AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VRのレビュー

奥がD500+500mmFL
手前がZ50+500mmPF

AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR(以下500mmPF)。位相フレネルレンズを使い、徹底的に軽量化されたニコンの500mm単焦点レンズです。2018年の発売ですが、1年以上経った現在も未だに納期が1年と言われるほどの人気ぶりです。50万円もするレンズがこれほど売れるとは、メーカーも予想していなかったのかもしれません。
発表当時、自分も興味がありましたが、これほど高額なレンズを実物を見ず、試写もせずに買う勇気はありません。発売後、ニコンのショールームに展示されたのを見てからはもう手遅れで、その絶大な軽さから検討していた方々は皆カメラ店に殺到したのでしょう。その後は、量販店の店員さんに「半年待ちです」とか「今だと1年後です」と言われて断念していました。

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評判

こんな大人気レンズですが、手に入れた人が増え、ネット上での投稿やレビューなどの書き込みが増えて来ると、不思議な傾向を見せます。
MTF曲線は天井に張り付いていますし、位相フレネルレンズによる色補正は完璧のようで、作例を見てもその素晴らしさがよく分かります。スペック上は500mm単焦点レンズとしては完璧です。そんな高性能に加えて、ウソのように軽いのです。
しかし、やっとの思いで入手したであろう高額な単焦点レンズの割に、皆が絶賛するわけではなく、賛否両論なのです。価格コムのレビューを見ても、絶賛する人がいる一方、期待外れだとする人もいます。なぜそれほど評価が分かれるのか、ずっと不思議に思っていました。

じゃじゃ馬

私の野鳥の師匠である某K博士はいち早くこのレンズを入手して使っておられましたが、ひょんなきっかけで、このレンズを譲り受けることになりました。
元々自分がおすすめしたレンズでしたが、ある日、中古店に売るとおっしゃいました。理由を聞くと写真の歩留まりが悪いと言うことでした。まれにシャープに撮れることもあるけど、ボヘっと寝ぼけた絵になることが多い、と。某K博士はこのレンズを「じゃじゃ馬」と表現し、評価は低いものでした。

世間の評価といい、天下のニコンが造る50万円もする500mm単焦点レンズがそんなに悪いとは信じられず、某K博士に無理を言って、中古店に売る前に1ヵ月ほど貸してもらえるようにお願いしました。酷評されているのが真実なのか、絶賛されているのが真実なのか、自分の目で確かめたかったのです。酷評が真実ならば中古店行き、絶賛が真実ならば私が中古店の買い取り価格で買うという自分にとっては大変ありがたい条件で貸していただきました。

おりしも家内の野鳥撮影熱がピークに達し、より良く撮りたいという希望から予約したZ50の販売日とも重なっていました。借りている1ヵ月の間に、今まで家内が使っていたD5600と新しいZ50で試すことができ、まさにベストタイミングです。自分はすでにAF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR(以下500mmFL)を使っているので、500mmPFの絶賛が真実であれば、家内がZ50と組み合わせて使うのがベストだと思っていました。うまくいけば野鳥撮影システムとして、夢のように軽い、最強のセットになる可能性を秘めていると思ったからです。

最初の評価

かくして、某K博士から待望の500mmPFが送られてきました。まだZ50の発売1週間前だったので、D5600でのテストです。

大きさ、軽さは素晴らしいの一言です。女性でも軽々持てます。
D5600+500mmPF
悪くないように見えます。ボケも自然です。
上の写真の部分拡大
あれ?
500mm単焦点ならもう少し解像して欲しい

結論から申し上げると、あまり芳しいものではありませんでした。某K博士の「じゃじゃ馬」という表現がまさにぴったりで、まれに素晴らしい解像度の絵が撮れる一方、なぜか切れが悪く、これだったら今まで使っていた200ー500ズームの方が断然きれいじゃん、と思えるほどです。50万円の単焦点レンズが15万円のズームレンズに負けるとはいかに。良いところは軽いだけか、と思ってしまいました。
D500でもテストしましたが、同様の結果でした。時々綺麗に撮れることもある、といった感触です。
個体差なのかもしれませんが、自分が行ったテストでも残念な結果で、この時点では中古店行きがほぼ確定していました。値が下がる前に。

