野鳥撮影に最適なカメラとレンズの組み合わせ:その1では家内の野鳥撮影用カメラとレンズの変遷を紹介させていただきました。これから野鳥撮影をはじめたいと思われている方々や、ステップアップを考えはじめている方の参考になるよう、各種カメラとレンズの組み合わせでどの程度の野鳥写真が撮れるかを示したものです。野鳥と遭遇できる公園などの有無や撮影頻度、撮影テクニックなどによって撮れるものは異なりますが、機材としてはサンプル画像と同等、もしくはそれ以上の写真を撮るポテンシャルを持っているということを示しています。野鳥撮影において、どのレベルの写真まで要求するのかは人によってかなり異なります。その1では初心者からハイアマチュアの方々がターゲットです。野鳥撮影をはじめる方々が買うべきボディやレンズが見えてくると思いますので、参考になれば幸いです。
今回は更なる高画質を求める方々へのアドバイスとなります。
自分は30年以上、動物医療系写真撮影を仕事としています。そんな関係で大学で情報学の授業を持ち、撮影や画像加工などの実習も行っています。野鳥撮影に関してはここ10年程度ですが、教科書や図鑑、カレンダーなどのための撮影にも従事しています。
そんな立場ですので、趣味で野鳥撮影を考えられている方とは機材の選択は異なるかもしれませんが、ハイアマチュアや、よりステップアップを目指す方々、さらに、これから仕事として写真の世界に入りたいという方々の参考になるかもしれませんので、使用機材の変遷やそれらボディやレンズによってどのような絵が撮れるのか、などを紹介させていただきます。
撮影スタイル
自分の野鳥撮影は基本的に手持ち撮影です。暗い環境では一脚を使うことがありますが、三脚は使いません。身近な小型種がターゲットなので、三脚なんか使ったら野鳥は撮影できないでしょう。野鳥撮影では、数センチ左右に移動して被っている枝を回避したり、ちょっとしゃがんで枝葉を抜ける位置を探すといった動作の連続なので、手持ちでないと仕事に使える写真は撮れません。三脚を使うと絶妙な撮影位置の調整が不可能になってしまいます。
また、公共の場所で三脚を使うのは他の方々に迷惑となりますので気をつけなければなりません。野鳥出現スポットにずらっと並ぶ三脚を見るといつも閉口しています。一脚を使う場合も使う瞬間だけ伸ばして、使い終わったらすぐにたたむようにしています。
常に歩きながら探鳥するスタイルなので、手持ちで無理なく振り回せることが私の機材選択の基準となります。
選定基準
仕事として使うのでこだわりを持って選定しています。
まず、ボディは堅牢であることです。プロはおそらくアマチュアの何倍も何十倍もシャッターを切るので信頼性を最重視します。ボディ選びは、耐久性、耐候性、耐衝撃性に定評があるニコン社のものに決めています。デザインが無骨であったり、多少重かったり、価格が高くても、仕事カメラとしては信頼性を最優先します。おかげでこの数十年、何十万回シャッターを切ったか分かりませんが、撮影中に壊れたことは一度もありません。
レンズは画質を最優先します。昨今はボディ側でも様々な補正を行っているので、レンズだけでは語れなくなってきていますが、基本的な光学性能がしっかりできているレンズはデジタル的な補正をする必要がなく、最高の性能を発揮します。そのため野鳥撮影用レンズとしては単焦点レンズの方が有利となります。ズームレンズは便利ですが、光学的には設計に無理があり、解像度、明るさ、ボケ、収差など全てにおいて単焦点レンズに軍配が上がります。
ボディ
2001年にデジタルカメラに移行してからは、信頼性に定評があるNikonの一眼レフを使用しています。仕事用のメインボディは、
- Nikon D1x
- Nikon D2xs
- Nikon D300
- Nikon D500
と変遷しています。すべてDXフォーマットのカメラをあえて選択しています。メインの仕事である医療系写真も、野鳥写真も、焦点距離が1.5倍換算になるDXフォーマットの方が自分の仕事には有利だからです。医療写真では術創から離れて撮影できるし、組織のマクロ撮影でも1.5倍になります。野鳥撮影でも焦点距離1.5倍の恩恵は大きく、500mmのレンズが750mm相当となります。
現在はD500がメインカメラです。飛翔写真を撮るので、まだ光学ファインダーの一眼レフに優位性を感じています。
Nikon D500+AF-S VR Nikkor ED 300mm F2.8G(IF) +TC20E-III
