身近な野鳥カレンダーの2023年版も緑書房さんから出させていただくことになりました。今回も与えられたテーマ「身近な野鳥」を「身近なカワイイ野鳥」と解釈して写真をとりそろえました。
昨年はぎっくり腰に悩まされたので、写真が足りなくなるのではないかと危惧したのですが、回復後の怒涛の反撃で蓋を開けてみれば今までで一番かわいいカレンダーになったのではないかと自負しています。
カレンダー用写真
教科書や獣医学書、図鑑などにも携わってきていますが、カレンダー写真はそれまでの写真とは撮影に対する姿勢が全く異なります。書籍で使われる写真は長辺がせいぜい5-6cmの大きさです。大きくても長辺15㎝程度でしょう。昨今のデジカメは十分な解像度があるので、トリミング画像でも十分使えます。ほとんどの画像は切り出して使うので、構図も後処理で自由に行えます。
しかし、B4のカレンダーとなると、2000万画素クラスのデジカメではトリミングはほとんどできず、全画素をそのまま使う必要があります。そのため、後処理はしないことを前提に、撮影時にピントや露出はもちろん、構図も完璧に決めて撮影しなければなりません。本来これが正しい撮影の姿なのですが、デジタルに馴れていい加減に撮っていた自分が原点に引き戻される思いです。
トリミングによる拡大もできないので、鳥をある程度大きく写したい場合は光学的に焦点距離を伸ばすしかありません。機材は大きく、重くなるので、撮影はますます困難になりますが、昨今の光学の技術的革新とメーカーの努力によって、一昔前だったら撮影不可能だったシチュエーションの撮影も可能になってきました。良い時代に生まれたと思って感謝しています。
カレンダー写真として気を付けていることは、フォーカス、露出は正確に調整することは当然として、可能な限り低感度で撮るということです。以前よりも高感度耐性が良くなったとはいえ、どんなカメラでも低感度と高感度を比べると明らかに低感度の方がノイズも少なく、諧調性も発色も良くなります。CCDの能力を最大限に引き出すためには、ISOが2000以下、できれば1000以下になるようにシャッター速度を自分の手持ち限界まで下げて撮影します。ブレとのせめぎ合いですが、この点は手ブレ補正機構の発展によってずいぶん助けられています。ボディのVR、レンズのVRの機能をフルに使うと、1/60 s程度までは手持ちで撮影できます。
露出モードはマニュアルで、ISOオートで撮影しています。絞りは開放か絞ってもせいぜい1段程度なので、ほとんど触りません。ISOをモニタリングしながらそれが1000程度になるようにシャッター速度を調整する撮影スタイルを踏襲しています。露出の調整は露出補正で行っています。この方法により、レンズのポテンシャルとCCDのポテンシャルを最大限に引き出す撮影ができます。
家内は絞り優先モードで撮影しています。この場合もほとんどが絞り開放での撮影なので絞りはあまりいじりません。明るすぎる状況や被写界深度を稼ぎたい時に1段絞る程度です。露出補正は簡易設定モードにしているので、ファインダーを覗きながらメインコマンドダイアルを回すだけで簡単に補正ができます。ISOオートなのでカメラ側の動きとしてはまずは低感度でシャッター速度で露出を合わせようとします。シャッター速度がISOオートで設定している低速限界に達すると感度を上げる動きをします。Z50は2つのユーザー設定を登録できるので、低速限界速度を変えたモードを使い分けています。1つは日中用、もう一つは暗い環境用でシャッター速度を限界まで下げた設定です。
一度自分がどこまで手持ちで撮影できるか限界のテストをしておくことをおすすめします。レンズのVR機能とそのモードによっても変わりますし、ボディとの組み合わせによっても限界値は変わります。また、落ち着いた鳥種か落ち着きがない鳥種かによっても使えるシャッター速度は異なります。たとえば、いつも動いているエナガのような鳥種はどんなにVRが強力でも被写体ブレを起こすのであまりシャッター速度を落とせませんが、ジョウビタキのように落ち着いた鳥種はシャッター速度を落としても被写体ブレは比較的少ないのです。
写真解説
