ヴォイニッチ手稿(Voynich Manuscript)

Beinecke Rare Book and Manuscript Library, Yale University

若いころ、仕事で暗号化プログラムを書くために調べものをしていてヴォイニッチ手稿のことを知ります。以来何十年もヴォイニッチ手稿にとりつかれています。知れば知るほど謎が深まる書物です。

ヴォイニッチ手稿

1912年に ポーランド系アメリカ人のウィルフリッド・ヴォイニッチ氏が発見した古文書です。240ページにも及ぶ羊皮紙で作られた本で、謎の絵と未解読の言語で書かれています。
絵は色彩豊かで、植物のようなものが多いのですが、女性が水の中に浸かっている絵や、星座のようなものなど、多岐にわたります。植物は現存するものとは異なり、女性たちが行っていることも現在の風習と照らし合わせても不可解な行動をとっているように見えます。
アリゾナ大学が行った放射性炭素年代測定では、羊皮紙は15世紀前半に作られていることは分かったそうなので、執筆されたのは少なくともそれ以降となります。

ヴォイニッチ手稿の全ページ。デジタイズされたものが公開されているので、イェール大学に行かなくても世界中の人が閲覧することができます。

Beinecke Rare Book and Manuscript Library, Yale University

前半はこのような植物らしき絵と文章で構成されています。しかし、植物学者が精査したところ、地球上に現存する植物ではないようです。空想上の植物なのでしょうか。
絵自体は色彩豊かに描かれていますが、比較的稚拙な絵のようにも見えます。
文字が絵の周りに回り込んでいることから、はじめに絵が描かれ、その後に文章が書かれたものと思われます。

Beinecke Rare Book and Manuscript Library, Yale University

後半は人物が登場します。裸の女性がプールかバスタブなどのような水を張った容器に半身つかったような絵が多く、謎に包まれています。このような光景から連想できる風習などもなく、絵から内容を連想することも多くの人がチャレンジして失敗しているようです。配管のようなものも多く見受けられます。
これらも文字の回り込みの様子から、絵が描かれた後に文字が記述された可能性が高いと思います。

言語

ヴォイニッチ手稿の最大の謎は、その使用されている言語です。現在までに様々な言語学者、暗号解読のスペシャリスト、考古学者たちが解読を試みていますが、すべて失敗に終わっています。240ページにも渡り、緻密な描写の絵と文字による克明な記録をしていることから、でたらめなものである可能性は低いとみられています。羊皮紙は大変高価なものであるため、無駄なものにこれだけのコストと時間を費やしたとは考えにくいからです。

いつ、だれが、何のために作ったのかは未だに謎です。

Beinecke Rare Book and Manuscript Library, Yale University
このような言語です。

文字列の流れからして、どうやら左から右に記述する言語であろう、ということくらいしか分かりません。

現物

ヴォイニッチ手稿は古書収集家のヴォイニッチ氏が購入後に世に紹介したためにヴォイニッチ手稿と呼ばれていますが、歴史的には様々な人の手に渡って来たことも知られています。最終的に現在はイェール大学のバイネキ稀覯本・手稿図書館に所蔵されています。

Interior view of the Beinecke Rare Book Library : Pnoto Michael Kastelic

デジタル版

以前はネット上でも数点の写真が公開されているだけでしたが、ありがたいことに2004年にイェール大学で完全デジタル化が行われ、一般公開されています。公開と同時に速攻でダウンロードして見た覚えがあります。
現在は誰でもPDF版のヴォイニッチ手稿を閲覧することが可能です。

複製品

2016年、イェール大学出版はヴォイニッチ手稿の複製本を出版しました。その名もずばり、“The Voynich Manuscript”です。これは即入手しました。羊皮紙の再現はさすがにできませんが、折り込みページなども完全再現しています。現物はイェール大学の図書館に所蔵されているのですから、イェール大学出版にしかできないことですし、カラフルな謎のイラストや謎の文字の再現も完璧です。ちょっと値が張りますが、完全複製品はこれしかないので、ヴォイニッチ手稿に興味を持った人には必須アイテムです。
何とか解読してやろう!などと肩肘はらず、ぼんやり眺めながら様々な可能性を空想するのがおすすめです。
自分が旧人類だからかもしれませんが、やはりこういったものはPDFではなく、紙媒体でじっくり眺めたいものです。


The Voynich Manuscript ハードカバー
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The Voynich Manuscript
ヴォイニッチ手稿フリークはこれを持っていないといけません。ヴォイニッチ手稿を忠実に再現(もちろん羊皮紙ではなくて紙ですが)した複製版です。とは言ってもいかにも写真を撮って貼りましたーという感じのページ作りになっています。しかし、全ページ原寸大で、折りたたまれたページなども本物と同じように再現されていて、大変なこだわりを感じます。冒頭には英文の解説もついています。
ずっと眺めていられますが、見れば見るほど謎が深まるばかりです。
いつか誰かが解読するのでしょうか。それとも、そもそも解読不能な壮大ないたずらなのでしょうか。もしくは宇宙人が書いたものか。
そんな想いをはせるためにもやはりデジタルデータではなく、紙の本がおすすめです。旧人類だからかもしれませんが、こういうものを眺めるのはやっぱり紙だと思います。

解説書

解説書もたくさん出ていますが、まったく何も解読されていない以上、あまり役にはたちません。多くは何百ページにも渡って「わからない」ということを説明していますが、さまざまな人のチャレンジと失敗およびその過程に興味がある人にはおすすめします。いずれにしても、あまりにもわからな過ぎて、そのとっかかりさえ誰もつかめていない状況です。様々な説だったり、統計学的に解析した結果を見るよりも、何の予備知識もなく原本を見て様々な想像を膨らませる方が楽しいかもしれません。

歴史的に何度も「解読に成功した」という人が登場しますが、すべて思い込みで、学術的には否定されています。作者は宇宙人だとする説まであります。

近代統計学を駆使して、キャラクターの使用頻度や単語の構成や頻度分布などから、ランダムなでたらめな記述ではなく、何らかの法則を持った言語である可能性が高い、ということくらいしか分かっていないようです。

いつの日か、天才が解読するか、AIが解読するか、ロゼッタストーンのようなものが発見されるか、何らかの方法で解読されるかもしれませんが、それまでは眺めて空想の世界を旅するのも良いでしょう。夢がなくなるので、解読されないと良いな、とも思ってしまいます。

Beinecke Rare Book and Manuscript Library, Yale University
この絵を見て、共同風呂で一人1本ずつのシャワーを浴びている図に見える人と、人をコントロールするために上の装置と脳がケーブルで直結されている図と見る人もいます。

世紀を超えた壮大な悪戯である可能性もまだ残ってはいますが、個人的には意味のある記述であると信じています。

著者
Yama

大学卒業後しばらくは建築設計に従事。その後人工知能の研究所で知的CADシステムやエキスパートシステムを開発。15年ほどプログラマをしていましたが、管理職になるのが嫌で退職。現在は某大学の非常勤講師(情報学)、動物医療系および野鳥写真家、ウェブプログラマ、出版業などをしながら細々と暮らしています。

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