Z50との組み合わせで評価絶賛へ

そんなモヤモヤした状態で1週間が過ぎ、Z50の発売日となりました。発売日に受け取り、早速マウントアダプタFTZをかませて500mmPFのテストを行いました。これが頼みの綱でした。これでダメなら即中古店行きです。

Z50+500mmPF
D5600との組み合わせよりもさらにコンパクトにかつ軽くなりました。

結果、驚いたことに大絶賛です。解像度が高く、色収差と無縁のキレキレの画像で、コントラストも高く、まさに「さすがニコンの単焦点レンズ」と言える画像です。
ちょっとくやしいけど、500mmFLに、勝るとも劣らない性能です。
もちろん某K博士に報告して、即決で買わせていただくことに決めました。

Z50+500mmPF
上の写真の部分拡大
これぞ500mm単焦点の解像度です。こうでなくちゃ。

考察

1ヵ月ほど使ってみて、このレンズの真の姿が見えてきました。某K博士と同様、自分も最初の評価はよくありませんでしたが、ネット上にあふれている一部の方々の低評価と高評価が混在している理由も分かってきた気がします。

当初はブレではないかと思い、一脚を使ったり、シャッター速度を速くして試してみても、改善されませんでした。ピントがずれているのではないかと疑い、D500でピント微調整をしてもフィールドに出ると何だか寝ぼけていてビシッと写らないのです。回折ボケも疑って、絞りも開放から色々変えて試して見ましたが同様です。

それが、Z50で使うと、開放からバキバキの超高解像度で写るのです。しかもコンスタントに。
これらの事実から、某K博士が「じゃじゃ馬」と呼ぶこのレンズの悪評の原因を推測してみました。
以下は、どこにもそんな注意書きがあるわけではなく、あくまでも私個人の推測なので、根本的に間違っている可能性もあることをあらかじめご了承ください。もしかしたら製造上の個体差が大きく、アタリハズレがあるとか、ロットによる差がある、などということも十分考えられます。

推測1

位相フレネルレンズは、おそらく樹脂のモールドによる成型で、温度変化の影響を受けやすいのではないか。もしかすると、温度によって後ピンや前ピンになるのではないか。と推測します。こう考えると、たまたま良い温度条件だと高解像に写り、それ以外は何かピントがビシッと決まらない、という現象が起きているのかもしれません。
D500のピント微調整でピントを追い込んでも、調整時の温度とフィールドでの温度が違うとピントがずれてしまっている可能性があります。評価時は11月末で、外はかなり冷えてきているのに、わが家はイグアナと同居しているため、室温は常に30度です。

推測2

鏡筒は軽量化のために一部エンジニアリングプラスチックを使っているようです。これも上記推測1と同様、温度変化の影響を受けやすく、ピントずれを起こしている可能性があります。これも写りの不安定さの原因になっている可能性は十分あります。
D500でピント微調整してもずれる可能性は、推測1と同様です。

推測3

単に軽いからブレやすいことも考えられます。500mmFLは約3㎏、500mmPFは約1.5kgと、倍の違いがあります。シャッターやミラーの質量は同じですから、VRが付いていたとしても、必然的に軽い方がブレやすくなるでしょう。もしくは質量差によるブレの周期が異なるはずです。200ー500ズームも500mmPFより1kg近く重いレンズです。
それ以上に重要なこととして、この500mmPFはこの大きさと重さから、どうも心理的にいいかげんに扱われてしまっているということがありそうです。少し言い方が悪いかもしれませんが、普通、300㎜以上の超望遠レンズは、三脚や一脚を利用して、ブレないように慎重にシャッターを押すものですが、 500mmPFはちょっと長めのズームレンズとほぼ同じサイズ感であるが故に、500mmの超望遠レンズを扱っているという意識を持たず、適当に振り回して、気軽にシャッターを押してしまっているのではないか、と言うことです。自分も最初に扱った時はそうでした。あまりに軽く、手軽に振り回せるため、500mmの超望遠レンズを扱っているということを忘れてしまいます。
500mmの超望遠レンズなのに手軽に扱えるということは、本来は素晴らしいことのはずですが、手軽な故にゾンザイに扱われ、その結果、不当な評価を受けている可能性も否めません。

