憧れのルリビタキ

30年近く前になりますが、家内が「しあわせの決断」というドラマを見ていました。自分は時々見た程度だったので、全体のストーリーはわからないのですが、ある回で主人公がバツイチ女性の子供とルリビタキを探しに行き、何とか幸せの象徴である青い鳥を見つけるというシーンがありました。記憶が曖昧ですが、そのバツイチ女性にアプローチするために、バードウォッチングに興味がある連れ子を攻略するという作戦のようでした。

当時は野鳥にはまったく興味がなかったのですが、それでも「こんなに綺麗な鳥がいるんだ」、「いつか見てみたい」と思った記憶があります。ドラマの中では遠出をして山に入り、幸せの青い鳥はそう簡単には見つからないというような描き方をされていました。はじめて聞いたルリビタキという名前も素敵でしたし、滅多に出会えない崇高な鳥なんだという憧れのような感覚をもったことを覚えています。

そのことはずっと忘れていましたが、時は巡り、野鳥に興味を持ち、数年経過したころにそのドラマのことを思い出しました。

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ルリビタキに会いたい。

30年前と違い、今はネットの時代になり、情報がすぐに入手できるようになりました。そして、ルリビタキはドラマで描かれていたほど滅多に見られない特殊な鳥ではなく、比較的身近にいる鳥であることを知りました。冬になれば関東地域の都市部の公園などでも会うことができます。

よく現れるといわれている公園に行ってみるとすでに多くのカメラマンが大砲を構えていて、呆気なく出会えてしまいました。だからと言って、崇高さが失われたり、魅力が半減したりすることはありません。カワセミと同様、青い鳥はそれだけで魅力的です。

一般的に生物は青い色素を持っていません。鳥類も例外ではなく、青い色は構造色という青い光だけを選択的に反射させる微細な構造によって実現されています。
青く見える羽の微細構造は、どのような進化のアルゴリズムで、どれほどの歳月をかけて出来上がったのでしょう。いずれにしても、気の遠くなるほどの年月の中で、突然変異と淘汰を繰り返して彼らだけが手に入れた青いボディなのです。

そんなわけで、青い鳥はその存在だけで神々しく、何度出合ってもその美しさに魅了されます。中でもルリビタキの青は紺色に近い本物の青です。カワセミの青はいわゆるシアンに近い色で、青と緑を混ぜたような色です。向きによっては緑色に見えます。

日本語の「アオ」の表現の範囲は広く、アオ○○と呼ばれる生物は、純粋に青い色とは限らず、シアンも緑色も含まれています。さらに、灰色も青みがかってみえるため、和名ではアオ○○の範疇です。アオサギなんかどうみても青の要素はありません。青空や水面の反射などから青みがかって見えるのでしょう。

そんな中、ルリビタキの青は本物の青です。緑色に見えたり灰色に見えたりする事はなく、純粋に波長の短い青色です。

物理的には、構造色を実現するためには、波長が短いほど難しくなるはずです。特定の波長で、その波長の半分位相がずれた反射は振幅を増強し合うため、その波長の光のみ強く反射されます。仮にルリビタキの青が450nm付近の光だとしたら、その半分の225nm前後の薄膜や段差がある微細構造が必要になります。ルリビタキも詳細に見ると体の部位によって微妙に異なる青が使われているのが分かります。微妙な微細構造の違いによって、様々な青が表現されているのでしょう。胸や腹は白色で、脇には背の青とは補色の関係にある橙色が入り、青さをより一層引き立てます。実に魅力的な配色です。

さらに、ルリビタキは渡り鳥なので、関東地方平野部では冬の間数ヵ月しか会えないこともあり、より一層魅惑的な存在に引き上げているのでしょう。しばらく青い鳥の魅力にとりつかれそうです。

機材

会えることは分かりましたが、いざ写真を撮ろうと思うと、なかなか一筋縄ではいきません。ルリビタキは小型で警戒心が強く、常にちょこちょこと動き回っています。その上比較的暗い森の中を好みます。動き回るので三脚は邪魔になるだけで使えません。ルリビタキ撮影に必要な機材は、VR機構がついた大口径の超望遠レンズです。それまでは300mmF2.8を使っていましたが、焦点距離が不足でした。検討した結果、手持ちで振り回せ、F値が明るい超望遠レンズとして選んだのが500mmF4です。1.4倍のテレコンバーターを付けると700mmF5.6になり、DXフォーマットのD500で使うと1050mmF5.6になります。1000mm以上の超望遠レンズを手持ちで使えるシステムになります。ルリビタキのために借金して買ってしまいました。バカです。
しかし、これでルリビタキを脅かすことなく、森の中で撮影できるようになりました。それで冬の間は毎週通い、何万枚も撮らせていただきました。それでも撮影は難しく、フォーカス、露出、構図とも満足できる写真は数千枚に1枚あれば良いと思っています。元は取れないでしょうが、チャレンジし続けられる最高の道具になりました。

2020年追記(身近な野鳥カレンダー2021)

緑書房から2021年版「身近な野鳥カレンダー2021」が発売になりました。今回も私と家内の野鳥写真を採用していただきました。表紙は、ここ数年こだわって撮影していたルリビタキになりました。B4サイズにパワーアップしています。こだわって撮り続けてきた写真がようやく日の目を見ることになって嬉しい限りです。
ちょっとだけ元が取れました。

著者
Yama

大学卒業後しばらくは建築設計に従事。その後人工知能の研究所で知的CADシステムやエキスパートシステムを開発。15年ほどプログラマをしていましたが、出世するのが嫌で退職。現在は大学非常勤講師(情報学)、動物医療系および野鳥写真家、ウェブプログラマ、出版業などをしながら細々と暮らしています。

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