野鳥の飛翔写真撮影法:光学照準器:ドットサイト(Dot Sight)

長年医療カメラマンとして主に獣医療現場の撮影を仕事としていましたが、野鳥に関してはそれほど興味もなく、まったくの素人でした。野鳥撮影にはまったきっかけは、医療現場の撮影のために某大学に出入りしていたときに知り合った某K博士との出会いです。私の医療写真を見られて、「こんな撮影技術があるなら鳥撮ってみない」と何気なく誘われたのがきっかけです。

フィルム時代はPentax645に望遠をつけて鈴鹿のF1の流し撮り撮影などもしていたので、野鳥くらい特に問題なく撮影できるだろうと高をくくっていました。医療カメラマンになってからはマクロ系のレンズしか使わないので、望遠側は105mmのマクロしかありませんでしたが、撮影に出かけました。目に見えるものは全て撮れると信じていましたが、結果惨敗です。

実に困難です。まず、焦点距離が足りず、AFも合わず、露出もむちゃくちゃ、構図もダメです。このとき、うまく撮れていたらそれで終わっていたでしょう。まったく撮れなかったために、野鳥撮影にはまることになってしまったのです。某K博士にしてやられました。

某K博士から受けた指導は、普通の止まっている鳥は撮るなということでした。枝にとまっている図鑑的な写真は先達の素晴らしい写真がすでにあるので、自分にしか撮れないスタイルを確立しろと。
何ヵ月も野鳥撮影にチャレンジして、飛翔写真の撮影に醍醐味を感じました。そのことを某K博士に話すと賛同されましたが、それがいばらの道であることに後で気づくことになります。

レンズ

まず野鳥を撮るには焦点距離が足りません。最初に購入したのはAF-S VR Zoom-Nikkor ED 70-200mm F2.8G(IF)(以下70-200)です。当時はD2Xsを使用していたので、DXフォーマットで105-300mm F2.8相当になり、さらにD2Xsにはクロップ機能があるため、140-400mm F2.8 相当となります。

しばらく使いましたが、やはり野鳥を撮るには焦点距離が足りません。単焦点の AF-S VR Nikkor ED 300mm F2.8G(IF) (以下サンニッパ)に手を出してしまいます。TC-20E IIIを使用すると600mm F5.6、DXフォーマットだと900mm F5.6相当となるので、野鳥撮影には主にその組み合わせで使っていました。

そしてさらにエスカレートして現在はAF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR(以下ゴーヨン)を使用しています。こちらもTC-14E IIIを使用すると700mm F5.6、DXフォーマットだと1050mm F5.6相当となります。

追記:2021年からZマウントに移行して、現在はNIKKOR Z 800mm f/6.3 VR Sを使用しています。下部追記参照。

飛翔写真

100mm程度の望遠であればファインダーで追えます。大型でゆっくり飛ぶトビくらいの野鳥であればすぐに撮れるようになります。
しかし、200mmになると急にハードルが高くなります。DXフォーマットなので、画角は300mm相当になりますが、ファインダーから外れるともう2度と戻せません。これは照準器をつける必要があると感じました。

光学照準器

天体写真を撮っていた頃に使っていた完全にオープンで、四角い枠に十字型に針金を張っただけの照準器があったので、それをホットシューにつけて使ってみましたが、精度が悪く、まったく使い物になりません。そもそも広角レンズの向きをアバウトに設定するためのもので、画角が狭いものに合わせる設計ではありません。

ドットサイト(Dot Sight)

ドットサイトと呼ばれる照準器です。元々は銃器用の照準器で、ライフルスコープのように倍率がかかるものではなく、湾曲したガラスを通してターゲットを見るだけなので、1倍です。ガラスの曲面がうまく計算されていて、中央にLEDの点が見え、多少顔を動かしても点の位置が変わらないように設計されています。本来は銃器の上面に20mm規格のレール(マウントベース)を取り付け、そこにかしめて固定して使うものです。

初期のものは 赤色 LEDの点が見えるだけでしたが、LEDの色を緑にしたり、レチクルパターンを様々な形状に切りかえられたりできるものが現在は主流となっています。赤色LEDの方が見やすいイメージですが、フィールドではなぜか緑色LEDの方が視認性が高く感じます。個人差があると思いますが、人間の目の感度が一番高い領域の波長なのでしょうか。

筒の中を覗くようなチューブ型と曲面ガラスがむき出しのオープン型があります。野鳥撮影には、周りが良く見えるオープン型がおすすめです。シンプルで、価格も安い割に、照準器の機能としては十分です。

数千円で買えるものから数万円のものまであり、品質も様々です。ダメなものは本当にダメです。すぐに点かなくなったり、レンズが外れたり、作りが粗雑で照準器の役割を果たさないものもたくさんあります。高いものが良いわけでもありません。安くても良いものはあります。この手のものはどっちみちまがい物なので、バラツキが大きいのでしょう。

