ボールペンの心臓部:パーカータイプのリフィル

文房具マニアですが、なんだかんだ言って、結局普段使うのはシャープペンシルとボールペンです。特に書類を書いたり宅急便の宛名を書いたりすることが多いので、圧倒的にボールペンの使用頻度が高いのは事実です。

ボールペンマニアは、素敵なボールペン軸を見つけるとついつい買ってしまう病気です。しかし、どんなに良い軸を使っても、リフィルがダメだと台無しになってしまいます。そのため、軸以上にリフィルにこだわるようになってしまいました。気に入った軸を活かすも殺すもリフィル次第だと言っても過言ではないでしょう。リフィルは言わばボールペンの心臓部なのです。

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欧米人と日本人の違い

欧米の筆記具は一般的に太いものが好まれます。海外のボールペンを買うと、デフォルトでボール径1mmなどという極太のリフィルが入っていることもざらです。彼らが書く文字はアルファベットであり、あまり込み入った文字ではありません。筆記体など、かなりおおざっぱな書き方をします。一方で、日本人は細かい漢字を書く必要があり、普段から緻密な作業が強いられます。
ボール径1mmのボールペンで「襲」なんていう字を書くと、「■」になってしまいます。

ちなみに、シャープペンシル(あちらではメカニカルペンシルと言いますが)も0.5が主流なのは日本だけで、アルファベットを使う欧米諸国では0.7や0.9が主流です。そんなに細かい字は書かないのです。小学生なのに0.3や0.5のシャープペンで細かい漢字を書く日本人を見ると、外国の方々は驚嘆するようです。自分も小・中学校を海外で過ごしたので、文字の筆記はおおざっぱになっていました。帰国してクラスメートのノートを見て、驚いたのを覚えています。なんて繊細で緻密なんだ、と。

世界の筆記具

日本の子供

自分が日本で小学校に入学した1965年頃は鉛筆が主流でした。今はどうなっているのか分かりませんが筆箱には鉛筆数本と赤青鉛筆、消しゴム、それに小刀が入っていました。今は学校に刃物を持って行くのは問題だと思いますので、色々と変わってきていることでしょう。私たちの頃は休み時間中などに小刀で鉛筆を削ったりしていました。
お金持ちの子は当時もう売っていたシャープペンシルを持っていて自慢していました。でも、基本は鉛筆です。

ちょっと脱線ですが、調べてみたら現在はほどんどの小学校は小刀、カッターは持ち込み禁止のようです。一部の私立の小学校などではあえて授業でナイフを配って鉛筆削りの実習をするところがあるそうです。「鉛筆ってナイフなんかで削れるの?」と驚く子が多いようです。今は小刀で指を切ったりしたら親が大騒ぎするのでしょうね。昔は誰しも何度か小刀で指を切って痛い目をみて、刃物の扱いを覚えたものです。今は彫刻刀さえ問題になるようです。モンスターペアレントに「子供が怪我したらどうするんだ」とか「おまえ責任とれるのか」と怒鳴りこまれたら先生方もたまりませんね。すべて禁止、禁止の方向に流れて行ってしまうのでしょう。教育としてはたしてそれで良いのかどうか、はなはだ疑問ではあります。

アメリカの子供

小学校3年の時にアメリカに渡り、英語もできないのにいきなり公立の小学校に編入しました。今思うとずいぶん乱暴な扱いのように見えますが、子供の順応性にかけていたのでしょう。何とかなり、結果的に正解だったのだと思います。
アメリカの小学校はピーナッツの漫画に出てくるように、生徒たちはランチボックスだけ持って登校します。教科書もノートも筆記道具も持っていません。ランドセルもカバンもありません。本当にランチボックスだけです。
今も同じかわかりませんが、1960年代は人種や貧富の差による差別があってはならないということで、教科書や紙、筆記具など、教育に必要なものは全て学校が提供する仕組みでした。貧しい家庭の子や、親に事情がある生徒はランチボックスも持たず、完全手ぶらで登下校します。ランチがない生徒には、ちゃんと昼食が支給されていました。家庭の事情や貧富の差によって、何の罪もない子供たちに教育の格差が生まれることを徹底的に排除するという方針だったのでしょう。
したがって、アメリカの小学生は基本的に自分の筆記具というものを持っていませんでした。すべて学校に行けばあるのです。逆に教科書も筆記道具も学校の資産なので、家に持ち帰ることは禁じられていました。筆記具は、あの黄色くて頭に品の悪い消しゴムがついた鉛筆だけです。

