不思議な玉ボケの件

以前、水場近くで水浴びをしていた野鳥の撮影で、反射した水滴のボケがおかしな網目状の円形ボケになることを書きました。

どのような条件でこのようなボケ方をするのでしょう。

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最初に気付いた画像

最初に気付いたのは、ハチロクサンことNIKKOR Z 800mm f/6.3 VR Sを使った野鳥の水浴びシーンで、ボケた水滴像やきらめく水の反射光を拡大してみた時でした。

アップにしてみると、何やらフラーレンオーボールのような網目構造の球のように写っていました。便宜的にここではこの現象を「フラーレンボケ」と呼びましょう(勝手に命名しただけで、一般的な呼び名ではありません)。今まで様々なレンズを使ってきて、あまり見たことがないパターンだったので、もしや位相フレネルレンズ(以下PFレンズ)の特性なのかと思い、様々なレンズで検証してみました。

再現実験

わが家にはPFレンズを使った望遠レンズとして以下のものがあります。

  • AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR
  • NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S
  • NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S

これらのPFレンズと、PFレンズを用いない通常のレンズのみで作られた

  • AF-S VR Nikkor ED 300mm F2.8G(IF)
  • AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR

との比較も行ってみます。

方法

自宅ベランダにて動物の置物の周辺にちりばめた金属球を水滴にみたて、ビデオ用ライトを当てて撮影しました。

背景

100均で買った黒のフェルト生地を床に敷いただけのものです。

ターゲット

黒い布の中央近くにターゲットとして置物を置き、水滴のモデルとして一面に直径3mmのステンレス球をランダムにちりばめました。できるだけ床に近いターゲットにしたかったので、高さがないGaudiのイグアナの置物にしました。
ステンレス球は光が当たると点光源として機能しますので、ターゲットの目にピントを合わせると前後に点光源のボケを再現できます。

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uxcell 2mm-5mmベアリングボール 304ステンレス鋼 G200精密ボール 3.0mm(500個)

3mmのステンレス球が500個も入って千円以下です(数は数えていませんが、そのくらいは入っていそう)。
材質はSUS304なので、耐食性や強度は高いはずです。SUS304は非磁性のはずですが、弱く磁石に付きます。加工応力が加わるとSUS304も磁性が発現するようなので、おそらくプレス加工する際に磁化されている可能性があります。磁性があると問題がある場合はご注意ください。
直径はノギスレベルでは3.00mmぴったりです。表面精度も良いようで、球面らしい反射をします。
シリーズで、直径0.5mm、1.0mm、1.5mm、3.0mm、3.5mmがあります。すべて500個入りです。

照明

至近距離から三脚で固定した撮影ライト(SmallRig社製SR3936 [RC-120D COBビデオライト])で照射しました。

SmallRig社製SR3936 [RC-120D COBビデオライト] SmallRig社製SR3936 [RC-120D COBビデオライト]
室内撮影でいつも使用しているライトです。
CRIが95以上なので、色の再現性が高いのが特徴です。人物撮影、商品撮影など、あらゆるシーンで活躍しています。
輝度が高く、静止画でも高速シャッターが切れるので、最近はストロボの出番が少なくなって来ました。

撮影

レンズはすべて絞り開放で、ターゲットの置物が適正露出となるようにシャッター速度と感度を変更して撮影しました。

結果

AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR

全体像
前ボケ部1920px角
後ボケ部1920px角

NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S

全体像
前ボケ部1920px角
後ボケ部1920px角

NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S

全体像
前ボケ部1920px角
後ボケ部1920px角

PFレンズ群の玉ボケ

PFレンズを使用したレンズで撮影したボケたステンレス球の反射は、すべて同様に前ボケ後ボケともにフラーレンボケになりました。

比較

PFレンズを用いず、通常のレンズ構成のサンニッパとゴーヨンで同じターゲットを撮影してみました。

AF-S VR Nikkor ED 300mm F2.8G(IF)

全体像
前ボケ部1920px角
後ボケ部1920px角

AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR

全体像
前ボケ部1920px角
後ボケ部1920px角

通常レンズ(PFではない)での玉ボケ

PFではない通常レンズの方は美しい玉ボケになるかと思いきや、同様なフラーレンボケになることが分かりました。ということは、フラーレンボケはPFの影響ではなく、別の原因ということになります。PFが原因ではないかと疑ってしまったのですが、濡れ衣でした。申し訳ない。

