Z9+NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S:レビュー(総論)

NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S、通称ハチロクサンが手持ち野鳥撮影レンズとして最強だと思っていましたが、1年半使用して一つだけ自分の使用状況で歯がゆい点が露呈してきました。

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最短撮影距離

遠くの野鳥を撮影するには、800mmは圧倒的に有利なのですが、様々なフィールドで使っていると、野鳥は必ずしも遠くにいるだけではなく、都市公園などでは人馴れした野鳥が数メートル先に出現することがあります。特に渡り鳥などでは、渡ってきた直後は警戒心が強く、あまり近づけませんが、徐々に馴れてくると驚くほど近くまで寄ってくることがあります。
ハチロクサンの最短撮影距離が5mなので、近すぎる野鳥にピントが合わずに悔しい思いをする事態がよく発生します。離れようにも都市部の公園は通路が狭く、公園によってはそれ以上下がれないことも多いのです。泣く泣く断念せざるを得ないシチュエーションに陥ります。

野鳥のプライベートゾーン4m仮説

近い野鳥はハチロクサンの最短撮影距離でピントが合わないので、5m以下ですが、目測では4m以上であり、一般にはそれ以上近づいて来ることはありません。最短撮影距離があと数十cm短ければ撮れそうなのに、と思う微妙な距離です。
渡り鳥たちと数か月対峙していると、人間は悪さはしないということを認識してくれるようですが、どんなに馴れても野鳥たちのパーソナルスペースは概ね4mではないかと思っています。
AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR(ゴーヨン)を使っていた時は、野鳥が近すぎてピントが合わなかったことはありません。ゴーヨンの最短撮影距離は3.6mなので、どんなに馴れた野鳥でも、自分が普段撮影しているフィールドでは3.6m以上、5m以下だったということなのでしょう。そこから推測しても馴れた野鳥たちのパーソナルスペースは半径4m程度という線は概ね正解ではないでしょうか。

ロクロクサン

Nikonが2023年末に発売したNIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sは、まさにこの問題を解決してくれる仕様でした。最短撮影距離がピッタリ4mです。まさに野鳥撮影用に設計されたレンズのようです。公園によってはこの最短撮影距離の1mの差は大きく、撮影可能か不可能かを分ける大きな違いとなります。

野鳥が遠い公園や渡り直後でまだ警戒心が強い野鳥はハチロクサン、野鳥が近い公園や馴れてきた野鳥はロクロクサン、と使い分けることができます。

レンズ500mm f/4600mm f/6.3800mm f/6.3
最短撮影距離
(m)
3.645
撮影倍率0.150.150.16

撮影倍率

500mm、600mm、800mmのレンズは、当然画角は異なりますが、最短撮影距離が異なりますので、実は上の表のように撮影倍率はほぼ同じになります。

つまり、3.6m離れて500mmで撮影、4m離れて600mmで撮影、5m離れて800mmで撮影で、写る鳥の大きさがほぼ同じになります。

0.15倍の撮影倍率とはどのくらいでしょうか。FXフォーマットは36×24mmですから、最短撮影距離で最大撮影倍率時は240×160mmの範囲に相当します。DXフォーマットでは、160×107mmの範囲が画面いっぱいに写ることになります。
スズメサイズの全長が150mmほどですから、DXフォーマットでは画面ぎりぎりいっぱい、FXフォーマットで多少余裕がある構図になります。

遠方の鳥を大きく写すためには焦点距離が長いほど有利になりますが、近距離の鳥を写すためには、撮影の可否を含めると焦点距離ではなく、最短撮影距離が短いほど有利になります。

重量

ペットショップで犬や猫を見ているときに、店員さんに「抱いてみます~?」と言われて抱いたらおしまいだ、と言われています。「やっぱりいらない」と言ってケージに戻すのは心が痛みます。
Nikonのショールームでも同じようなことが起きました。展示されていたロクロクサンの前に立って悩んでいたら、さわやかなお兄さんがやって来て「持ってみます~?」と言われてついつい持ってしまいました。これでアウトです。軽い軽い。体感的にはハチロクサンの半分くらいの感覚です。

位相フレネルレンズを使ったZレンズとして2本目となるロクロクサンは、とにかく夢のように軽いのです。焦点距離が違うので当然ですが、その差を考えても下表のように、軽いと言われていたハチロクサンよりも圧倒的にコンパクトで軽い印象です。

レンズ500mm f/4600mm f/6.3800mm f/6.3
全長 387mm 278mm 385mm
最大径 140mm 106.5mm 140mm
重量 3090g 1470g 2385g

