アルカスイス(Arca Swiss)互換について

三脚取り付けネジ

おそらく、すべてのカメラの底面には、三脚に取り付けるための雌ネジがあります。超小型のカメラやスマートフォン以外で、この三脚取り付けネジ穴がないカメラは見たことがありません。

このネジは、国際規格( ISO 1222 )で、1/4インチの雌ネジに統一されています(一部、大型機材用に3/8インチ規格もあります)。三脚側は1/4インチ、長さ4.5㎜の雄ネジに統一されています。そのお陰で、よほど古い機材以外、三脚とカメラのネジ穴が合わなかったということがないはずです。どのメーカーの三脚にどのメーカーのカメラも取り付けられます。

しかし、ネジで取り付けるため、頻繁に付けたり外したりするのは大変面倒です。特にプロカメラマンやハイアマチュアの方々は、ここはリズム良く手持ちで撮ろうとか、ここは三脚に固定してじっくり撮ろうとか、この場面では一脚を使おうとか、シチュエーションに応じて様々な機材を使い分けます。そのたびにネジをぐるぐる回して付けたり外したりするのは大変な労力となります。しかも、三脚台座の裏にあるネジなので、大変回しにくいのです。

クイックシュー

そこで登場するのがクイックシューと呼ばれるものです。カメラの三脚取り付けネジ部に特殊なプレートを取り付け、三脚側の雄ネジにはそのプレートを受ける器具を取り付けます。それでカメラに取り付けたプレートをワンタッチで三脚に取り付けられるようになります。仕組みとしては、アリ型アリ溝であったり、レバーでかしめる方式など様々ですが、どれも一瞬でカメラを三脚に固定できることが売りです。

これは大変便利で、三脚への取り付けや取り外しにいちいちネジを回す必要がなくなりました。それまでは、しっかり取り付けようとしてネジを強くしめていると、はずすのも一苦労でした。その点、多くのクイックシューはレバーなどで、軽い力でワンタッチで固定、解除ができるようになっています。

大変良いアイディアなので、1970年代以降、三脚メーカーもカメラメーカーもこぞってクイックシューを開発しました。どれも機能的にはすばらしく、強度も十分なものです。

しかし、問題は各社ばらばらに独自の規格で作ったため、互換性がありませんでした。メーカーの思想によって、とにかく丈夫で大型カメラでもびくともしないものを開発する会社もあれば、とにかく軽くて薄いものを開発するメーカー、向きを変えても取り付けられる設計のもの、など、さまざまな規格が乱立していました。
それぞれに一長一短があるのですが、複数の規格があるということが、消費者にとっては大変な負担でした。プロカメラマンだけではなく、写真が趣味な人は、複数のカメラやビデオカメラを持っているのは当たり前ですし、三脚や一脚もいくつか所有しているでしょう。
ユーザーからすれば、どの組み合わせでも取り付けられないと利便性が損なわれるだけでなく、最悪落下するなどの事故につながる可能性があります。
各社威信をかけて開発した規格であり、さらに開発費もかかっているので、統一したくてもできないという大人の事情もあったのでしょう。しばらくこの不便な状況が続きました。

デファクトスタンダード

アルカスイスの自由雲台

そんな混沌としたカオス状態のときに、最初に誰が、どのように普及させたのかわかりませんが、 スイスにあるアルカスイスインターナショナル社(以下アルカスイス社)が製造するビューカメラの規格が大変良いということで、それを真似て三脚取り付けシステムが作られ、「アルカスイス互換」と呼ばれるようになりました。

アルカスイスの取り付け方式は、単にアリ型アリ溝式の固定器具です。台形断面のプレートと、それを受ける台形の凹みがある取り付け器具で構成されています。アリ型をアリ溝に入れ、横からネジでかしめる方式です。アリ型アリ溝方式は特に珍しいものではなく、古くからありましたが、規格の大きさが適切だったのでしょう。精度が高い上、固定力も強く、多くのカメラマンに愛用されました。

アルカスイス社には何のメリットもなく、自分たちの規格がパクられただけなので、大変迷惑な話だと思いますが、いつしか「アルカスイス互換」がデファクトスタンダード、つまり、事実上の統一規格として流通するようになってしまいます。アルカスイス社には申し訳ありませんが、統一規格ができることは、ユーザーにとってはありがたいことです。アルカスイス社が認めているわけでもなく、図面を公開したわけでもありませんが、本物を測定して、そっくりな規格が作られ、かくして「アルカスイス互換」という規格が独り歩きをはじめます。

アルカスイス互換の進化と問題点

こんなことを言ってはなんですが、本物のアルカスイスの運台やクイックシューを使っている人を見たことがありません。一つの理由は、大変高価であることがあげられます。私も本物は持っていません。雲台一つで10万以上するものもざらです。
また、本物はネジでかしめるタイプしかなく、クイックシューとしてはあまり使いやすいとは言えないようです。

一脚に付けられたアルカスイス互換取付器具

そんな中、独り歩きをはじめた「アルカスイス互換」は様々なメーカーが改良を重ね、価格も安く、クランプ機構などを備えた使いやすいクイックシューとして進化していきます。

一時期は「アルカスイス互換」をうたう粗悪品も出回り、寸法が微妙に違って他社の取り付け器具にはまらなかったり、逆に小さくて固定できないといったトラブルもありましたが、そういう商品は淘汰され、最近は良くなっているようです。しかし、念のため、事前に確認することをおすすめします。