2021年11月ごろからぎっくり腰が徐々に回復し、12月末からは野鳥を認識して目にフォーカスを合わせてくれる新型ミラーレスカメラであるNikon Z9を使用できたので、野鳥撮影の成功率はかなり向上しました。また、2022年4月末からは手持ち撮影可能な800mmの超望遠レンズNIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S を使用することができ、撮影の幅が大きく広がりました。ぎっくり腰前のシステムから全体で1kg以上軽くなったのでそれ以降は再発していません。コロナ禍も含めて様々な難局がありましたが、ハードウェアの進化によってずいぶん助けられた一年間でした。
家内はずっとZ50に500mmのPFレンズを使っていました。このセットもレンズとCCDのポテンシャルを最大に引き出せれば十分B4サイズのカレンダー写真として使える能力を秘めています。しかし、野鳥の世界では500mmでは足りないシーンが多く、同時に今年から800mm F6.3を使い始めました。女性でも手持ち撮影が可能な800mmはまさに驚きのスペックです。
いつものように、使われた写真についての解説をさせていただきます。EXIFの基本データも掲載します。これから野鳥撮影を始める方々の参考になれば幸いです。
表紙(ルリビタキ)
- ボディ:Nikon Z50
- レンズ:AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR + FTZ
家内が撮影したルリビタキです。いよいよ写真家としての表紙デビューです。
緑書房さんに表紙候補として何枚かお送りしたのですが、社内投票でこの写真がダントツ1位になったとの連絡をいただきました。背景が白く、雪のように見えますが、雪ではありません。背景にたまたま日光が当たり、白っぽく飛んでくれたので、青さが引き立ち、幻想的な絵になりました。自分とは撮影の視点が違ってこれも刺激になります。
なお、ルリビタキは「身近な野鳥」なのか、と疑問に思われている方も多いと思いますが、普通に東京都や神奈川県の都市部で、電車の駅から歩いて行ける公園でしか撮影していませんので、行けば誰でも普通に見られる野鳥という意味で「身近な野鳥」の分類にしています。家から電車で20〜30分ほどで行ける公園です。
家内は本格的に野鳥撮影をはじめてまだ5、6年ですが、驚くほどの急成長です。やはり野鳥が好きでその場にいるということが功を奏したのでしょう。この難しいシチュエーションでよくぞ撮ったと思います。構図もピントも露出もほぼ完璧だと思いました。成長ぶりにいささか驚いています。
Z50のボディにFマウントの500mmF5.6+FTZでの撮影です。超望遠500mm(35mm判換算750mm相当)の画角で撮影できる最軽量システムではないでしょうか。女性でも簡単に振り回せます。VRの効きもよく、1/200sのシャッター速度ながら、手持ちでブレずに撮影できています。Z50も良く出来たカメラで、今回の表紙のように、B4判に伸ばしても破綻しない解像度です。高感度ノイズは比較的少ないカメラですが、それでもB4サイズともなると低感度の方が好ましく、ISOは何とか1000以下に抑えられているので表紙に使えるレベルになりました。ノイズも少なく、階調も豊かです。
ルリビタキの露出は比較的難しく、なかなか背の青が適正露出で表現されないものです。おまけに喉や腹は白く、ちょっとでも露出補正を間違えると今度は白飛びしてしまいます。一眼レフの時代は経験と勘で補正する必要がありましたが、背景の明るさに応じて刻々と変化するので、適正露出にするのは比較的困難でした。
その点、Z50はミラーレスなのでファインダーで露出の過不足が分かり、失敗が圧倒的に少なくなりました。
この写真も背景が明るく、露出補正が難しいシチュエーションですが、うまく調整できています。背景の明るさはめまぐるしく変動しますが、試行錯誤して結局補正0でルリビタキは適正露出で写りました。このあたりは、ミラーレスの恩恵です。ファインダーを覗きながら直感的に露出補正ができたようです。
とにかく被写体の白が白飛びしたらボツだと教えていましたので、そこは十分に注意して補正したそうです。喉から腹部にかけての白い羽毛にきちんと階調が残っています。
一眼レフだったら背景の明るさから露出アンダーになることを予測し、プラスの補正をして喉や腹の白が飛んでいたかもしれません。
家内は絞り優先モード、スポット測光、ISO感度オートで、露出補正簡易設定をオンにして撮影しています。絞り優先モード時の露出補正簡易設定は大変便利で、ファインダーを覗きながら親指でメインコマンドダイアルを回すだけで直感的に補正ができます。