サイズ感

焦点距離800mmなのに全長385mmしかないハチロクサンも十分コンパクトですが、焦点距離600mmなのに全長278mmしかないロクロクサンも驚異的です。どちらも焦点距離の半分以下ですが、絶対値として278mmのロクロクサンがとにかくコンパクトに見えます。A4コピー用紙の長辺が297mmですから、それよりも短いのです。直径も10㎝程度ですから、女性でも無理なく持てる大きさです。

70-200ズームやFマウントの500mm f/5.6と同等なサイズ感です。とても焦点距離600mmの超望遠レンズには見えないでしょう。

VR

F6.3ですから、確かに明るいレンズではありません。小型軽量化を実現するために明るさが犠牲になっていることは否めません。望遠鏡と同様、光学的な分解能は口径に比例するので、同じ焦点距離であればF4やF5.6よりは低くなりますが、明るくすれば必然的に大きく重くなりますので、どこに着地点を設けるかがメーカーの手腕の見せ所です。Nikonにはすでに600mm F4があるので、性格付けとして小型軽量化に徹底した600mmのF6.3は良い落としどころだったと思います。

その小型軽量化で犠牲になった暗さを補うべく、5.5段分の手ブレ補正機構が内蔵されています。しかもZ9やZ8などのシンクロVR対応カメラではボディ内の手ブレ補正機構との相乗効果で6段分の手ブレ補正効果が期待できます。
600mmなので、シャッター速度1/600秒を基準とすると、6段分で約1/10秒まで手持ち撮影できるということです。
現実的には被写体ブレがあるので、野鳥を1/10秒のシャッター速度で撮ることはありません。被写体ブレを考慮すると、せいぜい1/60秒から1/100秒くらいが限界ですが、手ブレ補正の低速限界がそれよりも遥かにスローシャッターに対応しているので、安心感があります。

ロクロクサンは小型軽量な上、6段分のVRを備え、これは「ぜひ手持ちで使ってくれ」とうったえています。三脚なんか使ったらダイナシです。気軽に持ち歩いて、野鳥を見つけたらサッと向けて手持ちで撮ることができる600mm超望遠レンズなのです。

そういう観点から見ると、ハチロクサン、ロクロクサンは新しい撮影スタイルを提案する新ジャンルの超望遠レンズなのでしょう。10年前は誰も予想できなかったレンズです。

解像度

単焦点は開放から安心して使えます。位相フレネルレンズの利点を最大限に引き出し、軸上色収差や倍率色収差を徹底的に除去しているようで、パープルフリンジなどは皆無です。

レンズ構成 14群21枚(EDレンズ2枚、SRレンズ1枚、PFレンズ1枚、ナノクリスタルコートあり、最前面のレンズ面にフッ素コートあり) からも想像できる通り、Nikonが最新技術の粋を集めて開発したレンズであることがうかがえます。
ウェブサイトのMTF曲線を見てもすべての線が天井に貼りつかんばかりの勢いで、中心から周辺まで高解像度、高コントラストを維持していることが分かります。

購入

先程のショウルームで「持ってみます~?」の後、仕事の合間だったので持参したZ50を付けて試写させてもらいました。何と、ショウルームに置いてあった撮影テスト用ターゲットが紅石さんのカワセミとハクセキレイでした。運命的なものを感じました。みなさん考えることは同じなようです。

ショウルームでサイズ感、重量、最短撮影距離やAF速度などを確認して、家に帰ってZ50で撮影した画像を確認しました。

さすがSラインのレンズです。解像感はハチロクサンと同等でした。最短撮影距離の優位性だけでも購入する価値があると思いました。

しかし、強気の価格設定です。2本買う余裕はありません。
まずは、最近ハチロクサンを3日以上連続使用すると背筋痛と肩こりを訴えていた家内用に1本購入してみました。

フィルター

高額なレンズなので、前玉むき出しで使うのはいささか不安です。ハチロクサンは前面にフィルター取り付け不可ですが、ロクロクサンは95mm径のフィルターを装着できます。
念のためプロテクションフィルターを付けます。せっかくNikonがこだわりぬいて作り上げた光学系なので、下手なフィルターを付けてダイナシにしたくありません。ここも手を抜かずNikonがこだわりぬいて作ったARCREST一択です。しかし、フィルターの価格としてはちょっとびっくりするほど高価です。でも仕方ありません。
これで、今後光学性能に何か不満点が出ても、「フィルターのせいかも」という疑いを除外できます。世の中にこれ以上のフィルターはないので。

ちょっと残念な点

レンズストラップ取り付け金具がないことです。ハチロクサンにはついていたのですが、ロクロクサンでは廃止されていました。
軽いからいらない、と判断されたのかもしれませんが、いくら軽いと言っても1.4kgほどあるので、ボディのマウントだけでぶら下げるのはいささか気になります。NikonのZマウントの強度に対する自信の現れなのかもしれませんが、Z8や、もっと小型のZ50やZ30で使う人もいると思います。ボディのストラップだけで、マウントを介して1.4kgのレンズをぶら下げるのはかなり不安です。いずれにしてもサイズ的にも重量的にもボディよりもレンズの方が大きく重いので、レンズを主と考えた方が安心です。
いくら小型軽量であっても、600mmの超望遠レンズなのですから、ボディにレンズを付けるよりも、レンズにボディを付けるイメージです。