ヨーロッパの子供

その後オーストリアに渡り、ウィーンのアメリカンインターナショナルスクール(AIS)という私立学校に通いました。小学6年から中学2年までです。ヨーロッパだからなのか、各国の大使の子女たちが通う私立学校だったからなのか、ウィーンの土地柄なのかわかりませんが、そこではみな筆記道具は自分たちのポールペンでした。無造作に使うし、なくしたりするのでどこにでも売っているあのオレンジ軸の安いBICのボールペンです。授業中もテストも、全部ボールペンです。
当然、書き間違えたりすることは頻繁にあるのですが、当時は修正液などというものはなく、砂消しゴムもないので、間違えるとグチャグチャグチャとボールペンで塗りつぶして消したことにします。皆そうしていました。大変ガサツです。最初はビックリしましたが、それがペンの文化であり、普通だと思うようになってしまいます。自分もガサツになって行ったのでしょう。
プレゼントをもらった時、日本人は包装紙をきれいに剥がしますが、欧米の方々は、よく映画などでも出てきますが、包装紙をバリバリに破いて中身を出しますよね。あれと同じです。文化の違いです。
ということで、ウィーンでは小学校、中学校ともボールペン文化でした。
学校の往復はバインダー1つとボールペン1本だけです。

欧米の社会人

オヤジが愛用していたPARKER 75 Sterling Silverの万年筆とボールペンセット

社会人はどうでしょう。残念ながらアメリカやヨーロッパにいた頃は小中学生なので、仕事経験はありません。
オヤジはアメリカにいた頃はアメリカ中を飛び回り、ヨーロッパにいた頃はヨーロッパ中を飛び回って仕事をしていました。週末以外は出張で家にいません。バリバリのビジネスマンとして、万年筆とボールペンがセットでいつも胸ポケットに挿さっていたのを覚えています。時々万年筆にインクを補充している姿を見ていました。シャープペンシルや鉛筆などを使っている姿は見たことがありません。
海外のビジネスでは、ボールペンが主流のようです。特に当時はカーボン紙を多用したので、ボールペンが必須だったようです。普段の書類やメモなどはボールペンを使い、正式な文章はタイプしたものを使います。ボールペンで下書きしたものを秘書がタイプし、万年筆でサインをするという流れなのでしょう。そのために、ボールペンと万年筆のセットはビジネスの場では必需品だったのでしょう。
欧米では印鑑の文化がないので、商取引の契約書などなどはすべてサインです。サインには万年筆を使うのが主流です。
したがって、欧米では今も日本よりは万年筆を使う機会は圧倒的に多いのだと思います。調印式などで各国の首脳たちがサインするときも万年筆がよく使われます。

ボールペン最強説

ユダヤ系ハンガリー人のビーロー・ラースローさんが発明し、1938年に特許を取得した 近代ボールペンは瞬く間に世界中に普及しました。万年筆のようにインク漏れの心配もなく、インクを補充する必要もなく、落としたり、多少ラフに扱ってもちょっとやそっとでは壊れないタフさが受け入れられたのでしょう。歴史的には100年も経っていませんが、世界中のビジネスシーンで欠かせない筆記具となっています。自分も一番使う筆記具がボールペンです。
特に日本のメーカーの技術力は世界的に見ても素晴らしく、インクの種類、ボールの精度、加工技術など、世界一だと思います。

パーカータイプ(G2規格)

1954年、パーカーのジョッターの大ヒットにより、同時に開発されたリフィルがパーカータイプとして世界中でデファクトスタンダードとなります。日本工業規格(JIS)ではG2規格として寸法や誤差範囲が厳密に定義されています。世界中の多くのメーカーが採用していて、特にヨーロッパやアメリカなどの高級ペンメーカーはパーカータイプのリフィルを採用しています。

オヤジのペンに入っていた本家パーカーの古いリフィル。
よく「ボールペン」は和製英語で、海外では「ボールポイントペン」と言わないと通じないと言われますが、それはウソです。これはそれを否定する証拠です。世界のデファクトスタンダードとなったパーカーのリフィルに「Ballpen Refill」と明記されています。確かにBall point penも通じるでしょうが、Ballpenも通じますし、本家パーカーは「Ballpen」という言葉を使っています。
それ以前に、そもそもボールペンのことをballpenともball-point penとも呼びません。アメリカとオーストリアで小中学校を過ごしましたが、どちらの呼称も一度も使ったことがありませんし、聞いたこともありません。一般的には「pen」だけでボールペンを意味します。鉛筆(pencil)とは明確に区別されていますし、penと聞いて万年筆を連想する人はいません。penと言ったらボールペンを指します。他の国はわかりません。ball-point penと言わないと通じない国もあるのかもしれませんが、おそらくアメリカやヨーロッパ以外のマイナーな国の話ではないでしょうか。
Made in Englandと刻印があるので、1970年前後にイギリスで作られたリフィルと思われます。

