高倍率ズームは画質が悪いのか
自分が高校か大学の頃ですから、かれこれ40年以上前ですが、Nikonのレンズ設計者のインタビュー記事を読んだのを今でも覚えています。その設計者は、画質を維持できるズーム比は3倍が限界であり、そのため画質を追及するNikonでは基本的にはズーム比3倍を超えるレンズは作らない、と言っておられたのが印象的でした(動画用高倍率レンズや、Fマウントでも1967年発売のZOOM-NIKKOR AUTO 50-300mm F4.5という6倍ズームもありましたが一般向けではなく、高価でまだ特殊な存在だったのでしょう)。
確かにその頃は単焦点の50mmが標準レンズとしてボディとセットで売られていた時代で、ズームレンズは画質が悪く、ちゃんと写真を撮るなら単焦点レンズを交換しながら撮るのが当たり前という時代でした。
1980年頃からカメラメーカー各社はズームレンズの設計に力を入れはじめ、使えるズームレンズも次々と登場します。それでも当時の有名カメラメーカーが作るズームレンズは35-70mmや70-210mmなど、無理のない3倍程度が主流でした。まだコンピュータもそれほど普及してなく、当時の硝材や加工技術では各種収差の除去が困難だったのでしょう。サードパーティーや聞いたことがないメーカーは誇らしげに高倍率のズームレンズを出していましたが、倍率だけすごくても、とても実用になる画質ではありませんでした。そんなこともあって、ユーザーも「高倍率ズーム=画質が悪い」と言うイメージを持ってしまいました。
しかし、コンピュータの普及とともに光学設計技術が進化し、低分散ガラスや異常部分分散ガラスなどの新しい硝材が開発され、非球面レンズなどの加工技術が飛躍的に進化して、徐々に「高倍率ズーム=画質が悪い」という図式は成り立たなくなってきます。その後、カメラとセットで買うのはズームレンズが当たり前となり、明るい高倍率のズームレンズも続々と登場しています。
もちろん、現在でも良く出来た単焦点にはかないませんが、昔言われていた「ズーム比は3倍程度が限界」の足枷はなくなってきています。ズームレンズだから画質が悪いとか、仕事では使えない、などということもなくなりました。画角を連続無段階で自由に変更できるということは本来は大変なメリットですから、高画質を維持したまま画角を変化できれば言うことはありません。初心者からプロまで、万人が使える最高のズームレンズになり得ます。
5倍ズーム
NIKKOR Z 24-120mm f/4はちょうど5倍のズーム比です。かつてNikonのレンズ設計者が画質を維持できる限界と言っていた3倍を遥かに超えています。1980年頃と2022年の現在では、レンズの設計手法も異なるでしょうし、この40年で新しい光学ガラスも続々と登場しています。40年前はすべて球面レンズでの構成でしたが、現在は非球面レンズの製造技術が進み、ズームレンズで顕著となる各種収差の除去が可能になったのでしょう。 NIKKOR Z 24-120mm f/4 のレンズ構成図を見て、5倍ものズーム比で、いまだかつてない高解像度のズームレンズを作ろうという意気込みを感じました。特殊な分散特性を示す新しい硝材を多用し、非球面研磨技術など、同社の技術の粋を集めて製作されていることがうかがえます。
全16枚のレンズの半数近い7枚のレンズが特殊な硝材(黄色)、非球面加工レンズ(水色)、特殊な硝材の非球面加工レンズ(橙色)で構成されています。
標準ズーム
慣例的に焦点距離50mmは標準レンズと呼ばれています。24-35mmのように50mmよりも広角側のズームは広角ズーム、70-200mmのように望遠側のズームは望遠ズームと呼ばれます。標準レンズの焦点域を含んで広角側から望遠側までズームできるレンズは標準ズームと呼ばれます。標準ズームは、広角域から望遠域まで1本のレンズでまかなえるので、大変利便性が高いズームレンズとなります。NIKKOR Z 24-120mm f/4は正にこの標準ズームです。単焦点レンズでよく使われる24mm、28mm、35mm、50mm、70mm、85mm、105mm、120mmを包含しています。それを1本のズームレンズで実現するのですから、一昔前だったら相当無理な設計をしていて、とても仕事で使える画質にはならなかったでしょう。
使用感
しかし、本レンズを実際使ってみて目から鱗でした。無理な設計と言えばそうなのでしょうが、最新の技術の粋を集めたこのレンズは、今までは相反していた利便性と高画質を高次元で両立させた夢のレンズだと思いました。
単焦点並みというのは褒め過ぎだとしても、まるで単焦点のような振舞いをします。一般的にズームレンズは単焦点に比べて残存収差が多く、開放では像が甘く、少し絞るとシャープになって行き、さらに絞ると回折によって像が悪化する傾向があります。一方、単焦点レンズは開放の解像度が最も高く、絞り込むほど回折によって像が甘くなる傾向があります。例外もありますが、開放から使えるかどうかが、単焦点とズームの大きな違いです。特に標準ズームは広角から望遠までを扱うので、全焦点域の開放性能を上げるのは相当困難なはずです。しかし、NIKKOR Z 24-120mm f/4は驚くことに全焦点域で安心して開放から使えるのです。実際に使ってみるまで半信半疑でしたが、テスト撮影をしてみて納得しました。24mmから120mmという、一般撮影では一番よく使う焦点域を1本でまかなえ、しかも仕事に使えるレベルの高画質です。
F4なのであまり明るくはありませんが、開放から使えること、さらにズーム全域で変化がないので、使い方によっては背景や前景を大きくぼかす撮影も可能です。ボケ味も悪くありません。F4に抑えたことは、小型化、軽量化にも貢献していることでしょう。常用レンズとしてオールマイティに使えるズームレンズです。
価格も15万円前後に抑えられていて、相当にコストパフォーマンスが高いレンズに仕上がっています。
作例
横幅1920ピクセルに縮小した画像です。
ズームイメージ
次の一連の画像は、24mm、28mm、35mm、50mm、70mm、85mm、120mmの画像です。5倍ズームはやはり迫力があります。全体を見渡す広角から、一部を拡大する望遠まで一本のレンズで実現できます。しかも全域に渡り、解像度に破綻がありません。すべて開放F4での撮影です。
画角変化
広角24mmと望遠120mmの画角の違いです。下の写真は同じ位置からの24mmと120mmのイメージです。
解像感
重箱の隅をつついても仕方ないので、最も重視する開放F4での中央付近の等倍拡大を添付します。上の画像24mmと120mmの中央付近の1920×1920ピクセルのエリアを切り出してみました。5倍ズームレンズを開放で撮影した像とは思えない解像感です。
絞りによる変化
同じ位置から開放F4、F5.6、F8、F11、F16、F22の中心画像を比較してみました。以下に中央部を拡大したイメージを列挙します。
開放F4から解像度が極めて高いことがわかります。F16あたりから回折によると思われる像の悪化が見られ、F22では若干甘い描写になりますが、等倍拡大しない限り十分に使える画質です。
サンプル画像
総評
素晴らしい描写性能だと思います。手振れ補正機構を内蔵していませんが、ボディ側手振れ補正があるカメラでは特に問題なく、120mmでも日中であれば気軽に手持ちで使えます。旅行に持って行くにはこのレンズはイチオシです。
しかも近距離撮影もこなせ、0.39倍のマクロに変身します。ペットや花などの撮影もこれ一本でこなせます。
Nikonが誇るSラインのレンズなので、解像度は折り紙付きです。今までのズームレンズのマイナスのイメージを払拭させる素晴らしいレンズだと思いました。自分は仕事にも積極的に使うつもりです。
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