仕方がないのでレンズフットにストラップ取り付けホール付きのプレートを付けて対応していますが、ぶら下げたときのバランスはあまりよくありません。コストの問題なのか、社内基準があるのかわかりませんが、ストラップ取付金具はあったほうが良かったと思います。

総評

総合的には、さすがNikonとうならせられました。ツボをおさえています。
現状、600mmの焦点距離が必要な場合は、NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR、NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S、NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sの3本の選択肢があります。一部の人以外、それほど需要が高いとは思えない600mmの超望遠レンズが3本もあるのです。
しかし、それぞれに明確な性格付けがされていて、用途に応じて選べるようになっています。人によっては複数のレンズを所有して、状況に応じて使い分けているかもしれません。600mmの超望遠レンズを買うような人は初心者ではなく、ハイアマチュア以上の人でしょう。それぞれのレンズの性格もきちんと把握して、自分にとって必要な最適解が求まるようになっています。

中でもロクロクサンはとにかく小型軽量化の方向に振った設計で、性格付けが極めて明確です。
全長が30㎝以下、重量1.4kg、三脚座取り外し可能、強力なVRという特徴から読めるNikonからのメッセージは「三脚なんか使わずに、どこにでも持ち歩いて、手持ちでバシバシ撮ってください」と解釈できます。まさにそれが可能な逸品だと思います。

それでいて写りに妥協はなく、Sが付けられていることからも分かるように、Nikonが自信をもってすすめているSラインのシリーズです。実写でも収差がほぼ皆無で、野鳥の羽毛の1本1本を見事に解像しています。

野鳥、航空機、電車、モータースポーツ、屋外スポーツなどで威力を発揮できるレンズだと思います。屋内スポーツなど、十分な明るさが得られないシーンではF4に軍配が上がるでしょうが、ロクロクサンの機動性とVR性能を考慮すると、シチュエーションによってはロクロクサンの方が活躍できることが多いかもしれません。大きな可能性を秘めたレンズだと感じました。


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野鳥撮影にも最強のパフォーマンスを発揮するミラーレスフラグシップです。被写体検出機能で野鳥も認識して目にフォーカスを合わせてくれます。本格的に野鳥撮影をする方にはおすすめです。
FTZ-IIを介して今までのFマウントの超望遠レンズも問題なく使えます。ZマウントのNIKKOR Z 800mm f/6.3 VR Sとの組み合わせは5.5段のVRが効き、800mm(DXで1200mm)ながら手持ち撮影が可能になります。


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位相フレネルレンズ採用の通称ロクロクサンと呼ばれる600mmF6.3の単焦点レンズです。
全長278mm、重量1470gで、600mmの焦点距離からは想像できないほど小型軽量です。レンズ単体で5.5段、Z9やZ8との組み合わせではシンクロVR機構によって6段分のVRにより、手持ち撮影が可能です。
DXフォーマットで使用すると900mmF6.3相当となります。野鳥撮影に威力を発揮します。
1.4倍、2倍のテレコンを使用しても画質の劣化が少なく、FXで840mmF9、1200mmF13、DXで1260mmF9相当、1680mmF13相当となります。
最短撮影距離が4mなので、野鳥が近い公園などでは有利となります。

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NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S

位相フレネルレンズ採用の通称ハチロクサンと呼ばれる800mmF6.3の単焦点レンズです。
800mmの超望遠レンズとしては驚くほど小型軽量で、全長385mm、重量2385gしかありません。レンズ単体で5段分、Z9やZ8との組み合わせでは、シンクロVR機構によって5.5段のVRにより、手持ち撮影が可能です。
DXフォーマットで使用すると1200mmF6.3相当となります。野鳥撮影に威力を発揮します。
1.4倍、2倍のテレコンを使用しても画質の劣化が少なく、FXで1120mmF9、1600mmF13、DXで1680mmF9相当、2400mmF13相当となります。 最短撮影距離が5mあります。野鳥が遠い公園や小型の野鳥を大きく写したいときに有利となります。
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著者
Yama

大学卒業後しばらくは建築設計に従事。その後人工知能の研究所で知的CADシステムやエキスパートシステムを開発。15年ほどプログラマをしていましたが、管理職になるのが嫌で退職。現在は某大学の非常勤講師(情報学)、動物医療系および野鳥写真家、ウェブプログラマ、出版業などをしながら細々と暮らしています。

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