大変有難いことに、2024年版「身近な野鳥カレンダー」も緑書房さんから依頼をいただきました。1年で撮りためた数十万枚の中から2ヵ月ほどかけて、最終的に表紙と2025年1月分を含めて14枚に絞りました。この作業が一番楽しくもあり、一番大変な作業でもあります。
2023年8月末に印刷が上がり、全国の書店や通販サイトにて順次販売が開始されます。
毎年のことですが、よく機材や撮影方法について聞かれるのと、これから野鳥撮影をはじめる方々の参考になるかもしれないので、撮影データや機材、撮影のポイントなどを公開させていただきます。もちろん、これが最適解というものではなく、無限に解がある中の一例として参照ください。
カレンダー写真
今まで獣医学書や図鑑、写真集など、様々な書籍に携わって来ましたが、やはりカレンダーというジャンルは出版界の中でもかなり特殊な印刷物です。もちろん、私の中でも特別な想いで取り組んでいます。
写真は、A4サイズくらいまでは、悪い言い方をすれば「ごまかしが効く」ことが多いのですが、B4カレンダーの写真は一切のごまかしは通用しません。例えば、自分が専門としている獣医療系の写真などは、まずA4サイズ以上に伸ばすことはありません。構図も一般撮影では最悪と言われる、患部や術創をど真ん中に配置した、いわゆる「日の丸写真」です。使う時はトリミングして重要な部分を切り出す使い方なので、ピントと露出だけおさえておけば使えます。
しかし、カレンダー写真は解像度的に後処理はできないことを前提に、撮影時にそのまま使えるレベルに完成度を上げておく必要があります。
撮影の基本と言えば基本なのですが、デジタル時代ではともすると忘れ去られがちなことを思い出させてくれるテーマです。ブレの対策、露出、構図などを撮影時にしっかりと考えながらシャッターを押す必要があります。
機材
レンズ
Nikon社製NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S(以下863)という800mmのレンズを使っています。2022年にこのレンズを入手してからは、野鳥撮影はこのレンズ一択で、ずっと付けっぱなしです。超望遠の画角を手持ちで使える夢のようなレンズです。
位相フレネルレンズを使っているため、焦点距離800mmながら全長40㎝以下、重さ2.4kg弱に抑えられています。FXで800mmF6.3、DXで1200mmF6.3となります。
ボディ
家内はZ50、私はZ9を使用しています。家内は今年からZ8を使いはじめましたが、今回のカレンダーの家内の写真はZ50で撮影したものです。
撮影スタイル
フィールドを練り歩き、手持ちで撮影します。暗いシチュエーションなどでまれに一脚を使うことはありますが、三脚は一切使いません。
画素数と構図
B4サイズなので、それに耐える解像度が必要です。B4の長辺は364mmなので、インチにすると364/25.4=14.3インチとなります。印刷には350dpiは欲しいので、14.3×350=5005となります。つまり、画像の長辺は5000ドットは必要であるということになります。写真の矩形は3:2なので、短辺は3333ドットになります。画素数としては、最低でも5000×3333=16665000ピクセル(1666万画素、16Mpixel)必要になります。
昨今のデジタルカメラは20Mpixelはあると思いますので、この条件はクリアされていると思いますが、画素数としてはあまり余裕はないので、ほぼ撮ったまま使う必要があります。トリミングはできたとしてもほんの少しです。Z50はDXフォーマットですし、Z8やZ9も野鳥撮影はDXフォーマットで使用しています。いずれも20Mpixel前後です。
従って、野鳥をある程度の大きさで掲載したいとすると、トリミングではなく、光学的に撮影時に大きく写す必要があります。そのため、野鳥写真家には超望遠レンズが必要になります。
また、構図も画素数的にあまり修正する余裕がないので、撮影時にきちんと構図を整えておく必要があります。高画素機でしたらトリミングで被写体を拡大したり、構図を調整したりできますが、高画素機は高感度耐性が悪くなったりするので、そのせめぎ合いが問題です。
