私たちフィルム世代の旧人類は、テレコンバーター(以下テレコン)に対してあまり良い印象を持っていませんでした。
1960年代から一眼レフカメラが普及しはじめ、カメラは一部の専門家の道具ではなく、家電と同様に一家に一台あるのが当たり前の道具になりました。レンズの仕様がそのままファインダーに反映されるのが一元レフの醍醐味ですから、各社から様々な焦点距離のレンズやズームレンズが販売され、空前のカメラブームとなります。
そんな時代に雨後の筍のように各社からテレコンなるレンズが登場しました。手持ちのレンズに取り付けると、焦点距離を手軽に1.4倍や1.7倍、2倍に引き伸ばすことができるという夢のようなレンズです。手軽に望遠や超望遠撮影ができるというふれこみです。
そもそも望遠レンズを買う資金がないからテレコンで焦点距離を伸ばそうという魂胆ですから、安価な製品が求められ、低価格のサードパーティーの製品がたくさん出回りました。
昔のテレコンのイメージ
そんな背景で登場したテレコンでしたので、画質が良いはずもなく、多くの人は1度使ってガッカリして使わなくなるというパターンが多かったのではないでしょうか。
一応像は拡大はされますが、ディテールは失われ、紗がかかったようにコントラストが低下し、ボケボケの写真になってしまいます。やっぱりそんな夢のようなことは起きないのです。
発想としては面白いのですが、時期尚早だったのかもしれません。
今のように手振れ補正もない時代ですから、暗くなった分、シャッター速度を遅くするしかなく、光学的甘さに加えてブレも加算されました。昔から写真をやっている人の家には、使わなくなったテレコンがいくつか転がっていることでしょう。
70年代80年代の頃は、まだコンピュータも普及してなく、レンズも球面レンズのみでの構成でした。硝材も現在のようにフローライトや異常部分分散ガラスなども一般的ではなかったため、収差補正という意味では現在よりもかなり不利な状況でした。コーティング技術も今とは比べ物になりません。
そのため、テレコンを使うとマスターレンズの残存収差も拡大され、テレコンがさらに収差やゴーストを追加することになり、手振れも被写体ブレも拡大され、ほぼ実用にならないほど像が悪化するといったように、悪いことが重なり合った状態になっていたのでしょう。
特に1970年代に各社からズームレンズが発売されましたが、当時のズームレンズは残存収差が多く、テレコンを使うとかなり像が悪化する印象でした。
そんな経緯から一眼レフ黎明期を経験している人は、「テレコンは使えない」という固定観念を植え付けられてしまった人が多かったのです。
現代のテレコン
自分も昔のイメージでテレコンに対して悪いイメージしかなかったのですが、仕事でどうしても長焦点距離を使う必要があり、2倍のテレコンを使って驚きました。 まさに目から鱗です。特にZマウントになってからのテレコンは秀逸だと感じました。
マスターレンズが単焦点だからかもしれませんが、解像感、抜けの良さ、各種収差の少なさなど、昔の悪いイメージを払拭されました。
テレコンなので、多くは所有している最望遠レンズの焦点距離をさらに伸ばすために利用される方が多いでしょう。自分が所有する最望遠はNIKKOR Z 800mm f/6.3 VR Sなので、それにZ TELECONVERTER TC-1.4x、Z TELECONVERTER TC-2.0xを装着してテストしました。
NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S+Z TELECONVERTER TC-1.4x
いつも訪れる公園に、10月のある1週間ほど限定で驚くほど野鳥が集まるミズキの大木があります。ちょうど夏鳥と冬鳥が入れ替わるオーバーラップ期間で、同じ木にキビタキ、コサメビタキ、エゾビタキ、ジョウビタキ、アオゲラなどが一堂に会する貴重な場所です。
その木の前は畑で、中には入れないようになっています。撮影可能な場所からミズキの樹冠まで20m以上あり、800mmでも少し焦点距離が足りないのです。
F値が1段に抑えられ、焦点距離が1120mm(換算1680mm)になる1.4倍テレコンが最適と思い、導入してみました。
野鳥
野鳥撮影での使用レポートです。
NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S+Z TELECONVERTER TC-2.0x
野鳥の種類によっては警戒心が強く、800mmでも全く足りないことがあります。800mmに2倍テレコンで1600mm、DXフォーマットで使うと35mm判換算で2400mm相当の画角となります。