下に掲載したドットサイトは自信を持って推奨できるものではありません。使っているものはすでに廃版になっているので、これらは使用したことがない製品です。アタリハズレが激しい世界なので、購入と使用は自己責任でお願いします。自分も何度も騙されました(^^)。すぐ壊れたけど、安いから騙されたと思って同じものをもう一度買ったらすごく良かった、などということが普通に起きます。

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ホロサイト(Holographic Sight)

本物は、1倍の視野にホログラムによってレチクルパターンを浮かび上がらせる照準器です。しかし、ホンモノは見たことがありません。レプリカでもオープンタイプよりもレチクルは見やすいと思いますが、大きく重いのが難点です。電池は単三エネループが使えるので便利です。体力がある人にはおすすめです。

タダモノではなさそうな、独特な形をしています。左が前で、右後方から覗きます

見やすい照準器でしたが、私が購入した製品は自動タイムアウトが解除できず、使おうと思うと消えているのでダメでした。常時オンにできれば普通のドットサイトよりも見やすい上、単三電池でエネループが使えるので楽です。製品によっては良いかもしれません。

自分が使っているものはすでに廃版になっているので、下に掲載した商品は使用したことがない製品です。購入と使用は自己責任でお願いします。かなりアタリハズレがあるでしょう。いずれにしてもこれらは全てレプリカで、実はホロサイトっぽく見えるドットサイトです。ホンモノも売ってますが、10万以上します。

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マウントベース、マウントレール、ピカティニーレール

戦地での実践的な銃火器には、照準器の他、銃剣やハンドガード、懐中電灯など、様々なものが取り付けられます。それらがすべて別々の専用マウントだと非常に煩雑になるため、アメリカのピカティニー・アーセナル兵器製造所が銃器にアクセサリを取り付けるためのマウントの標準化を提案しました。それが現在マウントベースとか、ピカティニーレールと呼ばれている幅20mmの標準化レールです。断面形状は、最大幅が20mmで、角は45度に切り落とされています。長さの規定はありませんが、上面は10mm毎に5.25mm幅の溝が切られていて、レールを左右から挟むネジが通るようになっています。
角度誤差が出ないようにアリ型アリ溝式で左右からかしめる方式です。取付、取り外しを繰り返しても、キャリブレーションを行った光学照準器がそのまま使えることを考慮した設計です。
このピカティニーレールがデファクトスタンダードとなっているため、多くの光学照準器などはこの20mm幅のレールに対応しています。モデルガンやエアーガン、サバイバルゲームなどで使用するアクセサリもほとんどこの規格に準拠しているので、かなり互換性が高くなっています。名称はメーカーによってさまざまな表記がされていますが、20mm、マウント、レール、ピカティニー、ベースなどのキーワードが入っていれば概ね問題ないと思います。

銃器に使えるのですから、カメラにもレンズの光軸と並行にマウントレールさえ取り付ければ20mmレール対応のほとんどの光学照準器が取り付けられるはずです。

サバイバルゲーム流行のお蔭で、こういったパーツが容易に入手できるようになりました。20mmレールは各種売られています。樹脂製のものも売られていますが、精度が出ないので、アルミ製のものをおすすめします。

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フードへの取付

70-200mmを使っていた頃は、フードを加工してマウントレールを取り付けました。このレンズには立派なフードが付いています。エンプラのしっかりした作りで、ロック機構までついています。ほとんど遊びもないので、照準器を取り付けても精度は保てそうです。

昔は20mmのマウントレールは入手困難だったので、アルミの廃材で自作しました。撮影用のドットサイトなので、頻繁に着脱する必要もありません。とにかく20mm幅のアルミ角材に溝を掘っただけです。フードにはネジ止めしてあります。

現地で照準器付のフードをカチャッと装着するだけで使用できます。一度キャリブレーションをしておけばそうそう狂いません。これは便利でした。

レンズフットへの取付(山式サイティング)

自分の撮影スタイルは手持ちなので、レンズフットは遊んでいます。300mmF2.8と500mmF4には、上に向けたレンズフットに取り付ける方法を開発しました。レンズフットがある超望遠レンズを手持ちで扱うという前提のサイティングを紹介します。

自分のカメラシステムは全てアルカスイス互換にしています。300mmF2.8 も500mmF4もレンズフット自体をアルカスイス互換のものに換装していますので、アルカスイス互換のクランプ側に20mmのマウントレールを取り付けるだけで照準器が取り付けられるようになります。

とにかく精度が重要なので、クランプ2ヵ所に穴を開けてネジ切りを行い、マウントレールをネジ止めしました。2ヵ所でがっちり固定しているので、びくともしません。加工にはボール盤とタップが必要です。
マウントレールに光学照準器を取り付け、それをレンズフットに取り付ければ準備完了です。

その状態で一度厳密にキャリブレーションを行います。自分は1kmほど離れたターゲットをファインダー中央で捉え、照準器を同じターゲットに合わせます。これでほぼ無限遠のキャリブレーションができます。