ピントも目に正確に合っています。目が写っているのに目にピントが合っていない写真もボツです。開放はF5.6ですが、PF系のレンズは明るい背景に弱いので、ワンクリック、F6.3に絞っています。それが功を奏したのか、フレアもなく、高コントラストの写真に仕上がっています。ほぼ開放なので、単焦点レンズの恩恵を受けて目の周辺は限りなくシャープで、背景は大きくボケています。ボケ味も良好です。
野鳥撮影をはじめるまで、身近にこれほど美しい野鳥がいるとは思っていませんでした。この個体はわが家から電車で行ける公園の中で、今季一番青が濃く、キレイなオスでした。
ルリビタキは年齢によって青さが変わります。1年目はメスと区別がつかないほど地味な配色です。1年、2年と歳を追うごとに青さが増してくるようです。ということは、この個体は結構なお歳のおじい様なのでしょうか。
1月(ジョウビタキ)
- ボディ:Nikon Z9
- レンズ:AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL
- テレコンバーター:TC14E-III
- アダプター:FTZ II
私が愛してやまないジョウビタキのメスです。メッチャかわいくないですか、この写真。個人的には近年撮った写真の中でダントツ一位の写真です。こんなに可愛い野鳥は他にいません。
冬、日本に渡ってくるジョウビタキは非繁殖期なので、オスもメスも縄張りを主張し、同種の鳥を寄せ付けない行動を取ります。飛来直後の縄張り争いをしている最中は入れ替わる可能性がありますが、落ち着くと同じ場所で見られる個体は、同一個体である確率が極めて高いと思います。冬の間何度も通いつめ、こちらも顔を見せていると見慣れてくれるのか、至近距離でこのようなポーズ(うち輪ではこのポーズを「トトロ」と呼んでいます)をとってくれることがあります。絶好のシャッターチャンスです。
とにかくこれも目にピントを合わせることに集中します。目にピンポイントで合っていなければせっかくのポーズもダイナシになります。連射するときもずっとシャッターを押しっぱなしにするのではなく、3枚くらいずつのバースト連射をおすすめします。そのつどシャッターボタン半押しを繰り返してAFをやり直したり、マニュアルフォーカスを組み合わせたりして確実に目にピントを合わせます。
Z9はほぼ確実にジョウビタキを被写体として認識してくれるので随分と楽になりました。どんなポーズでも、目が見えていれば目を検出して追従してくれます。
この時はレンズの最短撮影距離3.6mよりも近くに来てくれてしまったので、少し下がらないとピントが合いませんでした。ほぼ最短撮影距離での撮影です。
良く出来た単焦点レンズは絞り開放時の解像度が最も高く、絞り込むほどに回折によって像が悪化します。この写真もアップで目の周辺の解像感が勝負なので開放で撮っています。それで目の周りの羽毛の1本1本をシャープに解像しています。ただし、その分被写界深度は極めて浅くなるので、目にピントを合わせると顎の辺りはもうボケています。F8くらいに絞った方が体全体にピントがあったかもしれませんが、その分シャッター速度が遅くなり、ブレが発生していたでしょう。この辺りのせめぎ合いが難しいところで、環境の明るさ、シャッター速度、VRの効き、さらには腕力も加味して限界に挑戦して行きます。そこが撮影の醍醐味です。
一眼レフでしたら経験と勘で露出補正をします。念の為露出を変えながら撮影すると良いでしょう。ミラーレスであればファインダーを覗きなら露出補正を行います。ミラーレスでもアンダー目、オーバー目など、露出を変えながら撮影すると良いでしょう。ブラケット機能もありますが、ミラーレスではファインダーを見ながら自分で調整しながら撮影したほうが良いと思います。
2月(セッカ)
- ボディ:Nikon Z9
- レンズ:AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL
- テレコンバーター:TC14E-III
- アダプター:FTZ II
セッカです。かなり小型の鳥ですが、飛来地では大砲を持ったお年寄りバーダーたちを右往左往させるほど人気の野鳥です。自分も含め、なぜか爺さんたちに人気です。
かなりせわしなく動き回るので、撮影は比較的困難です。葦の中を移動するので、なかなかクリアに全身が見えることが少ないのです。