換算2400mm相当は、現行Nikonレンズの中で、おそらく手持ちで使える最長焦点距離の超望遠レンズなのではないでしょうか。
F13にまで暗くなってしまいますが、適切に扱えば光学的な性能は文句なく、さすがNikonと思えるテレコンです。
野鳥
野鳥撮影時の使用レポートです。
天体(参考)
800mm+2倍テレコン+DXフォーマットで35mm判換算で2400mmにもなるので、手持ちで惑星も撮れるかな、と思っていたずらに撮影してみただけです。惑星を撮影する正しい方法ではありませんし、推奨しているわけではありません。望遠鏡ではなく、手持ちカメラシステムだけでどこまで写るのかを試してみた実験です。
強いて理由付けをするとしたら、収差のチェックやVR機構の動作確認、画像コンポジットソフトの確認です。自分の技術ではなく、「ニコンスゲー」的な賛辞です。
2400mm相当のレンズを手持ちで扱えて、木星の大赤斑や土星の輪のカッシーニの間隙が写せたら素敵じゃないですか。ちょっとびっくり。
NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S+Z TELECONVERTER
実践ではまだ使っていませんが、ロクロクサンとテレコンの組み合わせもテストしてみました。
笑ってしまうほど超軽量のロクロクサンの焦点距離がちょっと足りない場合に使えると思うので、テストしてみました。
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NIKKOR Z 600/6.3 VR S |
NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S |
Zマウント純正テレコンバーター
Z TELECONVERTER TC-1.4 |
Z TELECONVERTER TC-2.0 |
テレコン使用時のAFの挙動(Ver. 5.00 鳥モード)
F9、F13とかなり暗くなりますが、Z9(Ver. 5.00)の鳥検出AFは問題なく作動しました。野鳥捕捉時のファインダーログです。フォーカスポイントの緑色の□がポイントです。野鳥を認識して目を検出すると目の大きさに絞り込まれます。テレコンを装着してF値が暗くなると迷いが生じると思っていたのですが、概ね問題ないようです。
カワセミ(1.4x、2.0x)
ヤマガラ(1.4x)
カイツブリ(1.4x)
ハクセキレイ(1.4x)
モズ(1.4x)
バッタ(1.4x)
鳥モードでバッタを狙ってみたら、ちゃんと目を検出しました。
取り扱い
昔のテレコンは前後フラットな単純な筒状でしたが、現代のテレコンは遠位方向にレンズが大きく飛び出している形状です。各社みなそのような形なので、光学的なシミュレーションの結果、これが最適解なのでしょう。光学的に飛躍的な向上があったのかもしれませんが、物理的に大変扱いにくい形状です。
そのため、テレコンのフロントキャップは特殊な形状になっています。ボディキャップとはまったく別物なので注意が必要です。テレコンを使うときは専用キャップを常に一緒に持ち歩く必要があります。
テレコンの着脱はこの癖のある形状と特殊なキャップのため、実際に使う前に取り付け、取り外しの練習をしておくことをおすすめします。手順を間違えるとデッドロックに陥り、左手にボディ、右手にテレコンを持ったまま何もできなくなります(経験談)。特殊な形状ゆえ、ちょっと置こうにもおいそれと置けない形状なのです。手が3本欲しいと思うこと請け合いです。
ミラーレスのボディは、ゴミの付着防止のため、可能な限りボディのマウントに何もついていない状態にしないことが肝心です。また、ボディ・レンズを着脱する際も、極力ボディのマウント面を下に向けておくようにします。もちろん、ボディのセンサーシールドがある機種はONにしておきましょう。
取り付け
自分はテレコンのリアキャップを緩めておきます。実はこれが非常に重要なステップです。緩めていないとキャップを取るために両手が必要ですが、緩めておけば片手で外せます。作業中片手はボディを持ったままなので、テレコンの扱いは片手で行う必要があります。
その状態で、カメラを望遠レンズから取り外したら間髪を入れずに先ほど緩めておいたテレコンのリアキャップを取ってボディにテレコンを装着します。念のため、望遠レンズのマウント座面に先ほどテレコンから外したリアキャップを乗せておきます。この間は10秒もかからないと思うので、ゴミの侵入を最小限にできるでしょう。基本通り、操作中はボディのマウント面は常に下に向けておきます。これでひとまず安心です。
あとはゆっくりテレコンのレンズ面のキャップと望遠レンズのマウントにかぶせてあったリアキャップを取ってテレコンと望遠レンズを接続します。
まとめるとこんな手順です。