デジタル時代になってからは、適当に撮って、トリミングして大きさや構図を整えるという撮り方になりがちですが、ここは基本に立ち返って望遠レンズによる光学的な拡大と、撮影時にきちんと構図を考えて撮影するといったフィルム時代の撮影法が活きてきます。
フォーカスと解像度
一般的な書籍はB5~A5程度で、大きくてもA4サイズ程度です。しかも、ページ全面に印刷されるのは写真集のようなものに限られ、通常は長辺6-7cm程度のものが多いでしょう。B4サイズはカレンダー以外ではあまり目にすることはありません。
A3よりも一回り小さい程度なので、展覧会や写真展でも使えるレベルの大きさです。しかし、カレンダーの写真と写真展の写真は大きく異なります。
写真展などでは壁に掛かった写真を離れて鑑賞することが多いと思いますが、カレンダーの写真は普段からかなりの至近距離から見られるのです。狭いトイレなどで使われることも多く、顔を近づけて細部まで見られるという特徴があります。
そのため、ピント精度が高く、数十センチの距離から見られても破綻しない画質が必要です。そこがカレンダー写真の難しいところだと思っています。
どんなシチュエーションであっても、ターゲットの目にフォーカスが来ていない写真はボツです。カレンダー候補の写真の選別は、まずそこからはじめます。PC上で等倍に拡大して、目から少しでもピントが外れている写真は削除します。
大きく印刷したものを至近距離から鑑賞されるシチュエーションは、アイドルの写真集やポスターを撮る技術と共通するものがあると思います。まつ毛にピントが合っていなかったり、ブレていたり、解像度が足りなくてガサガサの写真だったら興ざめです。鳥たちはまさに自然界のアイドルなのです。
目のどこにピントを合わせるか
個人的には単焦点レンズを使うので、絞りはほぼ開放で、絞っても1段の間で使っています。863は開放F値6.3なので、F6.3、7.1、8辺りを使用します。それ以上絞ることはなく、ほとんどの写真は開放のF6.3で撮影しています。
それほど明るいレンズではありませんが、それでも開放で撮ると被写界深度は極めて薄く、斜めから撮ると目頭、目尻、上瞼、下瞼、角膜など、目の中だけでもパーツによってピントが合ったり、ボケたりします。
撮影距離にもよりますが、目の周囲のツブツブの羽毛や角膜にピントが合っているかどうかを判断基準にしています。人で言ったら睫毛や瞳のキャッチライトに相当する部品です。ここにピントが合ってさえいれば、嘴など、他の部品がボケていても意外と違和感がないものです。
ファイルフォーマット
面倒くさがり屋なので、RAWでの撮影はしていません。1日1万枚以上撮ることもあるので、RAW現像なんかしていられないからです。すべてJPGデータ一発撮りです。
露出
JPGはRGB各色8bitなのでラチチュードが狭く、露出にシビアです。常に白飛びしないように補正しながら撮影しています。白飛びした画像はピンボケと同様、即ボツです。白い羽毛が使われている野鳥は多いのですが、常に白い羽毛が飛ばないようにコントロールリングに割り当てた露出補正機能で調整します。白飛びさえしなければJPGでも十分カレンダー印刷に耐えるクオリティのデータになります。
カメラの露出モードは、基本はマニュアルで、ISO感度をオートにしています。前述のようにレンズの絞りはほぼ開放固定なので、鳥種や状況によってシャッター速度を変更し、露出はレンズのコントロールリングに割り当てた露出補正を使って調整しています。晴天の日中で十分光量があり、感度とシャッター速度のせめぎあいをする必要がないときは絞り優先で撮影します。
常に動き回っている鳥種はあまりシャッター速度を落とすことはできません。落ち着いた鳥種では大胆にシャッター速度を落として連写することもあります。
いずれにしてもその場に応じて臨機応変に調整できるようにしています。
とにかく野鳥撮影は速射性が重要です。露出はシャッター速度、絞り、感度の組み合わせで決まりますが、撮影中に複数のパラメーターを調整する時間はありません。絞りはほぼ開放固定で良いので、感度を見ながらシャッター速度を調整し、画面の調子をみて露出補正を行うスタイルです。同じシチュエーションであれば、シャッターもほぼ固定なので、露出はほぼ露出補正だけの調整で済むようになります。このようなスタイルでは、そこに集中できるので、カメラを野鳥に向けて1秒以内に適正露出に調整できるようになります。
