LAMY Dialog 2 L374

大学は建築学科でした。理工系の学科はずっと実験とか実習を4年間みっちり行うので、遊んでる暇がありません。課題が出され、毎日のように図面を描いていました。

私たちの頃はまだCADなどというものはなく、ドラフターで図面を描く時代です。鉛筆で下書きをして、最後に墨入れをして提出です。

墨入れ

当時はまだ烏口を使っている人もいましたが、多くの学生は製図ペンで最終的な墨入れをしていました。製図ペンには2つの有名なメーカーがありました。ロットリングとステッドラーという、どちらもドイツの会社です。同じメーカーなら部品を共有したりできるので、最初にどちらのメーカーにするか選択することになります。その後はずっとそのメーカーのものを使い続けるので、ロットリング派とステッドラー派に分かれます。

どちらも性能的には大差ないのですが、大きな違いはクリップが付いているかいないかです。ロットリングはクリップなし(現在はクリップがついてしまったようです)、ステッドラーはクリップ付きです。クリップは、胸ポケットに挿したときに安易に落ちないように挟めたり、テーブルの上に置いたときに転がって落ちたりしないので実用的です。しかし、クリップには致命的な欠点がありました。ペンを回しながら使うときにクリップが邪魔なのです。

われわれ建築学科の学生たちは、入学して最初に筆記具の使い方を習います。鉛筆、シャープペン、ホルダー芯、ボールペン、製図ペンなどです。どれも必ず回しながら線を引きます。ボールペンや製図ペンは回さないのではないかと思われるかもしれませんが、ボールペンも回しながら使うとボテリの解消になりますし、製図ペンも回さないと紙の粉や繊維が溜まるので、回しながら使うのです。また、均一に摩耗するので、変な癖も付かず、寿命も長くなります。
そんな教育を受けるので、烏口や万年筆以外の筆記具は基本的に回しながら使う癖がついています。そのため、シャープペンシルなんかもクリップが取れるものは取って使います。ボールペンのクリップも、正直に言うと邪魔なのですが、ボールペンは胸ポケットに入れることが多いため、致し方ないことなのでしょう。クリップが着脱式のボールペンはお目にかかったことがありません。製図用のシャープペンなどは、やはり邪魔だと感じる人が多いためか、着脱式のものが結構あります。

書くときはクリップが消える水性ボールペン

無垢の木材を削り出したケースに入って来ます。このケースの方が量産するのは大変なのではないかと心配になりました。
磁石でしまる仕組みで、いちいち凝っています。

素晴らしい。このデザイナーは、私と同様、書くときはクリップが邪魔だと強く感じていた人なのでしょう。自分と同じ趣味趣向の人がいることを知って感銘を受けました。しかもそれを製品として解決しています。

ドイツラミー社のDialog 2というローラーボール(水性ボールペン)です。ラミー社は機能美を追及した筆記具を作り続けている会社ですが、一時期、社外のデザイナーによるDialogシリーズを作っていました。1、2、3と出しましたが、今回取り上げるのが2番目のものです。

デザイナー名はこのケースに書かれているだけです。

デンマークのデザイナ、ナッド・ホルシャー(Knud Holscher)がデザインしたDialog 2です。かれこれ15年ほど前のことになりますが、シカゴデザイン博物館グッドデザインアワード2006、IF プロダクト デザインアワード2006などの賞を受賞しています。筆記具のクリップが邪魔だと感じていた人が世の中にはたくさんいたということでしょうか。

Dialog 2

ステンレスボディにロジウムコートされた軸は、梨地仕上げで落ち着いたテクスチャーです。滑らず、手にしっかりとフィットします。

形としては一般的な砲弾型ですが、クリップ部に秘密が隠されています。

クリップ部は、使っていない時はスプリングアクションのクリップとして機能します。大きく開くので、胸ポケットなどの生地を挟むことができます。

回転式なので、使う時はひねります。すると、クリップ部が本体に収納されるのです。軸と同化してしまいます。

後から見るとこのような動きです。使用状態の時はクリップが収納されて円筒形になります。筆記具を回転させながら使う人には引っ掛かりがなくなり、理想的な形になります。

書いている時はクリップがないので、回してもどこも当たりません。

ペンには、クリップの表にLAMYのロゴがエンボス加工で控えめに刻印されているだけで、他は見えるところには何も書かれていないのですが、クリップの裏にGERMANYとだけ小さく刻印されています。

このペンも残念ながら現在は製造していないようです。

著者
Yama

大学卒業後しばらくは建築設計に従事。その後人工知能の研究所で知的CADシステムやエキスパートシステムを開発。15年ほどプログラマをしていましたが、管理職になるのが嫌で退職。現在は某大学の非常勤講師(情報学)、動物医療系および野鳥写真家、ウェブプログラマ、出版業などをしながら細々と暮らしています。

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建築文房具
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