パーカータイプのリフィルはパーカーだけが作っているわけではなく、さまざまな会社が同一規格で作っています。パーカーが作った規格ですが、パーカーが一番良いわけではありません。それぞれのメーカーに特徴があり、好みが分かれるところです。

ペンの美しさはもちろん、持ちやすさやバランスなどは軸のデザインによるところが大きいのですが、インクのノリやなめらかさ、書き味の良さといった性能はリフィルの出来によるところが大きいのです。そのため、文房具フリークは愛用のリフィルがあり、気に入った軸に気に入ったリフィルを入れて使うのが正しいボールペンのはまり方だと思うのです。

そのためにも、気に入った軸が採用しているリフィルタイプがパーカータイプであることは、その軸を購入するか否かを判断する上で、かなりのウエイトを占めています。パーカータイプのリフィルを採用していれば、リフィルの選択肢は増え、こだわりのある気に入ったリフィルを使うことができるようになります。特に日本製リフィルは優秀なので、海外製のどんな高級軸を使っていても、リフィルだけは日本製にこだわっている人も多いのです。

世界のパーカータイプ

どこかのOEMが多いと思いますが、世界中のボールペンメーカーは基本的に自社のロゴが入ったパーカータイプのリフィルを販売しています。
しかし、海外の素敵な軸を買うと、中に入っているリフィルは基本的に太字が多く、ボール径が1mm以上のものもあります。一番細いものを買っても日本人にとっては太すぎることが多いでしょう。アルファベットの筆記などには向いているのかもしれませんが、細かい漢字を書くのには向いていません。
また、インクが漏れたり、油が漏れたりするトラブルにも何度か遭遇しています。リフィルに関しては日本製の方が断然信頼性が高く、おすすめできます。

日本のパーカータイプ

日本でも何社かパーカータイプのリフィルを製造しています。日本人には日本製のリフィルが合っていると思います。基本的にボール径が小さいものが多く、漢字を書くのには適しています。

ボールペンを作るのは難しく、かなり高精度の加工技術が必要です。特にボール径が小さいボールペンチップを製造する日本の技術は世界一ではないでしょうか。また、インクの研究も日本が最先端を進んでいるようで、油性、水性、ゲルインク、エマルジョンインクなど、さまざまなインクの開発を進めています。
近年では、熱で消えるPilotのフリクションインクが世界に誇る日本の画期的な発明です。公文書やサインなどには使えませんが、学生がぐちゃぐちゃに上書きして消す悪癖は改善されるかもしれません。

ボール径、先端の形状、インクの種類や粘度などによってボールペンの書き味は変わるので、各社しのぎを削って最高のリフィルを開発しています。色々と試してみて、自分の好みに合ったリフィルを探すことをおすすめします。比べてみると各社かなり違います。探す楽しみもありますね。
評価は完全に主観です。人によってはさらさら書けるものが好みであったり、粘り気があった方が好みの人もいるでしょう。筆圧も人によって全く異なります。さらに紙によっても書き味は変わります。お店でちょっと試し書きしてみるだけではきっと分からないと思います。長期的に使わないと良し悪しの判定は難しいでしょう。

ボールペンの欠点として、ボテリがあります。これも加工精度やインクの種類や粘度によって各社異なります。ちょっと試し書きしただけではなかなかわかりません。しばらく使っていると、「このリフィルはボテリが多いな」とか「これはボテリが少ない」と感じることでしょう。これも重要な要素です。

パーカータイプのリフィルは、数百円で買える範囲なので、ダメもとで何種類か買って試してみることをおすすめします。きっと自分に合ったリフィルが見つかると思います。

おすすめ

あくまで個人的主観ですが、オート(Ohto)のニードルポイントと三菱鉛筆のジェットストリームがお気に入りリフィルです。

一番奥が三菱鉛筆のジェットストリーム0.38mm(SXR-600-38)、中央がオートの油性ソフトインク0.7mm(PS-207NP販売終了)、オートのゲルボールペン替え芯0.5mm(PG-105NP)。

三菱ジェットストリーム

さらさらの書き味が人気のジェットストリームにようやくパーカータイプが登場しました。2018年の出来事です。待ちに待っていたジェットストリームファンが多いでしょう。これでイタリア製の好きな軸で、ジェットストリームのあのサラサラの描き心地を楽しむことができるようになりました。
ボール径0.38mmと、0.5mm、0.7mmが市販されています。日本の技術力を体感できるリフィルです。ジェットストリームのサラサラ感が好きな人にはイチオシのリフィルです。