セッカがよく出る場所には大型の三脚がずらっと並んでいますが、この手の野鳥は手持ち撮影がイチオシです。葦の中をちょこちょこ移動するので、かぶらないようにカメラの位置もちょこちょこ変えなければなりません。三脚を使うと向きは変えられても撮影位置を臨機応変に変えることができないため、撮影チャンスはかなり下がってしまいます。偶然据え付けた場所からクリアに見える位置に出てきてくれれば良いのですが、そううまくは出てきてくれません。こちらから積極的に移動して狙わないと難しいターゲットです。
まれに2本の葦を両足で掴んだ「開脚セッカ」と呼ばれるポーズを見せてくれます。カメラマンたちはこれを待っているようで、オリンピックの体操選手の大技さながら、その瞬間シャッターの集中砲火を浴びています。セッカちゃんから見ると不可解なオジサンたちでしょう。
とにかくちょこちょこ動くので、カメラで追いかけるだけでも大変です。その上、目にピントを合わせ続けるには熟練が必要です。年末からNikonのZ9を使用しているので、フォーカシングは随分と楽になりました。被写体検出機能が充実して、セッカの目を追い続けてくれます。
セッカの目から体までピントが合うように、開放からワンクリック絞ってF6.3にしています。この手の野鳥は手ブレではなく、被写体ブレとの闘いになります。とにかくじっとしてくれない鳥なので、ISO 1000以内を維持しながら、シャッター速度は1/800s前後に上げています。
3月(アオジ)
- ボディ:Nikon Z9
- レンズ:AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL
- テレコンバーター:TC14E-III
- アダプター:FTZ II
アオジのメスの顔はすこぶる好みです。めちゃくちゃ可愛くないですか。やっぱり野鳥はメスです。このポワーンとした優しい表情は格別です。オスがきれいな野鳥が多いのですが、可愛さは断然メスです。本能的に守ってあげたくなります。
アオジも冬鳥なのですが、他の冬鳥の飛来期間よりもちょっと後ろにずれている気がします。来るのが遅いかわりに、春先まで残っていてくれます。藪の中にいることが多く、撮影は比較的困難です。「チッ」という地鳴きを頼りに探します。
藪の中は暗いことが多く、撮影は感度が上がらないように気を付けながらシャッター速度を限界近くまで下げて撮影します。アオジもあまりじっとしている鳥ではないので、1/200s程度が限界でしょう。それでも感度は2000まで上がってしまいました。
まれにオープンな環境に出てきてくれることがあるので、その時がシャッターチャンスです。
アオジの写真を撮っていたら、見知らぬオジサンが興味深そうに近づいて来て、レンズの先の野鳥を発見して、「なんだスズメか」とすてぜりふを言って去って行きました。残念なオジサンです。かく言う私も野鳥の撮影を始めるまで、こんなに可愛らしい鳥が身近にいるなんてまったく知りませんでした。野鳥に興味を持たなかったら自分もスズメだと思っていたことでしょう。出会えて幸せに感じています。スズメもカワイイのですけどね。
4月(ウグイス)
- ボディ:Nikon Z9
- レンズ:AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL
- テレコンバーター:TC14E-III
- アダプター:FTZ II
身近にいるのになかなか姿が見れない代表のウグイスです。大抵は藪や樹冠の中をちょこちょこ動き回っているので、存在は分かっても全身がクリアに見えるのは一瞬です。その一瞬を逃さないように撮影します。
ウグイスが鳴いている木の前で動かずに辛抱強く待っていると、ときおりヒョコッと登場してくれることがあります。その時を確実に捉えるようにします。ウグイスもじっとしてはくれない鳥なので、あまりシャッター速度は落とせません。手持ち限界と感度との戦いです。この写真は1/160sまで落として、ようやくISO 800に落とせました。B4サイズのカレンダー用には可能な限り感度を下げる必要があります。
5月(カルガモ)
- ボディ:Nikon D500
- レンズ:Nikon AF-S VR Nikkor ED 300mm F2.8G(IF)
- テレコンバーター:TC20E-III
カルガモの幼鳥です。数週間に渡って卵の中で成長し、ようやく殻を破ってこの世に誕生しました。希望に満ちた雛の目が印象的です。この可愛らしい姿かたちは、もちろん親の愛情を得るためでもあるのでしょうが、われわれ人間も大いに魅了されます。無条件で応援したくなります。