Z9で撮影する場合は、ISOが1000を超えたらシャッター速度を落とし、さらに暗くなってISO 2000でも手持ちの限界以下になったら撮影終了という判断をしています。それより悪条件で無理して撮ってもカレンダーに使えるレベルの写真は撮れないからです。
感度
Z9などの高画素機は画素当たりの面積が小さくなるので、必然的に感度が犠牲になります。ネットに掲載するレベルの写真であればあまり気にする必要はないかもしれませんが、B4サイズの印刷に使うとなると、話は別です。Z9は4571万画素という高画素機になり、それと引き換えに高感度耐性はお世辞にも良いとは言えないカメラです。感度設定はISO 25600まで設定できますが、B4サイズの印刷に使うとすると、頑張ってISO 2000程度、できればISO 1000以下で撮影するように心がけています。
Z50は比較的高感度耐性が高く、ISO 4000くらいまでは実用域です。
そのため、カレンダー用の撮影は、常にシャッター速度と感度との闘いになります。明るければ問題ないのですが、多くの野鳥はブッシュや樹冠の暗い場所にいることが多く、低感度、高速シャッターで撮れることはまずありません。
可能な限り感度を下げたいのですが、そのためにシャッター速度を落とすと手ブレや被写体ブレが発生しやすくなります。野鳥撮影は、常に感度とシャッター速度の戦いになります。
写してはいけないもの
やはり虫ですかね。自分は嫌いではないのですが、野鳥は好きだけど虫は見るのも嫌、という人がかなり多いと思いますので、撮影はしますが、カレンダー候補からは外しています。
子育ての時などは、巣で待つ雛のために何匹もの青虫をクチバシいっぱいに挟んで頑張っている親鳥や、木に穴を空けて、うれしそうな顔で虫を引っ張り出しているコゲラなどのシーンはたくさんありますが、カレンダー写真としてはボツでしょう。
大好きなジョウビタキのメスが超かわいい顔でミミズを食べているシーンなんか載せたら二度と買ってくれないと思います。その前に編集部から止められるかな。
あとは営巣中の雛です。雛が万人うけする魔力を持っていることは分かっていても、人の存在で子育てを放棄してしまうような神経質な野鳥も多いので、巣や営巣中の雛の写真撮影は自粛しています。
おそらく(これも人間の勝手な判断ですが)人からのストレスをあまり感じていないであろうカルガモの子育てや、カイツブリの営巣は例外かもしれません。多くの人が行き来する公園の方が天敵が少なく、繁殖成功率が高くなることを学習したかのようなペアが様々な公園で見受けられています。水によって隔たれていて、人が決して近づいてこないことも学習しているのでしょう。
逆に人との距離が比較的近く、天敵が少ない公園をあえて繁殖地として選んでいることも考えられます。最近は様々な野鳥の都会進出が観測されていますが、人との共存方式に切り替え始めた野鳥も多いようです。すでに出来上がってしまった都市を野原に戻すことは不可能でしょうから、賢い野鳥たちの生き残るための新たな戦略であると捉えることもできます。
彼らのストレスになることなく、繁殖の妨げになっていないことが確認できる状況での撮影は問題ないと勝手ながら解釈させていただいております。
撮影地
野鳥保護の観点から、撮影地は非公開とさせていただいております。自分は会員ではありませんが、日本野鳥の会さんの「野鳥観察・撮影の初心者の方に向けた、マナーのガイドライン」を参考に行動しております。
申し訳ありませんが、お問い合わせにもお答え致しかねますので、予めご了承ください。
身近な野鳥カレンダー2024
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身近な野鳥カレンダー2024 ●壁掛タイプ ●B4判(257mm×364mm) ●14枚綴り ●1月はじまり ●日曜はじまり ●便利な前後月付き ●六曜入り 出版社 : 緑書房 (2023/9/25) 発売日 : 2023/9/25 ISBN-10 : 4895319296 ISBN-13 : 978-4895319294 価格:1,760円 身近なカワイイ野鳥カレンダーです。 |
