Nikon Z9+NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S+Z TELECONVERTER TC-2.0x:レンズテスト

Nikon Z9+NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR Sがここまで優秀だと、どこまで使えるのか限界を試してみたくなります。酒と同じで、限界を知ればコントロール可能になります。

今回はNikon純正のテレコンバーター(以下テレコン)「Z TELECONVERTER TC-2.0x」を試してみました。限界を知りたかったので、1.4倍ではなく、Maxの2倍テレコンです。800mmを入手してすぐに注文したのですが、他の望遠でも使えるために大変人気なようで、入荷は12月と書かれていました。Zレンズはテレコンも含めて品薄です。気長に待つつもりでいたのですが、8月23日に届きました。注文から約4ヵ月です。

テレコンってどうなの

テレコンはプロ・アマ問わず賛否両論で、画質が悪くなるという悪印象を持っている人がたくさんいます。逆に絶賛している人はあまり見たことがありません。そもそも既存のレンズの焦点距離を1.4倍とか2倍に引き延ばすのですから、「無理を承知で使う」という頭がどこかにあるのでしょう。数万円の投資で簡単に焦点距離が2倍になるなんて、そんなうまい話があるわけがありません。
しかし、最近の進化したレンズ設計や非球面レンズなどの研磨技術、コーティング技術などによって、数十年前のテレコンイメージとは随分と変わってきています。条件によっては「そんなうまい話し」になる可能性も秘めています。
昔は確かに今よりも元レンズの収差も多く、テレコンの設計もいい加減なものが多かったので実用的なものは少なかった印象です。残存収差も拡大されるので、像はぼやけ、コーティング技術も今ほど良くなかったのでコントラストも低下して見るに耐えない写真しか撮れない組み合わせが多かったのも事実です。

しかし、近代レンズでのテレコンの個人的な印象は、「元のレンズのでき次第」と思っています。元がこだわって作られた単焦点レンズであれば十分画質を保ったまま拡大できます。一方、今も昔も収差などが残っているレンズで使用すると残存収差も1.4倍や2倍に拡大されるので、あからさまに像が悪化します。必然的に元レンズはズームレンズよりも単焦点レンズが有利になります。

また、F値が暗くなるので、感度が上がり、高感度ノイズによって画質が劣化したと感じることも多いでしょう。もしくは、暗くなる分シャッター速度が遅くなり、手ブレや被写体ブレによる画質劣化が起きる可能性が高くなります。そういったことから「テレコン=画質劣化」のイメージが出来上がってしまったのでしょう。

近代レンズでもそのイメージは続いていますが、画質劣化の多くは光学的な劣化と言うよりも、現在もF値が暗くなることに起因する間違った使い方による画質劣化が多いのではないかと推定できます。
光学的な画質劣化なのか、高感度による画質劣化なのか、はたまた低速シャッターによって発生したブレによる画質劣化なのか、正しく見極める必要があります。光学的な劣化であればどうしようもできませんが、その他は使う場面を選んだり、撮影技術による対策が可能です。

色収差が十分に補正されていて、MTF曲線が天井に張り付いているような単焦点レンズで、かつ、十分な光量がある環境では、光学的には普通に仕事で使えるレベルの画質を維持できます。もちろん、テレコンは純正品で、収差補正やコーティング技術をふんだんに使用したものであることが前提です。

Fマウント時代も1.4倍、2倍のテレコンバーターは使っていました。 300mmF2.8や500mmF4ではほぼ常用していましたが、このクラスのレンズであればテレコンによる光学的な像の悪化は比較的少なく、仕事でも十分使える範囲でした。

したがって、純正の単焦点レンズで日中に使う限り、個人的にはテレコンバーターは便利で仕事にも使えるという印象を持っています。比較すれば画像は劣化しているのでしょうが、トリミングして拡大するよりも単焦点レンズであれば光学的に焦点距離を伸ばした方が画質的には有利です。

NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR Sに2倍テレコンは無謀か

とは言っても、ベースが800mmF6.3です。DXフォーマットで使うので1200mm相当になります。それにZ TELECONVERTER TC-2.0xを取り付けると、2400mm F13というカメラレンズとしてはかなり究極の超超望遠レンズとなります。

個人的にはフィールドでは三脚は使わず、野鳥撮影はすべて手持ち撮影にこだわっています。果たして2400mmF13などというほぼ望遠鏡レベルの焦点距離を手持ちで使えるのでしょうか。無謀とも思える挑戦ですが、800mmF6.3には単体で5段、Z9との組み合わせで5.5段もの手ブレ補正という強力な武器があります。