ジェットストリーム 0.38 黒 ジェットストリーム 0.5 黒 2個セット ジェットストリーム 0.7 黒

オート社のニードルポイント

砲弾型と異なり、軸との一体感はなくなります。見た目は砲弾型の方が美しいと思いますが、書きやすさは断然ニードルポイントです。主観ですが。

体裁を気にしないのであれば、オートのニードルポイントがイチオシです。オート社はあまり知られていないかもしれませんが、日本初のボールペンを作った老舗です。ガチャックの方が有名かもしれません。
オート社のボールペンのラインナップにニードルポイントのリフィルがあります。ニードルポイントは特殊な形状ですが、紙面が見やすく、線も角数が多い漢字も各段に書きやすくなります。
オート社はニードルポイントにこだわりを持っているようで、先端チップは削り出しで製造しているようです。すばらしい技術です。
個人的には元々建築屋なので、ニードル状の先端に違和感はありませんが、一般の方々は違和感を感じるかもしれません。しかし、一度使うと手放せなくなります。一般的な砲弾型のペン先よりも、書いているポイントのまわりが見やすいので、ペン先を正確に着地させることができます。
金属筐体の PS-205NP や PS-207NPを愛用していたのですが、製造終了になってしまいました。現在はチップ以外はプラスチックになってしまい、見た目は何だか剛性感がなさそうに見えますが、使ってみると特にヤワな感じはしません。イメージとして金属筐体の方が何となく安心感はありました。メリットとしては安くなったことです。このすばらしいリフィルが百円程度で買えるのは画期的です。

オート 油性ソフトインク替芯 3個入 オート 油性ソフトインク替芯 5個入

さがしてみよう

このページをここまで読んでいただいているとしたら、あなたはすでに相当はまっていらっしゃるボールペンマニアなことでしょう。気に入った軸はすぐに見つかり、すでに何本も持っていらっしゃるはずです。
そう、問題はリフィルなのです。これがなかなかしっくりこないのです。
ボール径、引っかかり具合、インクの粘度、乾燥時間、裏写り、耐水性、インクの濃さ、なめらかさ、抵抗、剛性感、ボテリ、耐久性など、様々な評価のためのパラメーターがあります。中には匂いの評価を重視する人もいます。海外の製品で、インクが臭いリフィルもあります。紙によってもこれらの評価が変わってしまうのも厄介です。また、製造誤差による個体差がみられることもあります。

それらがすべてクリアされている完璧に自分の好みのリフィルはないのかもしれませんが、ボールペンマニアな方々は、少しでも自分の好みに近いものを探す旅を続けているのです。新しいリフィルもどんどん登場しますし、気に入っていたリフィルが廃版になってしまうこともあります。

アダプター

世の中には、もう一つ4Cと言う規格のリフィルがあります。よくマルチペンなどで使われている細い芯の規格です。こちらも基本的には万国共通規格となっているので、同じ規格であれば交換して使うことが可能です。4Cにも魅力的なリフィルがたくさんあり、4Cにはあるけど、パーカータイプにはなっていないものもたくさんあります。そういう場合に4C規格のリフィルをパーカータイプに変換するアダプターが作られました。個人的には以前は自作していました。製品化されたものは大変良くできています。
これを使うと、4Cの好きなリフィルをパーカータイプのリフィルを採用している好きな軸で使うことができるようになります。特に4Cはマルチペン用に様々な色インクを使用したリフィルが多いので、そういったものも使えます。4C規格のスタイラスペンもあるので、好きな軸をスタイラスペンにすることもできます。各社様々なインクや色の4Cリフィルを作っていますので、選択肢がたくさんあります。

難点は、インク量が少ないことです。パーカータイプはインクがたっぷり入る規格ですが、4Cは細くて短いので、意外と早く消費してしまいます。ハードユーザーは頻繁に交換する必要がでてきますが、それも楽しみに思えるのがボールペンマニアだったりします。

永遠のテーマ

小説家でもないし、漢字もかけないし、字も下手です。でも日常的に使うボールペンにはすごくこだわってしまいます。使いにくいリフィルは仕事にも影響を及ぼします。
リフィルを探す旅は永遠に終わらないのかもしれません。だからこそ楽しいのではないでしょうか。

追記(2023年)

オート社から素晴らしい軸が発売になりました。パーカータイプのセラミックローラージェルです。

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オート 替芯 ゲルインク替芯 0.5mm 黒 PG-M05NP-BK 定評があるオート社のニードルポイントで、金属ボディにセラミックボールを使用しています。
インクはGELインクで筆記は濃くなめらかです。
パーカータイプ(G2)なので、同サイズのリフィルにはおすすめです。ちょっと癖になる書き心地です。

著者
Yama

大学卒業後しばらくは建築設計に従事。その後人工知能の研究所で知的CADシステムやエキスパートシステムを開発。15年ほどプログラマをしていましたが、管理職になるのが嫌で退職。現在は某大学の非常勤講師(情報学)、動物医療系および野鳥写真家、ウェブプログラマ、出版業などをしながら細々と暮らしています。

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