身近な野鳥カレンダー2024:個々の写真の解説
これから野鳥撮影をはじめられる方々の参考になるかもしれませんので、各写真のEXIFデータと解説を記述しておきます。繰り返しますが、公開しているEXIFデータは最適解ではなく、単に一例です。絞り、シャッター速度、感度の組み合わせは膨大ですから、シチュエーションに応じて色々と試してみてください。
表紙:メジロ
メジロです。ボケ(植物のボケです)とレンギョウとユキヤナギが同時に咲き誇る美しいブッシュに蜜を吸いに来ました。後ろの黄色いレンギョウが大きくボケてくれて良い背景になってくれました。
夕方で暗かったので、シャッター速度を1/80秒まで落としています。こんな低速シャッターで、手持ちで800mmの超望遠撮影ができるのは私の腕が良いからではなく、カメラとレンズの強力な手ブレ補正のおかげです。これは表紙になりそうな予感がしたので、アイリングの白が飛ばないように露出補正をして連写しました。
トリミングはできないので、日の丸写真にならないよう、大胆にメジロを端に寄せて、ボケの花を大きく取り入れる構図にしてみました。Z9は鳥の目を検出してフォーカスポイントを設置してくれるので、構図の自由度が上がります。
メジロはあまりじっとしてくれない鳥種なので、いくら手ブレ補正が効いても1/80秒では被写体ブレは避けられません。動かないことを祈りながら連写しておくとその中に何枚かビシッと決まった写真が撮れます。
1月:ジョウビタキ(メス)
個人的に一番好きなジョウビタキのメスです。冬の寒い日は思いっきり体を膨らませてほぼ完全な球になります。カレンダーのコメントにも書きましたが、数学的に球は同じ体積で表面積が最も小さくなる形状です。鳥たちは本能的にそれを知っているのでしょう。かなり真球に近い形状に膨らんでいます。めちゃくちゃ可愛いフォルムです。彼女も寒いのでしょうが、こっちも寒さに耐えながら撮影しています。
カメラマンがたくさんいる時はなかなか出てきてくれませんが、暗くなって人がいなくなるとかなりの至近距離まで出てきてくれます。野鳥たちは朝起きた直後と、夕方寝る直前に結構活動します。どちらも薄暗く、撮影困難な時間帯です。個人的には夜型なので夕方しか撮影しませんが、暗くなるとカメラマンも減り、撮影限界まで撮ります。緑が一切なくなり、冬の寒さが伝わる雰囲気の写真になったと思います。
撮影限界を超えるような状況ですが、一か八かで感度が上がらないようにシャッター速度を1/25秒にまで落としています。それでようやく感度をISO 1100に抑えることができました。ジョウビタキは比較的落ち着いた鳥なので、何とか被写体ブレを起こさずに撮影できました。もちろん、何十枚も連射したなかの1枚です。
10年前なら確実にあきらめていたシチュエーションです。800mmの超望遠レンズをシャッター速度1/25秒で撮影しようとは思いもしませんでした。ひとえにボディとレンズのシンクロVR5.5段と、ミラーもシャッターもなく、物理的な振動を徹底的に排除した最新のカメラシステムのお陰です。
2月:ルリビタキ(オス)
「ねじくり」ポーズのルリビタキのオスです。
ルリビタキは歳を重ねるごとに青さが増して美しくなっていくそうです。1年目はオスとメスの区別がつかないほど地味な配色で、メスタイプと呼ばれますが、この個体は全身青くなっています。しかし、全身真っ青ではなく、まだまだら状態なので、2歳くらいのオスでしょうか。来年はより青さを増した美しいオスになって帰って来ることを期待しています。
しかし、何度見てもルリビタキの青さは特別です。構造色という羽の表面の微細な構造によって青い光だけを選択的に反射しているので青く見えています。水色でもシアンでもなく、紺色に近い大変濃い青です。
ルリビタキも日陰を好む傾向があるので、感度が上がらないように限界までシャッター速度を落として撮影しています。この写真は絞り開放でシャッター速度1/80秒です。これでようやくISO 1100に抑えることができました。