親といっしょに明るいオープンな場所に出てきてくれるので、撮影に関しては特に問題ないと思います。十分に明るい場所であれば高速シャッターでブレることもなく、感度も1000以下に抑えられるでしょう。胸のあたりの白っぽい羽毛が飛ばないように、露出だけは気をつけます。DXフォーマットでも撮影時に構図が決まっていればB4印刷にも十分耐えます。
6月(コゲラ)
- ボディ:Nikon Z50
- レンズ:NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
「ギー」と聞こえたらコゲラがいます。「ギー」にはどういう意味があるのでしょうか。地鳴きでも囀りでもなさそうです。飛ぶ時とか、餌を見つけたときに発せられるような気がします。そうすると、「よいしょっ」とか、「おいしい!」と言っているように思えてなりません。
いつも垂直の幹や枝の裏側にへばりついてせわしなく動き回っています。時々木をつつき始め、穴をあけて虫を引っ張り出します。あんなに激しく頭を振って、嘴を木に叩きつけているので、脳みそがぐちゃぐちゃになってしまうのではないかと心配になってしまいます。繁殖期以外は単独行動で、あまり人を気にする様子もありません。驚くほど近くの枝にいることがあります。
あまりじっとしてくれないので、撮影は比較的困難です。シャッター速度を落とすとブレブレの写真になってしまいます。いつも忙しそうにしているので、この写真のように枝の上で落ち着いているシーンは珍しいと思います。
家内が撮影したZ50+800mmF6.3の画像です。ボディはNikonの最小・最軽量、レンズもこの明るさの800mmとしては最小・最軽量でしょうから、おそらく35mm判換算1200mm相当のF6.3としては世界一軽いシステムなのではないでしょうか。本人は重いと言っていますが、何とか使いこなしています。
何より、懸垂が1回もできない非力な女性でも1200mm相当のレンズを水平に構えて1/250sで撮れてしまうことが驚異的です。Z50にはボディ側手振れ補正はありませんが、レンズ単体の5段手ブレ補正が十分に役立っているということです。
枝被りを回避するためにカメラ位置を微妙に調整しますから、こういった写真は手持ちでないと撮れない写真です。
-1/3段の補正も正解です。白飛びせず、諧調がきれいに残っています。感度はやや上がってしまいましたが、Z50の高感度耐性はZ9よりも良く、4000くらいまでは許容範囲だと思っています。
絞り開放で、ボケもなかなか綺麗です。前ボケが適度に入った構図で、奥行き感も表現できています。コゲラも良い表情です。
これは参りました。
7月(キビタキ)
- ボディ:Nikon Z9
- レンズ:NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
冬鳥のジョウビタキやルリビタキが帰ってしばらくすると夏鳥のキビタキがやってきます。大好きなヒタキ類は渡り鳥ですが、一年中楽しませてくれます。オスはそれぞれ個性的なカラリングで美しい配色です。
しかし、夏鳥であるキビタキは比較的高い樹上にいることが多く、低木や地面にいることが多い冬のヒタキ類よりも撮影は困難です。そもそも夏は樹木の葉が生い茂り、なかなかクリアに全身が見えることが少なくなります。また、ジョウビタキやルリビタキよりも警戒心が強いようで、あまり近くに来てくれません。
鳴き声を頼りに探しますが、暗い森や林の高い場所に好んで棲息し、暗い上に背景が空で逆光になることが多々あります。
この写真で注目していただきたいのは、1/13 sという1200mm相当のレンズを使う上では驚異的な低速シャッターです。日没後で、そろそろ引き上げようかと思ったところに綺麗なオスが登場してくれました。暗くて撮影限界を超えていると思いましたが、絞り開放でシャッター速度を1/13sまで落とすと、ようやくISO感度が1400まで下がったので、イチかバチかで撮影しました。
さすがに手持ちで使うのは無理があるので、一脚を使っています。Z9のセンサーシフト方式のVRと、レンズのVRのシンクロによって、総合的に5.5倍の手ブレ補正効果が発揮されます。被写体ブレは避けられないので、「動かないでくれー」と祈りながら連写して、何とかブレずに撮れました。