いわゆる328(サンニッパ)と呼ばれる大口径単焦点300mmF2.8のレンズです。野鳥撮影の仕事が舞い込んで最初に買ったレンズです。野鳥撮影に300mmは短いのですが、F値が2.8なので、2倍のテレコンバーターを付けてもF5.6で、AFは普通に機能します。328は元々の素性が良いので、2倍のテレコンバーターを付けて600mmF5.6としての使用にも耐えられます。
D500はDXフォーマットなので、35mm判換算にすると、900mmF5.6の十分に明るい超望遠レンズとなります。VR機構が付いているので900mm相当のレンズを手持ちで使用できるようになり、フィルム時代よりもかなり恵まれた環境となります。
作例
Nikon D500+AF-S VR Nikkor ED 300mm F2.8G(IF) +TC20E-IIIでの作例です。すべて長辺1280ドットに縮小しています。トリミングも適宜行っています。
Nikon D500+ AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR +TC14E-III
野鳥撮影の仕事が増えてきたので、より本格的に撮影するために500mmF4の単焦点レンズに移行しました。Nikonには600mm、800mmの単焦点もありますが、撮影スタイルを加味して慎重に選ぶ必要があります。
自分のD500を持ってニコンのショウルームに行き、400mmから800mmのすべての単焦点レンズで試写させてもらった結果、体力的に手持ちで長時間振り回せるのは500mmF4FLであると判断しました。600mm、800mmは手持ちで長時間水平に構えるのはかなり厳しいでしょう。
500mmF4FL は、ガラスよりも軽く収差が少ないフローライトレンズを使っているので500mm単焦点としてはかなり軽く作られていて、それまで使っていたサンニッパのセットと重さはあまり変わりません。300mmF2.8 +2倍テレコンで3200g、500mmF4+1.4倍テレコンで3280gで、その差80gです。しかも500mmF4は前玉にフローライトを使用しているため、前が軽くなっているので持った感じのバランスが良く、サンニッパのセットよりも軽く感じます。
レンズとしての光学性能は極めて高く、これ以上を求める人はほとんどいないと思います。MTF曲線を見てもグラフは天井に張り付いています。手持ちで野鳥撮影をする条件での究極のレンズでしょう。
基本の光学性能が極めて高いのでテレコンバータを使用してもあまり画像が劣化しません。普段は1.4倍のTC14E-IIIを挟んで使用しています。これで光学的に700mmF5.6、D500で使うとDXフォーマットなので1050mmF5.6という高性能超望遠レンズとなります。1000mmを超える超望遠レンズでもVR機構のお陰で手持ち撮影できるところが目から鱗です。最新の技術のお蔭です。
問題は価格です。仕事として仕方ないとは言え、写真で元を取るのはかなり困難です。自分は借金の返済に四苦八苦しています。
作例
Nikon D500+ AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR +TC14E-IIIでの作例です。すべて長辺1280ドットに縮小しています。トリミングも適宜行っています。
ご注意
カメラとレンズを買えば誰でもこのレベルの写真が撮れるわけではありません。それなりに写真の勉強をして、露出の過不足なく、カラーバランスも崩れることなく、背景をぼかしつつ手振れしないように絞りとシャッター速度をマニュアルで調整します。また、長時間超望遠レンズを支えるためには筋力トレーニングが必要かもしれません。鳥を発見する目を養うことも必要でしょう。
すでに野鳥撮影の技術が身についている人は問題ないと思いますが、はじめての人がいきなりこのセットを買ってもなかなか思うような写真は撮れないと思います。まずは絞りとシャッター速度、さらにデジタルになってからは感度の調整がマニュアルで自由自在に操れるようになる必要があります。日中の条件が良い時は絞り優先モードでも概ねうまく撮れると思いますが、厳しい条件ではマニュアルモードで撮る必要があります。ステップアップを目指す方々には、ぜひマニュアルモードで練習することをおすすめします。
仕事
自分の鳥の写真を使っていただいた出版物です。
追記
2021年末。いよいよNikon Z9が発売になりました。鳥も含まれた被写体検出が可能なので、野鳥撮影にもおすすめです。Fマウントの資産はFTZ IIを介してそのまま利用可能です。