この写真は背中しか見えていないで青一色ですが、正面を向くと腹は白色で、脇にはオレンジ色の羽があり、意外と露出補正が難しくなります。白い羽が見えている場合は白が飛ばないように補正して撮影します。
3月:メジロ(ペア)
春は鳥たちの恋の季節です。カップルが成立すると、このような仲睦まじい姿を見せてくれます。見ているだけで幸せな気持ちになれます。
カップルは樹冠やブッシュの中にいることが多いので、枝被りとの闘いになります。枝を避けながら、ピンポイントで抜ける場所を探して撮影します。そのためにカメラ位置をミリ単位で動かす必要があり、手持ち撮影が基本です。
こういう写真は三脚を使うと撮れません。三脚は上下左右の回転は楽になりますが、カメラ位置をランダムに移動させるときは邪魔なだけです。
4月:アオジ(メス)
家内が一番好きなアオジです。Z50と863の組み合わせで家内が撮影しました。
アオジは比較的警戒心が弱く、突然至近距離に出てきてくれることがあります。これも急に目の前に降りてきたところを咄嗟に撮影したようです。その割にピントも露出もバッチリでした。向こうもこちらを見つけたようですが、恐れることもなく、可愛らしい良い表情をしてくれました。
ボディ側に手ブレ補正機構がないZ50ですが、レンズ側にVRがあり、レンズ単体でも5段のブレ補正効果があるとされているので、1/60秒での撮影に耐えています。しかし、それでも露出が足りないほど悪条件で、オートに設定してある感度はISO 4500まで跳ね上がってしまいました。しかし、Z50は高感度耐性が高く、4000前後までは実用的です。
5月:エナガ(幼鳥)
家内がZ50+863で撮影したエナガの幼鳥です。
この時期、エナガの幼鳥が、親やシジュウカラなどとの混群で移動しています。その中に入ると四方八方エナガに囲まれ、その状況を私達はエナガパラダイスと呼んでいます。
幼鳥は全体的に体の色が薄く、目の上の瞼部分が赤いのが特徴です。成鳥の同じ部分は黄色です。とにかくエナガの幼鳥は可愛さ爆発です。
生まれてはじめて目にした人間なのでしょうか。驚きと好奇心が入り混じったような表情が見てとれます。
この写真は逆光の難しいシチュエーションでしたが、うまく補正できたようです。一眼レフ時代は、家内は唯一経験と勘で行う露出補正が克服できませんでしたが、ミラーレスはファインダーを覗きながら直感的に行えるのでずいぶん歩留まりが良くなりました。輪郭が飛び気味なのは仕方ありません。その部分は犠牲にしても顔に露出を合わせるのが正解でしょう。+2/3が適切だったようです。
6月:ウグイス(オス)
まだ明確に黄色い広角隆起(口角の黄色い膨隆部)があり、幼鳥のように見えますが、もう普通にさえずっていました。去年生まれた若鳥でしょうか。
私にとってウグイスはかなり難易度が高い撮影ターゲットです。暗い樹冠やブッシュの中を常に動き回り、クリアに見えることは稀です。じっとすることはほぼないので、シャッター速度も1/100秒くらいが限界です。暗い場所にいることが多いので、必然的に感度が上がってしまいます。シャッター速度と感度のせめぎ合いを常に強いられます。
声の美しさとは対照的に、外観は大変地味な風貌ですが、可愛いらしい顔をしています。
常に枝や葉がかぶっていますが、辛抱強く待っていると時折ピンポイントでクリアに見える場所に出てきてくれることがあります。そのときにすかさず連写します。
7月:カイツブリ(親子)
幼鳥の可愛さがピカイチなカイツブリです。これほど可愛い幼鳥はいないと思っています。親はお世辞にもあまり可愛いとは言い難いのですが、幼鳥の可愛さは格別です。浮巣で繁殖し、親の背中に乗る姿も有名です。
一般的に営巣中の野鳥写真はマナー的に問題があります。沢山のカメラマンに囲まれたり不用意に近づいたりして繁殖を放棄してしまう例が報告されています。しかし、カイツブリは例外かもしれません。そもそも人が多い公園を選んで天敵を回避しているように見えます。少なくとも人に見られてストレスになっている素振りはありません。浮島なので人との距離が必然的にある程度離れているのも功を奏しているのでしょう。
この写真も人によっては問題視される可能性がありますが、すべての子供が無事に巣立っていったので、個人的には問題はないと思っています。
