手ブレ補正などというものが世の中にないころは、一般的に望遠レンズで撮影するときはシャッター速度を(1/焦点距離)秒以上の高速シャッターにしないとブレると言われていました。今でも手ブレ補正を使わない時はその指標が生きています。例えば、800mmの望遠レンズであれば、1/800秒以上の高速シャッターで撮影する必要があります。さらに、一眼レフの時代はミラーの振動やシャッター膜の振動とカメラ、望遠レンズ、三脚などの撮影システム全体の固有振動数と共振するシャッター速度だとブレが大きくなったりする問題も発生しました。人がシャッターボタンを押す振動も考慮してレリーズを使ったりします。振動を除去するために、シャッターの開閉を遅延させる仕組みまであったほどです。それほど望遠撮影はデリケートな作業でした。
昔から写真を撮っていた人にとって、手ブレ補正の技術が登場したときは目から鱗だったと思います。確か1980年代の松下電器の特許だったと記憶していますが、それがカメラのレンズに次々と応用され、現在に至っています。ボツ写真の一つの大きな原因であったブレから解放されたのです。
カメラメーカーはさらに独自の技術で改良を重ね、超望遠レンズでも手軽に低速シャッターで撮影できるようになりました。800mmの超望遠レンズを手持ちで使うなどということは、重さもさることながら、昔は考えられないことでした。技術の進歩によって不可能だった撮影が、可能になっています。これは素直に技術の進歩にあやかりたいところです。
CIPA準拠
手ブレ補正の表現も昔は各社ばらばらでしたが、利用者が比較検討できないので、利用者の利便性を高めるために発足した「カメラ映像機器工業会(Camera & Imaging Products Association 略称:CIPA) 」という団体が業界の世界標準を策定しています。これによって手ブレ補正もCIPAが定める条件でテストをして、補正効果を段数(0.5段刻み)で計測するようになりました。これによってユーザーはどのメーカーでもおおよその比較ができるようになりました。
手ブレ補正の効果測定も厳密に定められた計測方法がありますが、難しいので興味がある方はCIPAのウェブサイトを参照ください。
NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S(以下863)はレンズ単体で5段分の手ブレ補正効果があります。1段はシャッター速度で言うと2倍もしくは半分ですから、1/800秒を基準とすると、1/25秒ということになります。
それだけでも驚異的ですが、Nikonのウェブサイトでは、Z9との組み合わせでレンズとボディ内のVRをシンクロさせて、CIPA準拠で5.5段の手ブレ補正効果が得られると書かれています。計算上は1/17.7秒、カメラのシャッター速度で近いものとしては1/20秒や1/15秒まで手ブレ補正できるということです。
Z8と863の組み合わせでの手ブレ補正効果はNikonウェブサイトにも明記されていないのですが、Z9と同等であると仮定するとシンクロVRで同じ5.5段になって欲しいところです。
実験
800mmの超望遠レンズをそんな低速シャッターで撮れるのでしょうか。静止した置物でテスト撮影してみました。
- カメラ:Nikon Z8(Ver. 1.00)
- レンズ:NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
- ターゲット:株式会社紅石さんのジョウビタキメスの置物(非売品)
- 撮影条件:マニュアル露出:手ブレ補正ノーマル:手持ち撮影

上記条件で1/100秒から1/3段ずつ1/5秒まで撮影した結果です。画像は頭部1280角の切り出しです。数枚ずつ撮影して、ベストショットを選んでいます。
1/100 秒