テレコンを付けても同じ計算式が使えるのでしょうか。使えるとしたら、2400mmの画角なので、シャッター速度は1/2400 sを基準として、5段で約1/80 s、6段で約1/40 sという計算になります。Z9で使うと1/60 s程度までは手持ちで扱えるということになります。はたしてそんなことができるのでしょうか。

テスト撮影

テレコンなし

10mほど先に貼った自作ターゲットをZ9+800mmF6.3で手持ち撮影。

Camera Model Name : NIKON Z 9
Lens ID : NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
Exposure Time : 1/160
F Number : 6.3
Exposure Program : Manual
ISO : 2000
Exposure Compensation : +5/3
中央部拡大

素のZ 800mm f/6.3 VR S。DXフォーマットなので1200mm相当ですが、手持ち1/160 sで問題なく撮影できます。

Z TELECONVERTER TC-2.0x

10mほど先に貼った自作ターゲットをZ9+800mmF6.3に2倍テレコンを挟んで手持ち撮影。

1/160 s

Camera Model Name : NIKON Z 9
Lens ID : NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S Z TC-2.0x
Exposure Time : 1/160
F Number : 13.0
Exposure Program : Manual
ISO : 11400
Exposure Compensation : +5/3
中央部拡大

開放でF13になってしまうので、同じシャッター速度でISOが一気に11400に跳ね上がってしまいました。Z9は高感度耐性があまりよろしくないので、かなりノイジーな画像になっています。日中の明るい環境であればより鮮明な画像になっていたでしょう。
エッジに若干のカラーフリンジを感じますが、等倍拡大でようやく確認できる程度です。元の素性が良ければ仕事で使えるレベルを維持していると思います。

それよりもターゲットをファインダーに導入して、手持ちで中央に維持するのがかなり困難です。

1/60 s

Camera Model Name : NIKON Z 9
Lens ID : NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S Z TC-2.0x
Exposure Time : 1/60
F Number : 13.0
Exposure Program : Manual
ISO : 4500
Exposure Compensation : +5/3

2400mm相当の公称5.5段の手ブレ補正はこのくらいのシャッター速度になります。三脚も一脚も使わず、手に持って撮っただけですが、ほぼブレていません。使えそうです。

1/50 s

Camera Model Name : NIKON Z 9
Lens ID : NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S Z TC-2.0x
Exposure Time : 1/50
F Number : 13.0
Exposure Program : Manual
ISO : 3600
Exposure Compensation : +5/3

どこまで写せるか、限界にチャレンジです。これは1/50 s手持ち撮影です。ちょっとブレています。練習すればこのくらいまでは行けそうです。

1/40 s

Camera Model Name : NIKON Z 9
Lens ID : NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S Z TC-2.0x
Exposure Time : 1/40
F Number : 13.0
Exposure Program : Manual
ISO : 2800
Exposure Compensation : +5/3

もう限界を超えています。緊急時には使えるかもしれませんが、作品としてはボツです。

1/30 s

Camera Model Name : NIKON Z 9
Lens ID : NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S Z TC-2.0x
Exposure Time : 1/30
F Number : 13.0
Exposure Program : Manual
ISO : 2000
Exposure Compensation : +5/3

2400mmの手持ち1/30 sです。もっとブレブレかと思っていましたが、意外と写っています。驚異的です。

1/20 s

Camera Model Name : NIKON Z 9
Lens ID : NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S Z TC-2.0x
Exposure Time : 1/20
F Number : 13.0
Exposure Program : Manual
ISO : 1250
Exposure Compensation : +5/3

さすがにほとんどのコマはブレブレだし、ノーマルモードの手ブレ補正だとセンタリングであっちこっちに動いてしまうので、構図のコントロールがかなり困難です。しかし、10枚に1枚くらいこのレベルに写っているものがあります。2400mm相当手持ち1/20 s!フェンスに乗せたり、一脚を使えば、実戦でこのくらいのシャッター速度まで使えるかもしれません。
自分の技術ではこれが限界です。1/10 sは見せられる写真は一枚もありませんでした。

建築物

約1.7km先のかつてのホテルエンパイア。

テレコンなし

Exposure Time : 1/500
F Number : 6.3
Exposure Program : Manual
ISO : 220
Exposure Compensation : +1/3
上の写真の1920×1280切り出し

Z TELECONVERTER TC-2.0x

Exposure Time : 1/500
F Number : 13.0
Exposure Program : Manual
ISO : 1250
Exposure Compensation : +2/3
上の写真の1920×1280切り出し
2倍テレコンを介して撮った画像は、等倍拡大してみてようやくコントラストが強いエッジで若干のパープルフリンジが認められる程度です。1.7km先の建物の避雷針を取り付けているボルトナットの個数が数えられる程度の解像感です。
ゴルゴ13は2km先のフットボールを打ち抜けますが、2400mm程度の焦点距離でようやく見えてくる世界です。

