Z9の常用ISO感度は64〜25600です。ISO 64はコダクロームに慣れ親しんだ世代の人々にはイメージしやすい感度ですが、高感度25600はどうなのでしょう。フィルム時代から比べると十分な高感度なのですが、最近のデジカメの感度としてはいささか低めな気もします。
Nikon一眼レフフラグシップの感度
一眼レフフラグシップのD5やD6でISO 100~102400。実用的かどうかは別として、5段増感でISO 3280000(328万!)相当まで設定できます。DXフォーマットのD500 でも ISO 100~51200 、5段増感で ISO 1640000(164万!)相当まで設定できます。フィルム時代には考えられなかった高感度です。
もっとも、これらの機種は主にスポーツや報道など、暗い室内で高速シャッターを使う目的で作られているため、画素数を約2千万画素と控えめにして1画素当たりの受光面積を増やし、高感度耐性の方を重視した設計です。Z9を見ると、今までの一眼レフのフラグシップとは異なり、高画素機になっています。設計思想が随分と異なるようです。
画素数はD6やD500の2倍以上の 4571万画素もあり、感度を犠牲にしてでも高画素化を目指した設計なのでしょう。Z9の感度は ISO 64~25600、2段増感で、ISO 102400相当までの設定しかできません。一般撮影では高画素化は喜ばれることですが、屋内スポーツなどで高速シャッターを使うカメラマンは迷うところかもしれません。
ISO数百万の感度は必要か
一般には感度を上げれば上げるほど画質は低下しますので、どんなに高感度に設定できる機種でも写真を何に使うかによって使うカメラマンが思う上限の感度があります。
ISO 3280000はスペック上の極端な例でしょう。私は専門ではないので想像ですが、屋内のスポーツ撮影でもISO数千から数万で足りるのではないでしょうか。例えば、今手持ちのZ9で自宅の居間で試してみても、F5.6、ISO 25600で1/8000sのシャッターが切れます。バレーボールのスパイクも、ボクシングのパンチも1/4000sもあれば止まりそうです。屋内競技場の照度はより高く、スポーツカメラマンは300㎜F2.8や400㎜F2.8などの明るいレンズを使いますので、これ以上の高感度はあまり必要ないと思われます。
ISO数十万、数百万レベルの高感度が必要なシチュエーションは、月明かりでの野生動物の記録とか、芸能レポーターが撮影する政治家や芸能人の深夜の密会など、かなり限られた場面だと思います。しかも写真としてのクオリティは相当低くなることを覚悟の上で使うものです。
スポーツ新聞にスクープ写真を小さく載せる目的であれば使えるかもしれませんが、観賞用の作品としてA4以上もしくは全紙大に印刷するような場合は、特別な意図がない限り使えないレベルとなるでしょう。
実用的な感度
自分の仕事内容では、印刷に使う品質を維持するために極力低感度で撮影するように心がけています。医療撮影では無影灯の色を拾わないように最低感度でストロボを使って撮影しますし、野鳥の撮影はB4サイズのカレンダーを前提としているため、ISOは1000程度を上限としています。無理をしても2000を超えるとB4には厳しいレベルです。
野生動物の調査などで夜間撮影をしたことはありますが、ISO 1640000まで使用可能なD500でもISO 1万以上の感度で使ったことはありません。
高感度のノイズリダクション
センサーに到達した微弱な光を増幅するので、当然ノイズが増えてきます。ノイジーな画像をいかに良く見せるかが各カメラメーカーの高感度ノイズリダクション処理のテクニックになります。高感度ノイズの除去も年々進化しています。
一般的にはノイズを消すと解像感が失われますので、そのあたりのせめぎ合いとアルゴリズム開発がカギを握っているのでしょう。昔はノペっと絵にかいたような画像になる傾向がありましたが、最近は極力解像感を残したままノイジーさを低減できるようになってきました。機種によってはISO数千のオーダーも比較的使えるようになった感があります。
Z9の高感度の傾向