800mm(DXだと1200mm相当)で手持ち1/100秒で撮れるだけでも驚異的ですが、このセットでは歩留まりよく、普通に撮れてしまいます。
1/80 秒

問題なく撮れます。
1/60 秒

1/60秒までは、しっかり持てば常用できます。ただし、被写体ブレが増えてくるので実際の野鳥ではこのあたりから歩留まりが悪くなります。
1/50 秒

1/40 秒

1/30 秒

ちょっとブレてしまいました。
1/25 秒

すごい。1/25秒手持ちでここまで写ります。
1/20 秒

ちょっとブレてしまいました。気を抜くとダメな領域です。CIPA準拠の5.5段の手ブレ補正は、1/20秒から1/15秒あたりのはずです。
1/15 秒

1/15秒手持ちでビシッと撮れました。手ブレ補正5.5段は驚異的です。ただし、歩留まりは相当悪くなります。私の腕では5−6枚に1枚くらいの確率です。
1/13 秒

限界を超えたようです。10枚くらい撮ってもブレています。
1/10 秒

ブレブレー。
1/8 秒

ブレブレー。
1/6 秒

おっ、これなんかちょっと頑張れば行けそうな絵です。でも1/6秒です。
1/5 秒

さすがにもうアウトです。
総評
素晴らしい性能です。
1/30秒や1/20秒の写真は等倍で見ると少しブレてしまいましたが、それは自分が下手なためで、1/15秒のできを見るとそこまでは手ブレ補正がかなり効いていることが分かります。Z9と同様、Z8も863との組み合わせで5.5段のシンクロVRの恩恵を受けられているようです。
さすがに1/10秒以下は使えない写真ですが、1/13あたりまではガッチリ構えて連写すれば歩留まりは悪くなるでしょうが何枚かに1枚はかっちり撮れそうな気もします。
現実的には生きた野鳥は風で揺れたり呼吸の体動もあるので、通常は1/100秒前後、あまり動かない鳥でも頑張って1/60秒程度が限界だと思いますが、手ブレ補正効果は余裕でそれを上回っていることが確認できました。あとは何を使っても補正不能な被写体ブレとの闘いになるでしょう。
これはニコンさんから「800mmであろうと躊躇せずに手持ちで使いなさい」と言われている気がします。
昔から写真をやっている人には信じられない結果だと思いますが、事実です。追試をしていただいてもほぼ同様な結果が再現できると思います。
野鳥実写
実際フィールドで1/60秒手持ちで家内が実践で撮った写真はこんな感じでした。

F Number : 6.3
Exposure Program : Aperture-priority AE
ISO : 110
Date/Time Original : 2023:05:26 04:21:26
Create Date : 2023:05:26 04:21:26
Exposure Compensation : -1/3
Focal Length : 800.0 mm

Nikon Z8 ボディ |
Z8用パワーバッテリーパック MB-N12 |
予備バッテリーEN-EL15c |
液晶保護ガラス |
Z8用L型ブラケット |
静止画メイン推奨 165GB |
大容量 325GB |
動画メイン大容量 650GB |
LEXARのCFexpress type B 128GB |
動画メインのプロの方向けNikon純正 660GB |
COBALTのSDXC 660GB |
24-120mm f/4 S イチオシ標準ズーム |
24-50mm f/4-6.3 |
24-70mm F/2.8 S |
Z 24-70mm f/4 S |
28-75mm f/2.8 |
NIKKOR Z 20mm f/1.8 S |
NIKKOR Z 24mm f/1.8S |
NIKKOR Z 50mm f/1.2S |
NIKKOR Z 85mm f/1.8S |
NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S |
NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S 位相フレネルレンズ採用の小型軽量の800mm単焦点レンズです。全長385mm、重量約2385gで、800mmの超望遠レンズとしては驚異的な軽さです。5段分(Z9との組み合わせでは5.5段)のVRにより、手持ち撮影が可能です。DXフォーマットで使用すると1200mmF6.3相当となります。野鳥撮影に威力を発揮します。 1.4倍、2倍のテレコンを使用しても画質の劣化が少なく、FXで1120mmF9、1600mmF13、DXで1680mmF9相当、2400mmF13相当となります。 |
Nikon Z TELECONVERTER TC-1.4X |
Nikon Z TELECONVERTER TC-2.0X |
AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR |
NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR |
マウントアダプターFTZ2 |