推測4

500mmPFを買うような人はおそらく初心者ではなく、200-500のズームからのステップアップや、500mmF4FLがもう重くて持ち歩きがしんどいから買い替えたという人が多いでしょう。はじめてカメラを買う人が、500mmPFをセットで買うことはまずないと思います。ほぼ100%他の望遠レンズからの買い替えだと推測します。
そんな中、500mmPFより短い焦点距離や暗いレンズから乗り換えた人は、概ね高評価なのではないでしょうか。このレンズはF5.6なのですが、単焦点ですから開放から使えるため、同じシャッター速度なら感度が下がり、画質もあがります。もしくは、感度が同じであればシャッター速度が上がり、ブレが軽減して画質が良くなることを経験するはずです。開放F値が小さくなることにより、AFも速くなりますし、精度も上がるはずです。
一方、500mmF4FLなどの明るい望遠レンズから乗り換えた人は一段暗くなり、感度が2倍になる、もしくはシャッター速度が半分になるので、画質が悪くなったり、歩留まりが落ちたと感じることでしょう。AFも遅く感じるはずです。
このように、他の望遠レンズを使ってきた人は、以前に使っていたレンズと比べて絶賛評価になったり、酷評になったりしていると思われます。 500mmPFが、レンズラインアップの中の中間的な位置であることが評価を分けているのでしょう。同じ500mmの焦点距離で、価格が500mmPFの半額以下のレンズから、倍以上のレンズまであるのです。どちら側からアプローチするかによって評価が正反対になる可能性があります。

左:D500+500mmFL、右:Z50+500mmPF
焦点距離が同じ500mmの単焦点レンズとは思えないサイズの違いです。
まるで大人と子供です。左はあまり振り回す気になりませんが、右は普通に
振り回せます。鳥から見ても威圧感は少ないでしょう。
なお、左には1.4倍テレコン、右にはFTZがレンズとの間に入っています。

以上のように、500mmPFに対する不当な低い評価は、上記推測のいずれか、もしくは、それらが複合的に絡み合って評価に至っている可能性があると思っています。

Z50と500mmPFの組み合わせが高評価な理由(推測)

一眼レフのフォーカシングは、ミラー下にあるAFモジュールが担っています。撮像素子とは別なため、撮像素子上のピントとAFモジュール上のピントがずれていることがあります。出荷時に調整されているので基本的には合っているはずですが、ばらつきもあるでしょうし、経年変化でずれることもあるでしょう。常にピントが甘い場合は調整する必要があります。フォーカス微調整機能があるカメラではその機能を使って調整します。微調整機能がないカメラはサービスセンターで調整してもらうと良いでしょう。カメラにも個体差がありますし、レンズにも個体差があるため、新しくレンズを買ったときには最初に絞り開放でテスト撮影をして、ピントが正確に合っているか確認する事をおすすめします。

一方、ミラーレス一眼カメラは撮像素子上に埋め込まれた位相差検出センサーと、コントラスト検出によってフォーカシングを行っています。したがって、レンズの個体差や温度変化などによって多少焦点距離が変わっても問題ありません。どんな条件でも、撮像素子上に正確にピントを合わせることができます。

Z50はミラーレス一眼なので高精度に500mmPFのフォーカシングがされているのでしょう。結果、レンズが本来持っているポテンシャルを余すことなく引き出し、驚くほど高解像度の絵を見せてくれます。

さらに、ミラーレスはブレの一番の原因であるミラーがない分、ブレも少なくなります。公称4.0段分の手振れ補正ということは、一眼レフでの指標だと思いますので、ミラーレスではそれ以上であることが期待でき、歩留まりも上がって印象がよくなるのでしょう。手振れ補正なしだと1/500sのシャッター速度が必要だとして、4段と言うと1/30sまで手持ちで使えるということになります。ミラーレスでは、同じ条件での成功確率がさらに高くなることでしょう。