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アルカスイス互換グッズ

カメラ、レンズ側

アルカスイス互換のクイックシューを使うと決めたら、プレート側はおそらくずっとカメラやレンズに付けたまま使用することになります。カメラやレンズの一部となるので、納得の行く良い製品を選びましょう。

アルカスイス互換プレート

カメラの底部に取り付けるプレートには、通常のプレートの他、縦位置でも使えるL型プレートもあります。カメラの底部には、電池やメモリカードを入れる蓋や、側面には様々なコネクタを接続するソケットなどがあります。そういった蓋やソケットへのアクセスが疎外されないよう、その機種に合ったものを選ぶ必要があります。いいかげんなものを買ってしまうと、電池交換ができなくなったり、端子への接続ができなくなりますので、注意が必要です。

バッテリーパックにも対応したアルカスイス互換L型プレート

特にL型プレートなどは、その機種専用に設計されたプレートを購入することをおすすめします。機種によっては、バッテリーグリップに対応したL型プレートもあります。

超望遠レンズを使う場合は、一般的にはカメラではなく、レンズを三脚に固定します。多くは、レンズからレンズフットと呼ばれる三脚固定用の足が生えています。そこにもアルカスイス互換のプレートを取り付けておけば、すぐに三脚に取り付けられます。

レンズフットごとアルカスイス互換に交換した例。

レンズフットが取り外せるレンズでは、レンズフット自体をアルカスイス互換のものに交換してしまう手もあります。プレートが不要となり、より安定します。

ストラップ取り付け金具がついていないレンズにストラップを付ける場合もレンズフットをアルカスイス互換にしておけば、簡単に速写ストラップなどに取り付けられます。長めのプレートを装着しておくと、速写ストラップを付けたまま一脚に付けられて、大変重宝します。

プレート側には、脱落防止のネジが付いています。不用意な落下を防ぐため、脱落防止ネジは必ず付けておくことをおすすめします。

三脚、一脚、ストラップ側

三脚や一脚の雲台にはアルカスイス互換のプレート固定器具を取り付けます。本物はアリ型を左右からかしめるアリ溝の機構になっていますが、各社が出しているアルカスイス互換の固定器具はこの部分に工夫がみられ、ネジ式の他にレバー式やそれらの併用などがあります。個人的には、付け外しの頻度が多い一脚などにはレバー式、一方、三脚などは、付けたらしばらくそのままで、しっかり固定したいと思うので、ネジ式を使っています。レバー式はワンタッチで着脱できるので、クイックシューとしての役割には最適です。

三脚に付けた大型の取り付け器具。バランスを見て前後に調整できる。

三脚、一脚、速写ストラップなど、すべてにアルカスイス互換の固定器具を取り付けておくと、カメラやレンズをどこにでも取り付けられるようになります。デファクトスタンダードとして統一されていることの恩恵です。

アルカスイス互換万歳

個人的には、ストロボも多用するので、カメラとストロボ用ブラケットなどもアルカスイス互換クイックシューにしています。要は、カメラやレンズと、その他の機器との接続部をすべてアルカスイス互換にしてしまうと、なんでもすぐに付け替えられるようになるということです。便利な世の中になりました。

ストロボ用ブラケットにも。

また、プロカメラマンや写真愛好家の方々は同じようにアルカスイス互換に統一していることが多いので、三脚などを貸し借りしてもそのまま使えるメリットもあります。

そんな経緯で、カメラやレンズと、他の機器の接続部はすべてアルカスイス互換にしました。一つでも別の規格が混在していると破綻するので、一つ残らず交換するのがポイントです。一眼レフカメラ、ミラーレス一眼、コンパクトカメラ、ビデオカメラ、レンズ、ストロボブラケット、ドットサイトなど、カメラ関係で思いつくものすべてです。

三脚によっては、カメラ取り付け機構がそもそも独自のクイックシューになっているものもありますが、そこにも強引にアルカスイス互換のアリ溝を付けてしまいましょう。

結果

多少の費用はかかりましたが、大変効率よく運用できるようになりました。どんな組み合わせでも取り付けられ、着脱もワンタッチです。
アルカスイスの方式が特別に優れているかと言われると、そうとも思えませんが、長いものに巻かれることによって、利便性が確保できる点は評価できます。固定力も強く、脱落防止ネジも付けておけば安心感も得られます。
基本はアリ型アリ溝方式なので、 個人的には、 取り付け精度や再現性が確保できる点を高く評価しています。飛翔写真撮影用に照準器を付けていますが、それまでは別のクイックシューを使っていて、使うたびにキャリブレーションが必要で面倒でした。アルカスイス互換にしてからは、毎回寸分たがわず同じ向きに取り付けられるので、キャリブレーションをする必要がなくなりました。

三脚や一脚を多用し、様々な規格が混在して困っている方にはおすすめです。

著者
Yama

大学卒業後しばらくは建築設計に従事。その後人工知能の研究所で知的CADシステムやエキスパートシステムを開発。15年ほどプログラマをしていましたが、管理職になるのが嫌で退職。現在は某大学の非常勤講師(情報学)、動物医療系および野鳥写真家、ウェブプログラマ、出版業などをしながら細々と暮らしています。

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一脚・三脚その他
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