高画素化の影響か、Z9の感度はISO 64~25600となっています。高感度側は2段増感してISO 102400が限界です。D5やD6のISO 3280000とは5段も異なります。ISO 102400以上の高感度を日常的に使っているカメラマンにとっては不足でしょう。一眼レフのD5やD6を使い続けるしかありません。しかし、せいぜいISO 10000程度までしか使わないカメラマンの方が圧倒的に多いのではないでしょうか。
個人的には、ISO数百万の高感度が使えるより、Z9の高画素化や高速連写性能の方が有用でした。
Z9は高画素化によって常用感度が2段分減少しましたが、ミラーレス化メカニカルシャッターレス化によって秒間20コマ、ハイスピードフレームキャプチャ(C120)で11Mピクセルながら秒間120コマ撮影が可能となりました。一眼レフのフラグシップD6でも秒間約14コマなので、一眼レフを遥かに超えた高速連写性能といえます。
2000万画素程度でも良いからとにかく高感度で高速シャッターを使いたいか、実用的な感度で良いから高画素で高速連写できる方が有用、と思うかが分かれ目だと思います。これは一台のカメラで両立することはできません。前者は現状は一眼レフですが、ミラーレスでも需要があればスポーツ撮影用として低画素、高感度耐性、高速連写性がより優れた機種も出てくるでしょう。
現状、Z9は感度は一般には実用的なISO 25600に抑え、高画素数に振った仕様になっています。D6や他社カメラの高感度画像との比較はしていませんので詳しい評価はできませんが、Z9の高感度画像を以下に示します。高感度の画像も、以前の様な無理なデジタル処理で解像感が失われた画像ではなく、フィルム時代の高感度フィルムの粒状感のような処理で、比較的好印象です。
カラーバランス
X-rite(旧マクベス)カラーチャートをZ9のISO 64、100、400、800、1600、3200、6400、12800、25600で撮影。ISO 25600までカラーバランスがほとんど崩れないのは見事です。
カラーバランス、諧調、高感度ノイズ
高感度実写例
上に示したサイズでは「ISO 25600でも行けるじゃん」と思ってしまいますが、A4を超える印刷物に使うには画質に問題があります。下は上の写真の中央部横幅1280ピクセルの切り出しです。
仕事としては使えませんが、ぬり絵のようになってしまうようなことはなく、可能な限り解像感を維持したままノイズ処理をしているようで好印象です。なんとなく、フィルム時代の無理な増感をして粒子が荒れたようなイメージでしょうか。
カラーバランスも大きく崩れることはなく、小さい画像であれば使えるレベルだと思います。
どこまで許せるかは個人や目的によって大きく異なると思いますが、個人的には作品として撮る場合は可能な限りISO 1000以下に抑えるように撮影し、無理をしてもISO 2000を限界としています。
もちろん、証拠や記録として撮る場合は上限の25600までは撮影しますが、かなりひどい画質を覚悟の上です。
自分の基準としては、絞り開放、シャッター速度を手振れ限界(1/30~1/60s)にして、オート設定のISOが2000を超えたら撮影終了の目安にしています。
画像サンプル
上で使ったカラーチャート
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カメラマンの必需品のマクベスカラーチャートです。X-Rite社に買収されたので、X-Riteの製品が本家本元だと思いますが、右の製品は見た目が同じなので、OEMではないかと思います。写真には3つ写っていますが、3つセットではなく、製品は1つです。様々な面を見せるための写真のようです。 仕事なので自分はX-Rite社のものを使っていますが、ちょっと高すぎる気がします。 グレーカードでプリセットカラーバランスを登録してカラーチャートで確認するために使用します。グレーは唯一無彩色の基準になるので、カラーバランスは必ずこれで合わせます。一般的な紙は何らかの色や蛍光発色する色素が含まれている可能性が高いので、カラーバランス設定には使いません。 |
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