりました。

いずれも20世紀の終わりぎりぎりに証明されました。しかし、ケプラー予想や四色問題は一部でコンピュータを使って証明しているので、数学者によってはそれらを証明と認めていない人もいます。私も同感です。未だ別のアプローチで証明しようと試みている人もいます。数学の証明は純粋に数学的論理だけでなされるべきです。

キッシング問題

ケプラー予想を証明するための途中段階で生まれたのがツウェルブキッシング(Twelve kissing)問題と言われている問題です。一つの球に同じ半径の球が同時にいくつ接する(キスする)ことができるかを問う問題です。六方最密充填構造の球は、1つの球に12個の球が接しています。12が最大なのか、13個接するのは不可能なのか。それを解明することがケプラー予想の証明の糸口になると信じられて、随分と研究されました。

平面だと一つの球に6個同時に接することができます。中心がある6角形です。中央の球の周りの3箇所の凹みに球を置くと、その3個の球も中央の球に接します。これで9個です。裏側にも同様に3個の球を中央の球に接して配置できるので、合計で12個同時にキスすることができます。

1つの球に12個接する方法は上記のパターンしかないのでしょうか。パターンとしては、上記最後の3つを60度回転した配置がありますので2パターンあることは古くから知られていました。
もっと根本的に異なる配置ではどうでしょうか。様々な試行錯誤が行われて、まったく別のパターンで12個の球が1つの球にキスするパターンが発見されました。それがダーティー・ツウェルブ(Dirty Twelve)もしくはダーティ・ダズン(Dirty Dozen)と呼ばれる配置です。

ダーティー・ツウェルブ(Dirty Twelve)

3つの球を直線状に並べて、その窪み2ヵ所にぐるっと一周5つの球を並べたイメージ。
中央の球には12個の球が接している

まず、3つの球を1直線上に並べます。中央の球と両端の球と接してる2ヵ所の周囲にぐるっと直線状に並んだ2つの球に接するようにぐるっと一周配置すると、円環状に5つずつ配置できます。中央の球から見ると、最初の直線状に接している2つと、円環状に5個並んだものが2セットできるので、計12個接していることになります。

2列の円環状に並んだ5つの球

一見、きれいに並んでいるように見えますが、円環状に並んだ球はぴったり収まらず、1か所微妙に隙間が空きます。どうにも気持ち悪い隙間ができてしまうのです。そのため、ダーティー・ツウェルブと呼ばれています。しかし、ダーティー・ツウェルブは上記の六法最密充填構造以外の方法で中央の球に同時に同一半径の12個の球が接することができることを示す貴重な例なのです。

微妙に空いた隙間

ダーティなどと不名誉な名前を付けられていますが、個人的にはかなり気に入っているパターンです。最初にこれを見て理解したときは衝撃的でした。

π、円、球

πの魅力とともに、円や球にはまだまだ秘密が隠されています。数学者のみならず、人々を魅了する魔力があるのです。理屈ではなく、単純にこの世で最も美しい数字や形状だからなのはないでしょうか。

ケプラー予想にご興味がある方にはこの本をおすすめします。400年間数学者たちを虜にしてきた難問が解決に至るまでのストーリーです。
著者
Yama

大学卒業後しばらくは建築設計に従事。その後人工知能の研究所で知的CADシステムやエキスパートシステムを開発。15年ほどプログラマをしていましたが、出世するのが嫌で退職。現在は大学非常勤講師(情報学)、動物医療系および野鳥写真家、ウェブプログラマ、出版業などをしながら細々と暮らしています。

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