この取付方法の特徴は、分解して持ち歩いてもすぐに取り付けられて、照準のキャリブレーションの必要がないところです。1000mmの画角は2.5°なので、1°の狂いは致命的です。左右は中心から±1°、上下は±0.7°ほどずれるだけで画面から出てしまう計算です。取付精度は0.1°以内に収めないと使い物にならないでしょう。付けたり外したりしても方向の精度を保てるクイックシューはアリ型アリ溝式のアルカスイス方式でした。

運ぶときはアルカスイス互換のレンズフットとの接続だけを外して持ち歩き、使う時は装着するだけで瞬時に使えます。アルカスイス方式は着脱を繰り返してもどこかにぶつけたりしない限りほとんどずれることはありません。ずっと使っていますが、年に一度キャリブレーションをする程度です。

レンズフット上向き-アルカスイス互換プレートとクランプ-ピカティニーレール-ドットサイトで取り付け。

ドットサイトをどこに付けると良いかという議論は色々とあると思いますが、個人的には色々と試した結果、やはり光軸の真上が最も使いやすいと思いました。レンズフットは360度まわって任意の位置に固定できますが、真上に合わせています。
カメラケージなどを付けると取り付けの自由度が増しますが、カメラの横は違和感を感じます。ファインダーから顔を上げてすぐサイトを覗ける位置が一番タイムラグも少なく、瞬時にターゲットを追尾できます。

前後の取付位置も意見が分かれると思いますが、これも色々と試した結果、一番手前、ファインダー寄りに設置するのが一番速射性が高いと思います。銃器でも基本的に手前に付けるようです。

空バックの飛翔写真は簡単で、ちょっと練習をすればすぐに撮れるようになると思います。
個人的には背景があるシチュエーションにこだわっています。空バックだと面白くありませんが、背景があると臨場感やスピード感が一気に上がります。しかし、背景がある飛翔写真は急に難しくなります。追尾精度を上げないと背景にピントが合ってしまいます。練習あるのみです。光学照準器で追って、ファインダー中央で追尾できるようになればフォーカスも合いやすくなります。

馴れて来たらシャッター速度を落として流し撮りにチャレンジしてみてください。一般的に鳥の飛行速度は速いので、それほど低速シャッターにしなくても背景はある程度流れてくれます。1/500秒以下に落とせればスピード感を表現できるでしょう。それ以上落とすと技術的に追尾が困難になります。

本当は……

本を出したりウェブに飛翔写真を掲載したりしていると、飛翔写真の撮影法をよく聞かれます。今回それをまとめて具体的に書いてみました。
ここまで記事を読まれた方は、こんな風に光学照準器を付ければ簡単にバシバシ撮れると思われたことでしょう。しかし、現実はそう簡単ではありません。この方式は2000年頃から20年以上使っていますが、特に空以外の背景がある飛翔写真は何十年チャレンジしても成功率は1%以下です。それもカメラの進化にあやかっています。D1x、D2xs、D300、D500とカメラが進化するにつれて、使えるAFモードやAFエリアモードが増え、歩留まりも少しは上がって来ています。
それでも目にばっちりピントが来て、露出も完璧で白飛びもなく、頭部や動体にブレがなく、翼は羽ばたきで少しブレ、背景は移動方向にできるだけ流れているような「理想的な飛翔写真」はおそらく千枚に1枚くらいの確率でしょう。もっと低いかもしれません。本に使った写真も、このページに使った写真も、実はその裏に数千倍のボツ写真があるのです。追尾する技術もさることながら、絞り、シャッター速度、露出の補正、AFモード、AFエリアなどの組み合わせによって成功率は変化します。さらに背景は飛翔とともに刻々と変化するので、リアルタイムに調整する時間はありません。フォーカスはばっちりなのに白飛びしちゃったとか、背景のコントラストが高いとどうやっても背景にしかピントが合わないシチュエーションもたくさんあります。正直言って、1日撮影して全部ボツのこともありました。そんなものです。
今後はカメラがミラーレス化され、鳥認識が行われるようになると、勝手に鳥にフォーカスが合い、鳥に露出を合わせてくれるようになってくるでしょう。流し撮りに最適なシャッター速度も自動で設定されるようになるかもしれません。そうなればこんなに苦労せずに、誰でも簡単に飛翔写真が撮れるようになってくるでしょう。

カメラの進化によって、それまで一部の人間の努力によってのみ培われてきた技術が誰にでも可能になるのは、うれしくもあり、残念でもあります。少なくともプロカメラマンの仕事領域は確実に小さくなってきています。

追記(2023年3月)

2023年現在使用しているメインシステムは、Z9+800mm f/6.3 VR Sです。ハチロクサンのアルカスイス互換レンズフットが出たので、レンズフットを上に向けて照準器を取り付けています。
低いレンズフットを使用しているので、ドットサイトがより光軸に近付き、パララックスが少なくなりました。

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著者
Yama

大学卒業後しばらくは建築設計に従事。その後人工知能の研究所で知的CADシステムやエキスパートシステムを開発。15年ほどプログラマをしていましたが、管理職になるのが嫌で退職。現在は某大学の非常勤講師(情報学)、動物医療系および野鳥写真家、ウェブプログラマ、出版業などをしながら細々と暮らしています。

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