目に見えるπと計算尺

πの定義は簡単です。円の円周と直径の比率です。日本語では円周率と言います。
すべての円は相似形なので、どの円に対してもπは一定で、永久不変です。紀元前2000年(今から4000年も前!)の古代バビロニアの時代から、円周は直径の3倍ちょっとあることは知られていました。22/7が使われていた記録があり、これは小数点以下第2位まで正しい値です。

1761年にπは無理数であることが証明されています。何億桁、何兆桁計算しようと、正確な値を求めることができません。厳密に言うと、あくまでも近似値なのです。2020年現在、計算されたπの桁数は50兆桁を超えています。でも近似値なのです。永遠に。
つまり、正確な値を数値で表現することは不可能なのです。

しかし、現実にπは存在しています。
茶筒をテーブルに寝かせ、テーブルと接しているところに印をつけて、ごろっと1回転させて再び印がテーブルと接する場所は必ず存在します。茶筒の直径を1とすれば、1回転したその場所がπです。アナログ的にπはちゃんと見えるのです。

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計算尺

計算尺

πが見えることを知ったのは中学1年の時でした。
ある日、オヤジから計算尺を貰いました。1970年頃はまだ世の中にハンディーな電卓などは存在せず、計算は筆算か計算尺で行っていた時代です。当時の技術者は必ず胸ポケットに計算尺を忍ばせ、何か計算するときはさっと取り出して計算していました。映画のアポロ13でもNASAの技術者たちはみな計算尺を使っています。計算尺でアポロを設計し、軌道計算をして人類を月に立たせることができたということは、驚くべき事実です。
文系のオヤジがなぜ計算尺を持っていたのか分かりませんが、ヨーロッパ中を飛び回っていたので、通貨の計算などに使っていたのでしょう。新しい計算尺を買ったか何かで、古い計算尺をくれたのだと思います。はじめて手にした計算尺は、少年の自分には精密な目盛りがふってある何やら近未来的な素敵な装置に見えました。

πの発見

そこで発見します。πです。
目盛りの中で、3を少し超えたあたりにπが刻印されていました。はじめてπが実在している光景を目にして大変興奮したのを覚えています。どんなに計算しても永遠に求まらないπですが、アナログ的にはちゃーんと存在しているのです。「ぼくはここだよ!」と主張しているようで、ますますπに愛着がわきました。

普通の定規にπがあっても意味がありませんが、計算尺では掛け算などの対象として大変重要な役割を果たします。πの表記によって、円周も円の面積も体積もすぐに求まります。
最近の電卓にもπのキーはありますが、押すと単に小数点以下何桁かのπの値が表示されるだけです。何の感動もありません。しかし、計算尺上のπは、3.15のわずかに手前の位置に、明確に刻印されているのです。これは感動です。アナログ的にπの存在と位置が実感できるのは、計算尺だけかもしれません。現在、計算尺を使う人はほとんどいないと思いますし、製造もされているのかどうかわかりませんが、ぜひπの存在を再認識してあげてください。3.10と3.15の目盛りの極めて3.15よりの位置にπは実在しているのです。

キミはこんなところにいたのか。

山内 昭
計算尺なんてもう売っていないと思っていたら、円形のものがまだ売られていました。昔円形のものも持っていて使った覚えがあります。
こちらの商品にもちゃーんとπがあります。
著者
Yama

大学卒業後しばらくは建築設計に従事。その後人工知能の研究所で知的CADシステムやエキスパートシステムを開発。15年ほどプログラマをしていましたが、管理職になるのが嫌で退職。現在は某大学の非常勤講師(情報学)、動物医療系および野鳥写真家、ウェブプログラマ、出版業などをしながら細々と暮らしています。

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