この組み合わせでのVRの効きは素晴らしく、手持ちで1/60s前後、一脚を使えば1/20s前後まで撮影可能です。ヒタキ類は動作が比較的落ち着いているため、被写体ブレによる失敗はあまり発生しませんが、自分の技術では、このくらいが限界です。
ジョウビタキやルリビタキと同様、キビタキも露出が難しい野鳥です。いずれも真っ白い羽毛の部位があり、ジョウビタキ、キビタキは真っ黒な羽毛もあります。黒い羽毛が黒つぶれせず、白い羽毛が白飛びしないように調整する必要があります。特に白が飛びやすく、カレンダーに使うのであれば白い羽毛部分にも諧調が残るように露出補正をしなければなりません。ミラーレスカメラに切り替えてからは露出補正がずいぶんやり易くなり、失敗も少なくなりました。特にこの800mmF6.3はレンズのコントロールリングに露出補正が割り当てられるので、ファインダーを覗きながら直観的に補正できます。
8月(カイツブリ)
- ボディ:Nikon Z9
- レンズ:NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
夏場、野鳥の姿が少なくなってもカイツブリだけは私たちを楽しませてくれます。生まれた子供たちを背中に乗せ、献身的に餌を与える姿には癒されます。自分がいつも行くフィールドでは、3月から10月くらいまでの間に一つのペアが5回ほど繁殖を行います。その都度このような微笑ましい姿を見せてくれます。
望遠レンズで見ると大きく見えますが、実物のカイツブリはかなり小さく、成体でも、人差し指同士親指同士をくっつけて輪っかを作ったくらいの大きさしかありません。その背中に乗っているのですから、雛は人の親指くらいしかありません。
何といっても雛の顔が激烈に可愛いのです。親はいささか怖い顔をしていますが、雛は対照的です。背中に乗せて泳ぐ姿は生まれてから1~2週間なので、そのころを狙って撮影します。水に浮いている時は思っているよりも被写体ブレしやすいので、実はあまりシャッター速度を遅くできません。素直に(1/焦点距離)秒程度のシャッター速度が安全です。移動していなくてもそこから1段遅くする位が限界です。水に浮いているだけでも、意外と上下動があるため、手ブレはキャンセルできても被写体ブレを起こして失敗することが多いのです。手ブレ補正機構がどんなに優秀でも被写体ブレは避けられません。
この写真は親と雛両方にピントが欲しかったため、絞りをF8まで絞っています。シャッター速度1/400sでようやくISO感度が800に落ちました。
雛のオデコの白い羽毛が白飛びしやすいので、露出はそこに注目して補正します。
9月(エナガ)
- ボディ:Nikon D500
- レンズ:AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL
- テレコンバーター:TC14E-III
エナガはきっと自分が可愛いことを知っています。ちょっと可愛いポーズをとれば人々は自分に優しくしてくれることを知っているのかもしれません。そんなことを思ってしまうような可愛らしいポーズをしてくれます。
猛禽類は両眼視が優位で、目は顔の正面についていますが、その他の多くの鳥は頭部の側面に目が位置しています。したがって、正面を向いているときはこちらを見ていないことが多く、横を向いて片方の目がこちらを向いているときは私たちを見ている可能性が高くなります。この写真も、おそらくこちらを見ているのでしょう。それがポーズを決めているように見え、人間には可愛く見えるのです。
個人的には「トトロ」と呼ばせてもらっている大好きなポーズです。
可愛いとか、可愛くないと言う表現はあまり学術的ではありませんが、これからの野生動物にとって生き残れるかどうかの重要なパラメーターになると思っています。多くの人が「可愛い」と思う生物は大切に扱われます。カラスなどは増えすぎると駆除対象になってしまいますが、たとえエナガが増えすぎてしまっても、おそらく誰も駆除しようとは言わないでしょう。そんなの不公平だ、とカラスは叫ぶかもしれませんが、仕方ありません。個人的にはカラスも可愛いと思いますが、残念ながらエナガとカラスの人気投票をしたらエナガが圧勝でしょう。人間の独断と偏見によってこれからはそういった人為的淘汰の時代になってきています。人間の自然破壊によって住む場所を追われ、都市公園で生き延びるためには人間に可愛いと思われる要素を持ち、共存する道を選択する必要があります。そのため、人から見て「可愛い」と思われる要素は、野生動物が生き延びるための最重要パラメーターなのかもしれません。