重量とバランス

Z TELECONVERTER TC-2.0x自体は長さ3㎝ほどで270gほどの重さしかないのですが、これを800mmとZ9の間に取り付けるだけでなぜか急に重くなったように感じます。バランスが変わるからでしょうか。800mm単体では普通に扱えていたのに、テレコンを付けると水平に構えるだけで結構しんどくなります。常用ではなく、ここぞという場面で、状況に応じて使うといった使い方になると思います。
ただし、形状的に望遠レンズ側にテレコンのレンズがかなり飛び出したおかしな形をしているので、取り扱いにかなり気を使います。取り付け、取り外しは落ち着いてテーブルの上などで行わないと事故が起きそうです。フィールドで気軽に着脱ができるような代物ではありません。

総評

テレコンバーターというものの特性を正しく理解して、それなりの使い方をすれば近代のレンズシステムではそれほど画質低下を気にすることなく使用できるでしょう。元のレンズの性能が良いことが前提ですが、近代のレンズでは収差補正が十分になされているものが多く、メーカーがテレコン対応としているレンズでは概ね問題ないと思います。もちろん、劣化は避けられないでしょうが、トリミングで2倍に拡大するよりも、光学的に2倍にしたほうが画質は有利になります。ボディ側の画像処理でどの程度収差補正がされているのかわかりませんが、結果オーライです。

写真歴は何十年もありますが、ミラーレス初心者なので変なところに感動してしまいました。テレコンを入れてF6.3 からF13に2段も暗くなったのですが、ファインダーでは同じ明るさに見えます。当たり前ですが、一眼レフでは暗いレンズを使えばファインダーは当然暗くなり、テレコンを挟めば暗くなります。F13ともなると一眼レフではファインダーは真っ暗で、AFも作動しません。
ミラーレスでは常に仕上がり状態が表示されているので、適切な絞り、シャッター速度、感度の組み合わせの撮影結果がEVFに表示されます。AFも一眼レフのようなF値による制約はなく、位相差AFができないほど暗くなるとコントラストAFが働くのでF13でもAF撮影ができます。ただし、当然のことながらAF速度は著しく低下します。日中の明るい屋外などでの使用では問題ないでしょう。

2倍テレコン装着DXフォーマットで2400mm相当ですが、静止した被写体であれば仕様通り1/60 sくらいまでは手持ちで撮影可能です。公称5.5段の手ブレ補正は伊達ではありません。どうやら段数の計算はテレコンを付けても同様に計算して良いようです。
ただし、テストチャートや建物は動かないので公称値での撮影ができても、野鳥では被写体ブレが起きるので、低速限界は1/100~1/200 s程度でしょう。いずれにしても、素の800mm(1200mm)でもテレコン付きの1600mm(2400mm)でもシャッター速度1/200くらいまでは使えるということが驚異的です。F値が13にまでなってしまうので、明るい状況でしか使えませんが、光学的画質劣化は少なく、適切な感度と手振れ限界以上のシャッター速度が維持できれば、画質は維持できそうです。

万人にお勧めできるものではありませんが、きちんと特性を理解して、マニュアル撮影でコントロール可能な方には使いこなせると思います。何より2400mm相当の超超望遠の画角が必要で手持ち撮影をするのであれば、このセット一択かもしれません。テレコンと言っても安い買い物ではないので、できれば購入前にショウルームなどで試してみられることを強くおすすめします。

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DXフォーマットで使用すると900mmF6.3相当となります。野鳥撮影に威力を発揮します。
1.4倍、2倍のテレコンを使用しても画質の劣化が少なく、FXで840mmF9、1200mmF13、DXで1260mmF9相当、1680mmF13相当となります。
最短撮影距離が4mなので、野鳥が近い公園などでは有利となります。

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DXフォーマットで使用すると1200mmF6.3相当となります。野鳥撮影に威力を発揮します。
1.4倍、2倍のテレコンを使用しても画質の劣化が少なく、FXで1120mmF9、1600mmF13、DXで1680mmF9相当、2400mmF13相当となります。 最短撮影距離が5mあります。野鳥が遠い公園や小型の野鳥を大きく写したいときに有利となります。
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著者
Yama

大学卒業後しばらくは建築設計に従事。その後人工知能の研究所で知的CADシステムやエキスパートシステムを開発。15年ほどプログラマをしていましたが、管理職になるのが嫌で退職。現在は某大学の非常勤講師(情報学)、動物医療系および野鳥写真家、ウェブプログラマ、出版業などをしながら細々と暮らしています。

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