アメリカンインターナショナルスクール(AIS)での化学の授業も面喰いました。
ある日の化学の授業
生徒が待っている教室に先生がおもむろに登場します。
- ビーカーを取り出し、Sugarと書かれた瓶から砂糖を入れます(ザワザワ)
- Sulfuric acidと書かれた瓶から濃硫酸を注ぎます (ザワザワ)
- 激しく反応して煙とともに真っ黒な塊がニョキニョキ伸びます (オー!)
これで終わりです。この間、先生は一言も言葉を発しません。生徒たちはざわついたり、歓声を上げたりするだけです。そして一連の実験が終わると、今目にした反応の科学的な説明をレポートにまとめて提出しろと言いました。必要なことはすべて教科書や図書館にあるので、それを頼りに説明しろと言うのです。助言もなく、質問も受け付けず、教室から出て行ってしまいました。中学一年生にはいささか難問です。
生徒たちは必死になって調べます。1970年頃ですから、もちろんスマホもインターネットもなく、本だけが頼りです。これも印象的な授業でした。
みんなで図書館に行って、手あたり次第に調べます。誰かがヒントを見つけて、そこから砂糖と硫酸の化学式およびその二つを混ぜた時の反応を導き出します。
先生がすべて説明したら何も印象に残らなかったでしょう。反応だけを見せられて、何のヒントもなく、その反応を説明しろというのです。
不思議なことに、他の授業は全部忘れているのに、この授業だけは50年以上経っても鮮明に覚えています。
砂糖はCとHとOでできているので、硫酸の脱水作用によって炭素と水に分解されるのですね。真っ黒な塊は砂糖からH2Oを取り去った後に残る純粋な炭素で、煙のように見えたのは水蒸気です。
真っ白い結晶と透明な液体から真っ黒な炭素の塊と水蒸気が出てくるのが実に印象的で、子供たちの興味を引くには大変効果的です。
学生には1から10まで教えてはいけないのです。教えられたことはすぐに忘れてしまいますが、考えたことは何十年も憶えているのです。人間の脳はそのようにできているようです。
この授業でも、まさに「考えることは楽しい」、ということを教わりました。知りたいことは自分で調べるという学問の大前提を植え付けてもらいました。それはジジイになった今でも活き続けています。