- カメラに望遠レンズがつけられた状態のセットをレンズを下にして安定した場所に立てて置く
- 横にレンズ側(グレーキャップ)を下にしてテレコンを置く
- テレコンのリアキャップを緩めておく(←重要)
- カメラをレンズから取り外す。カメラマウント面は常に下をむけたままにする
- テレコンのリアキャップを望遠レンズのマウントに置く。閉めずに軽く置くだけにする
- カメラにテレコンを取り付ける(これで一安心)
- テレコンのフロントキャップを外す。左手でボディを持ちながら右手だけでロックを解除してフロントキャップは外せるので、このときまでフロントキャップは付けておいた方が安全だと思う
- 望遠レンズに置いたリアキャップを取り外し、テレコンと望遠レンズを接続する
- テレコンのフロントキャップとリアキャップを接続して保管する
取り外し
取るときも問題です。
ます、テレコンのキャップを準備しておくことが重要です。先に外してしまうとデッドロックに陥るので、テレコンのフロントキャップとリアキャップを分離して用意しておきます。
まず、テレコンと望遠レンズの接続を外し、テレコンのリアキャップを望遠レンズのマウント面に置いておきます。閉めると片手で取るのが大変になるので、ホコリが入らないように軽くかぶせるだけにします。
ボディについたテレコンに用意していたフロントキャップを取り付けます。その状態でテレコンをボディから外し、フロントキャップ面を下にしてテーブルなどに置きます。ボディのマウント面は常に下に向けたまま作業します。
すかさず望遠レンズマウントにかぶせておいたリアキャップを今置いたテレコンの上に置き、カメラと望遠レンズを接続します。
まとめるとこんな感じです。
- カメラ・レンズセットを安定した場所に立てて置く
- テレコンのフロントキャップ、リアキャップは分離しておく
- テレコンと望遠レンズを分離する
- テレコンのリアキャップを望遠レンズのマウント面に置く(軽く置くだけ)
- テレコンにフロントキャップを取り付ける
- カメラからテレコンを外してフロントキャップを下にしてテーブルに置く
- 望遠レンズのマウント面に置いたリアキャップをテレコンのマウント面に置く
- カメラに望遠レンズを取り付ける
- テレコンのリアキャップを閉める
慣れればカメラのマウント面が暴露されるのが10秒以内で済むでしょう。途中でホコリ侵入防止のためにかぶせるキャップは、決して締めないのがコツです。締めると開けるのに両手が必要となり、操作が煩雑になります。片手はボディを下に向けてずっと持つために消費されているので、テレコン着脱に使えるのは片手1本なのです。キャップ類はすべてが終わってからゆっくり締めれば良いのです。
順序を間違えるとアタフタしてしまうので、ホコリの少ない部屋で何度か練習することをおすすめします。とにかくボディに何もついていない時間を極力少なくし、レンズ後端にホコリなどが入らないように操作します。
総評
各ページのレポート通り、確かに光学的な像の悪化は大変少なく、熟練者が使えば十分仕事でも使えるレベルです。600mm f/6.3、800mm f/6.3での使用レポートなので、他のレンズでの画質はわかりません。ロクロクサンもハチロクサンも単体のMTF曲線を見ると4本のグラフが天井に張り付かんばかりの性能なので、テレコン使用時の劣化がほとんどないのでしょう。ズームレンズなどでのテストは他の方にゆだねるとして、600mm、800mmの単焦点では十分使える画質であると思いました。
しかし、何度も言うようですが、F値が変わることを決して忘れてはなりません。野鳥撮影において、F9やF13は相当暗く、使える環境は限られてきます。暗い森やブッシュの中の野鳥の撮影はかなり困難になります。高感度耐性があり、強力な手振れ補正があるボディであれば有利ですが、そうではない場合はかなり制限されるでしょう。
一眼レフ時代でしたら、F13はファインダー像も相当暗くなるので、それなりの覚悟をしますが、ミラーレスでは普通に明るく見えてしまうので、注意が必要です。適正露出にするとありえないシャッター速度だったり、感度が跳ね上がっていたりします。
手振れ補正はレンズとボディの恩恵にあずかっても、被写体ブレは現時点ではどうにもならないので、そのことを理解して使う分には有用です。野鳥をもっと大きく写したいからと言って、安易にテレコンをつけてもうまく撮れないでしょう。フィールドでのテレコンの使用は、シチュエーションも鳥種も選ぶということです。
しかし、そのことをきちんと理解して十分な光量下で使えれば絶大なる威力を発揮すると思います。
番外
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