では、なぜこのようなフラーレンボケになるのでしょう。

Nikonへの問い合わせ

最初の野鳥の画像やフラーレンボケのアップ、今回のテスト画像などを添付してNikonに問い合わせてみました。

Nikonの見解

途中何度かやり取りを行い、元画像を送って欲しいと言われたので何枚かの未加工の画像データを送らせていただきました。3週間後、下記返信をいただきました。

ご提供いただいた画像からの推測となりますが、玉ボケに写り込んでいる網目や模様は、光源の照度ムラ・光の反射面の凹凸が玉ボケ内に転写されている状況と考えられます。

特に、ステンレス球を撮影している画像の玉ボケに「S」の形のような模様が見られますが、RC-120D COBビデオライト付属の透明カバーにある文字が写り込んでいる可能性がございます。

以上、ご回答申し上げます。

なるほど。納得しました。フラーレンボケは、光源のムラが複雑に干渉して玉ボケ内の模様になっているのではないか、ということのようです。ただ、後半に書かれているビデオライトには透明なカバーなどは取り付けておらず、S字型の物体は光路上には存在していないので、S字型に見える構造は謎です。

いずれにしてもボケの評価は大変難しく、簡単に説明することは困難なようです。
最初の野鳥の前ボケ、後ボケのフラーレン状の構造も、周りの木々の間からの木漏れ日がそそいでいるような状況だったので、水滴の位置から見ると、おそらく樹冠を通した複数の光源に照らされているような状況であり、それらが複雑に干渉しあってフラーレン状のボケを形成しているのかもしれません。

ステンレス球もステンレス球の位置から見るとS字状に見える何か反射物があって、それが複雑に干渉し合ってあのような模様になっている可能性があります。

水滴や金属球の反射は複雑な周辺の環境を映し出してしまうため、純粋な点光源のボケのシミュレーションとしては適していなかったようです。

ボケの評価

素直なボケ

一般的な撮影でも、以前から後ボケがうるさくなったり、二線ボケのようになったりする条件が微妙だと思っていました。レンズの明るさや性能だけでは語れないものがあります。同じレンズでもすごくきれいにとろけるようなボケになることもあれば、うるさく感じることもあります。特にフィールドでは手前にある枝などの影響によって後ボケの状態が変化しているのでしょう。
比較的明るい単焦点のサンニッパやゴーヨンは概ね高水準の柔らかいボケになってくれますが、時折「あれ、これはボケがやけに汚いな」と思うことや、明らかに2線ボケになっていることもありました。

光源の位置、光源と対象物の間の障害物、被写体とレンズの間の障害物などによって、フォーカス面の描写もさることながら、前ボケ、後ボケの描写も変わって来るのでしょう。

確かに考えてみればモデル撮影の際などは、照明器具の形はキャッチライトに反映されますから、それが木漏れ日のような無限に複雑なパターンの光源で照らされた水滴やステンレス球の玉ボケは複雑なものになることは想像に難くありません。

特に後ボケは手前にある被写体や枝などによって、背景からレンズに導入される光が妨害されるわけですから、複雑な形の絞りを通して写すのと同様に、複雑なボケ方をすることも想像できます。開放で撮影していても、アウトフォーカスの背景は複雑な形状の枝やランダムに配置された葉などに妨害されながらレンズに導入されます。それぞれの障害物で必ず干渉が起きますので、ボケもその影響を受けるでしょう。

2線ボケの傾向がみられる美しくないボケ。レンズ性能によるものだけではなく、光がレンズに到達するまでの間に様々な障害物との干渉によってボケ方は大きく変わるのでしょう。

ポートレート写真や商品写真などと異なり、樹冠の中の野鳥を撮影するようなシチュエーションでは、アウトフォーカスの背景は、照射される光も、そこから反射されてレンズに到達する光も、相当複雑な光路を通過してくるので、予想外のボケ方をするのは当然のことなのでしょう。

勉強になりました。

今度は反射ではなく、純粋な光源でテストしてみます。

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最短撮影距離が4mなので、野鳥が近い公園などでは有利となります。




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DXフォーマットで使用すると1200mmF6.3相当となります。野鳥撮影に威力を発揮します。
1.4倍、2倍のテレコンを使用しても画質の劣化が少なく、FXで1120mmF9、1600mmF13、DXで1680mmF9相当、2400mmF13相当となります。
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著者
Yama

大学卒業後しばらくは建築設計に従事。その後人工知能の研究所で知的CADシステムやエキスパートシステムを開発。15年ほどプログラマをしていましたが、管理職になるのが嫌で退職。現在は某大学の非常勤講師(情報学)、動物医療系および野鳥写真家、ウェブプログラマ、出版業などをしながら細々と暮らしています。

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