このようにターゲットに奥行きがある場合は少し絞り込みます。この写真は7.1に絞っています。距離が遠いので、このくらいでも手前の雛から奥の雛までピントが合っています。
水鳥など、水に浮いた鳥は簡単そうに見えて意外とブレで失敗することがあります。風があると水面は結構揺れるので、そこに浮いている野鳥は常に波とともに上下に細かく動いています。そのため、あまりシャッター速度は落とせません。1/100秒以下ではかなり歩留まりが悪くなるでしょう。手ブレではなく、被写体ブレが起きるのです。
この写真は被写体ブレを回避するために1/250秒で撮っています。
8月:カワセミ(幼鳥)
その年に生まれたカワセミの幼鳥でしょう。成鳥と比較すると、全体的にくすんだ色合いで、クチバシが短く、脚の色もくすんでいます。顔もどこかあどけない風貌です。しかし、もう独立して立派に一人で狩りをしていました。
カワセミも露出が難しい野鳥です。クチバシは真っ黒ですが、目のすぐ後ろに真っ白な羽毛のエリアがあります。新郎新婦と同様、両方に露出を合わせるのは困難です。JPGの8bitのラチチュードでは、白が飛び気味になってしまうのは仕方ないかもしれません。
基本に忠実に、鳥が向いている方向を大きく開けた構図で撮影しました。カメラの被写体検出機能の発展によって構図の自由度が向上したのがありがたいことです。
9月:ヤマガラ
ヤマガラの顔をみるといつもうれしくなります。この個体も若鳥でしょうか。あどけない可愛い顔をしています。
水浴びをしていたので、あまりシャッター速度を落とせず、感度がずいぶん上がってしまいました。自分の中の基準を大きく越えていますが、背景が暗く、高感度ノイズがあまり目立たなかったので採用となりました。
10月(キセキレイ)
貴婦人のようで大好きなキセキレイです。大変スマートで均整のとれたフォルムだと思います。たまたま背景の黄色く紅葉がはじまった木々が水面に写り込み、独特な雰囲気になりました。
キセキレイも常に動いているタイプの野鳥なので、あまりシャッター速度を落とせません。この写真も暗い状況でしたが、1/160秒に落としても感度はISO 1800までにしか下がりませんでした。これ以上シャッター速度を落とすと被写体ブレが発生するギリギリのせめぎ合いです。
11月:コゲラ
家内が撮影したコゲラです。コゲラも常に動いている鳥なので、比較的撮影困難な野鳥です。ふと止まった時を狙ったのでしょう。
Z50はボディ内手ブレ補正が搭載されていませんが、863の強力なVRだけでも手ブレ補正は有効に働いてくれます。手持ちでここまで撮れます。
コゲラも翼の白斑や喉の羽毛がかなり白く、白飛びしやすいので正確な露出補正が必要です。この写真は-1/3段で適切だったようです。
12月:ミソサザイ
自分の中で難易度MAXなのがミソサザイです。そもそも身近な野鳥なのか、と言われそうですが、我が家からバスで30分ほどの公園で、行く度に普通に見られるので、「身近」です。尾を90度に立ち上げるしぐさが可愛らしく、人気の野鳥です。
しかし、日本で1-2を争う小型の野鳥である上、名前の通り暗い小川沿いに棲息しているため、撮影は困難です。しかも常に動き回っています。さらに、出て来るのが夕方日が暮れてからです。納得できるミソサザイの写真を撮るために、冬の間は何度もその公園に通いました。
開放F6.3 、シャッター速度1/80秒、ISO 1600が使用システムと手持ち撮影する自分の技術の限界です。とにかく「動かないでくれー」と願いながら連写します。100枚に1枚でも被写体ブレを起こさずにビシッと撮れた写真があれば大成功です。歩留まりは決して良くはありません。
2025年1月:ルリビタキ(メスタイプ)
ルリビタキのメスタイプです。ルリビタキもジョウビタキもオスは「きれい」という表現になりますが、メスは「かわいい」という表現が適していると思います。地味な配色だからか、体の模様に惑わされることなくパーツの形状や位置が良く分かります。まん丸な大きな目と、楊枝を取ってつけたような細いクチバシがヒタキ系共通の特徴です。