10月(ヤマガラ)
- ボディ:Nikon Z9
- レンズ:AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL
- テレコンバーター:TC14E-III
- アダプター:FTZ II
先日、電車で向かいの席に座ったJK(女子高生)がおもむろにパンをかじり始め、食べ終わったら化粧をはじめました。見てはいけないと思いながら、変身していく姿をつい見入ってしまいました。当人はワレ関せずで、周囲の乗客の視線などまったく気にしていないようでした。イヤホンで音楽を聴きながら、楽しそうにノリノリで変身して降りて行きました。きっと駅のトイレで最後の仕上げとして着替えるのでしょう。青春を謳歌していて、実に楽しそうです。
このヤマガラを撮影しているとき、なぜかこのJKのことを思い出しました。そう、行動パターンに共通点があったのです。大好きなエゴの実を持ってきて、人の目の前にとまり、両足でしっかり実を持ってうれしそうに食べ始めたのです。われ関せずでカメラマンの視線や超望遠レンズを向けられても一切動じず、一心不乱においしそうにエゴの実を食べていました。時折顔を上げると、明らかにうれしそうに笑っています。食べ終わると羽繕いをして嬉しそうに去って行きました。きっと大らかに育って、青春を謳歌しているのでしょう。
ヤマガラにも様々な性格があると思いますが、概して大らかで、いつも楽しそうにしているように見えます。頭部のカラリングのせいか、正面顔は特に面白く見えますし、口元(くちばしですが)も笑っているように見えます。そのため、ヤマガラに出会うといつもこちらがハッピーな気分になります。
ヤマガラもあまり開けたところに出てこないのですが、上記のようにわれ関せずといった感じで目の前の枝にひょこッと現れることがあります。食事が始まるとその場にとどまることが多いので、撮影は難しくはありません。ただし、羽毛に白と黒があるので、新郎新婦同様、露出は困難です。黒つぶれしないように、また、白飛びしないように調整する必要があります。また、食事中はエゴの実目がけて嘴を打ち付けるので、あまりシャッター速度を落とすわけにも行きません。
500mmF4は最短撮影距離が3.6mなので、かなり近くの鳥でもピントが合います。この写真もかなり近かったと思います。1.4倍のテレコンバーターをつけていますので、画面いっぱいになってしまいました。ちょっと身をかがめているから入りましたが、普通の姿勢だったらちょっと切れていたかもしれません。
暗かったので、絞り開放でシャッター速度を1/100sに落として感度を可能な限り下げています。
Z9で被写体検出:動物にしているので、フォーカシングは大変楽になりました。ヤマガラを認識して正面顔でもきちんと目を検出してくれます。至近優先だと嘴にピントが来て目はボケてしまいますが、うまく目を検出できたようです。
11月(カワセミ)
- ボディ:Nikon D500
- レンズ:AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL
- テレコンバーター:TC14E-III
クチバシや尾羽が短く、足の色が褐色なところから、幼鳥でしょう。ずんぐりした可愛い体形です。幼鳥は概して人を恐れず、落ち着いて撮らせてくれます。
このカワセミは、背景が良かったので「カレンダー候補になる」と確信してかなり狙って撮りました。暗い場所でしたが、感度を落とすために絞り開放でシャッター速度を1/60sまで落としました。それでISOを160にすることができ、ノイズが少なく、高解像度で諧調豊かな画像にできたと思います。
一眼レフで1050mm相当の画角なので、1/60sはかなり無謀なシャッター速度ですが、レンズの手ブレ補正と一脚の使用でブレずに撮れました。
カワセミも喉と首あたりに白い羽毛があり、この部分が白飛びしないように露出を調整します。この写真はスポット測光ですが、-1段補正して適正になりました。
12月(ルリビタキ)
- ボディ:Nikon Z9
- レンズ:AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL
- テレコンバーター:TC14E-III
- アダプター:FTZ II