Z50はニコン初のAPS-Cサイズのミラーレスです。鳥撮り人たちは、フルサイズにあまり興味はなく、望遠効果で有利となるAPS-Cサイズのミラーレスを待っていたはずです。黙っていても1.5倍になるので、500mmPFを付けると35mm判換算で750mm相当となります。テレコンではないので、明るさも変わらないところが良いのです。
しかも、Z50は無理に画素数を増やしたりせず、オーソドックスな2千万画素にとどめたため、高感度特性が良くなり、画質が向上しています。まさに鳥撮り用に作られたような仕様です。

以上のように、Z50+500mmPFのコンビネーションは、上記推測1~推測4のじゃじゃ馬の理由をすべて払拭することができます。
逆に言うと、500mmPFは高いポテンシャルを持ちながら、今までの一眼レフでは一部で不当な評価を受けていて、ミラーレスで使用することによって本来の能力を遺憾なく発揮できるようになった、と言っても過言ではないでしょう。
実際素晴らしい性能を発揮しています。D500+500mmFLで撮影している私の写真と、Z50+500mmPFで撮影している家内の写真は、ほぼ同等です。ミラーレスは露出補正をファインダーで確認しながら簡単にできるため、場合によっては家内の方が優れた写真を撮ることが多くなってきました。
あわせてあの軽さですから、持ち歩きも便利ですし、とっさに被写体に向けるのも簡単です。しゃがんで撮ったり、真上に向けるのも楽で、機動性に関しても文句のつけようがありません。野鳥撮影の道具として、軽さも大きな性能の一つなのです。

500mmFLが勝っていることは、F4なのでテレコンが躊躇なく使えることと、AFが速いことくらいです。画質に関しては、強い逆光時とか、ボケ味など、重箱の隅をつつかないと違いは分からないでしょう。それだけ優れたポテンシャルを持ったレンズだと思います。

欠点

欠点がないわけではありません。よく語られているように、逆光に弱いことです。これは300mmPFのころから言われている位相フレネルレンズの泣き所ですが、基本的に順光で撮影するので、あまり問題になることはないでしょう。意地悪く逆光で撮影すると全体的にフレアがかかったかかったようにコントラストが低下します。まあ、これは知っていれば回避できることですし、困ることもあまりないと思われます。

逆光でコントラストが落ちた例
位相フレンネルレンズが悪さをしているのか、
確かにフレアがかかったような絵になります。

左500mmPF、右500mmFL(+TC14E-III):逆光時のコントラスト低下は認められます。フードが短いだけかもしれませんが、極力順光で撮るように心がけるだけで回避できます。

ボケが汚いともいわれています。確かに条件によっては二線ボケのようなうるさいボケを見せることもありますが、500mmFLでも条件によってはうるさく感じることもあるので、個人的にはそれほど気にしていません。

概ね左のようにきれいにボケてくれます。まれに右のように変なボケ方をすることがありますが、条件はよくわかりません。しかし、それは500mmFLでも同様です。

おわりに

今回は某K博士の好意により、注目していた500mmPFを入手することができ、200-500ズーム、500mmPF、500mmFLを比較することができました。自分の目で確かめることにより、レンズ評価の謎が少し解けたような気がします。レンズにはそれぞれ個性があり、設計思想も異なり、また、それを使う人の目的や評価基準が異なるため、評価が分かれるのは当たり前なのかもしれません。とにかく解像度を追求する人、軽さを追求する人、AFの速度を追求する人など、評価ポイントは人それぞれです。ネットのレビューや口コミはあまり鵜呑みにせず(この記事も含めて)、自らの目で確認することをお勧めします。

今回のテストでは、個人的には一眼レフとの組み合わせで低評価、ミラーレス一眼では高評価という、面白い結果となりました。ピントのずれや変動が低評価の原因だとしたら、位相差で素早く大まかに合わせ、コントラスト方式でピントを追い込むミラーレスとの相性が良いのかもしれません。少なくとも譲り受けた500mmPFとZ50との組み合わせでは、最高のパフォーマンスを発揮しています。

ご参考までに。

追記

調子に乗って、無謀にも2倍テレコンを付けてみました。

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