ルリビタキのオスの幼鳥はメスの成鳥と区別がつかないほどそっくりなので、よく「メスタイプ」と呼ばれます。この写真の個体もいわゆるメスタイプです。オスの幼鳥なのか、メスの成鳥なのか、専門家が見ればわかるのでしょうが、私には判別できません。
頭から背にかけては地味なオリーブ色で、脇のオレンジと尾の青色にルリビタキである片鱗が見られます。
ヒタキ系の鳥は比較的落ち着いているので、シャッター速度を落としても被写体ブレを起こす確率は低くなります。ISOが1000以下になるようにシャッター速度を調整して撮影しました。この写真は1/160秒で、ISO 640になりました。
総論
二人で年間30万枚ほど撮影するので、その中から14枚を選別するのは至難の業です。
まずは表紙です。表紙のデザイン作業があるので、表紙の写真のみ他の13枚よりも先に編集部に送ります。表紙は言わばカレンダーの顔なので、売れ行きを左右する重要な一枚になります。毎年何枚かの写真を編集部にお送りして、編集部で数十人の社内投票を行って決定しています。今年は16枚の候補を送りました。緑書房さんは動物関連図書に強い出版社なので、働いている方々も動物や野鳥に強い方が多く、老若男女の確かな目で選ばれます。毎年そのような方法で最終的に1枚に決めてもらっています。それが冒頭のメジロの表紙です。
中面13枚は2ヵ月ほどかけてそれぞれ100枚ほどに絞り、最終的に13枚に絞り込みます。写真はすべて思い入れがあるので、選別するのは大変心苦しいのですが、心を鬼にして選びます。選ばれなかった写真の中にも、個人的には気に入っているものが多数ありますが、やはり万人向けのカレンダーの仕事ですから、泣く泣くボツにすることの連続です。あまりにマニアックすぎる写真はやはり一般には受け入れられないでしょう。
カレンダーを買っていただく方々を想像すると、おそらく可愛い野鳥が好きな女性が多いのではないかと思っています。かつ、ご自身ではあまり写真を撮られない純粋なバーダーの方々が多いのではないでしょうか。そう信じて、最終的には女性目線の評価を信じて、家内の意見を尊重しています。そのようにして、最終的な13枚に絞り込んでいます。
そんな経緯で、「かっこいい」とか「きれい」、「めずらしい」といった写真よりも、「かわいい」かどうかが選別の第一の優先基準になっています。
幼鳥が「かわいい」ことは周知の事実なのですが、幼鳥ばかりを選んでしまうと幼鳥カレンダーになってしまいます。特に営巣中の親子や雛の写真はどんなにかわいくても野鳥たちにストレスを与えるので、上記の理由によりカイツブリ以外はマナー的に禁止です。幼鳥であっても長いレンズでできるだけ遠くから撮影し、決して追いかけたりしないように気を付けなければなりません。
各月に波を持たせ、かわいい写真が続いたら、ちょっときれいな写真やかっこいい写真を入れる、といった工夫をしています。
また、季節性も感じられるようにしています。冬鳥は冬限定なので、自ずと決まって来ますが、春夏秋の雰囲気をどう表現するかもポイントです。選別時に迷った時は背景の色なども考えながら選んでいます。カレンダーに選ばれた写真から季節も感じていただければ幸いです。
野鳥が可愛らしいのは彼らが生まれ持った才能です。それをいかに写し取るかが写真家に求められる技術です。永遠に完璧な写真は撮れませんが、それだから続けられるのかもしれません。極寒の冬も、猛暑の炎天下でもより良い写真を求めて撮りに行ってしまいます。そんな魅力を鳥たちは持っています。
常に自然界のアイドルの写真集を作るつもりで撮影に挑んでいます。
身近な野鳥カレンダー2024
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身近な野鳥カレンダー2024 ●壁掛タイプ ●B4判(257mm×364mm) ●14枚綴り ●1月はじまり ●日曜はじまり ●便利な前後月付き ●六曜入り 出版社 : 緑書房 (2023/9/25) 発売日 : 2023/9/25 ISBN-13:9784895319294 価格:1,760円 カワイイ身近な野鳥カレンダーです。 |
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