なぜかジョウビタキとルリビタキのメスはあまり人を恐れない個体が多く、至近距離でポーズを決めてくれます。ルリビタキはメスの成体とオスの幼鳥がほぼ同じ模様で、鑑別が困難です。専門家にも聞きましたが、確証は得られませんでした。そのため、明らかなオスの成体以外は、「メスタイプ」と表現されることが多いようです。この写真はいわゆる「メスタイプ」です。
ヒタキの類は、オスは派手で美しい配色ですが、メスはどの種も目立たない地味な配色です。繁殖のことを考えると、メスは天敵に見つからないよう、極力保護色であることが理想なのでしょう。しかし、それゆえに純粋に顔のパーツが見え、大変可愛らしいことが分かります。ヒタキ類は頭部の大きさに比べて目が大きく、まん丸です。取ってつけたような細いクチバシが控えめについています。個人的には野鳥の中でヒタキ類のメスの顔が一番好きな顔です。
このルリビタキのメスタイプもヒタキ類の例にもれず、大変可愛らしい顔をしています。しかもこのポーズです。目の前の杭にとまり、こちらの様子をうかがっているようです。
落ち着いた性格なので、撮影は難しくありません。暗い環境でシャッター速度を落としても被写体ブレを起こすことも少ないでしょう。この写真は絞り開放で、シャッター速度を1/320sにしてISOを720に落としています。地味な色合いで、白い羽毛もないので露出も難しくはないでしょう。+1/3段で適正でした。
尾羽の青と脇のオレンジがルリビタキの片鱗を表しています。
2024年1月(ミソサザイ)
- ボディ:Nikon Z50
- レンズ:AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR + FTZ
家内がZ50と500mmPFレンズで撮ったミソサザイです。近くの公園で粘って粘って登場を待ちました。出てきてくれたのは夕方の17時です。2月ですから、もう真っ暗で、そろそろあきらめようと思った時でした。黒い影がちょこちょこと動きまわり、ひょっこり目の前に出てきてくれました。
国内では1、2を争う小型の野鳥です。
尾羽を90度上にあげる独特のポーズがミソサザイの特徴で、その瞬間をとらえています。
暗い状況では、シャッター速度と感度のせめぎ合いです。絞りはもちろん開放です。レンズのVRを信じてシャッター速度を手持ち限界の1/60sまで下げ、感度をISO 1400に抑えています。このセッティングで正解だったのでしょう。手持ちの割りにブレもなく、ノイズも極力抑えられた写真が撮れました。このシチュエーションでよく落ち着いて撮れたと思います。Z50なので被写体認証などはなく、単にシングルポイントで目を狙ったそうですが、ばっちりです。絞り開放でも5.6なのでボケ量は不足気味ですが贅沢は言えません。明るい葉の前ボケが効果的に入っていて、写真に立体感を与えています。
位相フレネルレンズを使った500mmF5.6は逆光に弱い弱点がありますが、逆光以外は素晴らしいパフォーマンスを発揮します。特にZ50との相性は良く、最も小型軽量でよく写る500mmのセットだと思っています。
おわりに
以上が身近な野鳥カレンダー2023に使われた全画像の解説でした。これから野鳥撮影をはじめる方、うまく撮れなくて悩んでいる方、ステップアップを考えている方々の参考になれば幸いです。
野鳥撮影をするためにはカメラと望遠レンズが必要です。そこに最初のハードルがあるでしょう。満足できる野鳥写真を撮るためには500mm以上の望遠レンズが必要となり、最初は数十万円は覚悟する必要があります。学生の方々は中古のカメラやレンズもねらい目です。
次に撮影技術を身に着ける必要があります。理論武装することも必要ですが、沢山撮って経験と勘を養うことも必要です。写真は絞り、シャッター速度、感度で決まりますから、それぞれの役割や変更すると仕上がりがどう変わるのかを把握していないと調整ができません。フィルム時代はもったいなくてそんなことはできませんでしたが、今の時代はデジタルなので、思う存分テスト撮影できます。撮影したものをきちんと分析することで驚くほどはやく上達できます。
そして、野鳥撮影で何よりも重要なことは、その場にいるということです。どんなに良い機材を持っていても、どんなに高い撮影技術を持っていても、その決定的瞬間にその場にいなければ何も撮れません。とにかく足を運ぶことです。遭遇確率が上がれば上がるほど良い写真が撮れる確率も上がるのです。
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