野鳥撮影をしていると、800mmでも焦点距離が足りない場合があります。そんな時はテレコンを試してみる価値があるかもしれません。ハチロクサンに2倍テレコンはいささか無謀に思えますが、実戦で使えるか試してみましょう。
ノビタキ
自分が住んでいる地域では春と秋の移動で立ち寄るだけで、旅鳥的なふるまいです。人慣れしていないのであまり近づくことができません。ハチロクサンDXフォーマットの1200mm相当でも焦点距離が足りません。
2倍テレコン
仕方がないので、実戦ではじめて2倍テレコンを付けてみました。
手持撮影用にセッティング済みのシステムにテレコンを付けるのは大変面倒です。
ハチロクサンとZ9のストラップを取り外して地面に立て、2倍テレコンをリュックから出してそれも地面に置き、キャップを外して軽く乗せておき、カメラとレンズを分離して間にテレコンを装着してストラップをすべて戻すという作業を行う必要があります。
屋内のテーブルの上で落ち着いてやれば簡単にできますが、ベンチなどもないフィールドでは極力やりたくない作業です。大変気を使います。
ハチロクサンに2倍テレコンを付けてDXフォーマットで使うと2400mm相当の画角になります。F値が13になってしまうので明るい場面でしか使えませんが、元のハチロクサンの素性が良いので画質劣化が比較的少なく、実用レベルです。
Z TELECONVERTER TC-2.0xは、おそらく最も光学的性能を引き出す設計なのでしょうが、レンズ側にマウントから筒状のレンズが突出していて、これでもか!と言うほど扱いにくい形状です。他のメーカーのテレコンも同様な形状なので、これが最適解なのでしょうが、不用意にキャップを外してしまうと、どこにも置くことができません。装着時に、先にテレコンのキャップを外すと、デッドロックに陥ります。キャップを緩めて外さない状態にしておいて、レンズとボディを分離したらすかさずテレコンを装着する順序で予め練習しておかないと事故が起きそうです。砂やほこりなどのゴミが混入する可能性が高いので、フィールドの地面で行ってはいけない気がします。
AF
一眼レフ時代は、F13のレンズはAF不可でしたが、ミラーレスのZ9では普通に作動します。しかし、速度は相当遅くなります。マニュアルである程度アシストしてあげると、スッと合ってくれますが、フォーカスが外れて探しに行ってしまったりするとシャッターチャンスを逃してしまいます。
使えるのは十分な明るさがある晴天の日中だけです。曇天や夕方で少し暗くなるとかなりしんどくなります。
まあ、F13でAFが作動するだけでも良しとしましょう。一眼レフだったらファインダーも暗くなってマニュアルフォーカスさえままならなかったと思いますので。
被写体検出
2倍テレコンを付けても被写体検出は問題なく動作します。これは驚きでした。上記のように、AF速度は遅くなりますが、マニュアルでちょっとアシストすると被写体を認識して、目があれば目を検出してAFが作動します。野鳥もバッチリです。
おそらく位相差ではなくコントラスト検出だと思いますが、像面AFなので、合った時は目のまわりのツブツブが解像するレベルに合焦します。画面内に占める被写体の割合が増えるので、かえってうまく認識できるのかもしれません。
2400mm相当での撮影中のファインダーログです。2倍テレコンを付けてもしっかりと被写体を認識して目を検出しているのがわかります。被写体が大きくなる分、検出もしやすくなっているのでしょう。
VRノーマルで使用しているので、像が頻繁に飛ぶように見えますが、そのタイミングでシャッターを切っています。撮影の度にVRレンズユニットをセンターにリセットするため、像が大きく動きます。テレコンを使うとその動きも増大されるため、見苦しい動画になってしまいました。スポーツモードにすると良くなりますが、手ブレ補正効果はノーマルモードの方が断然上です。特に2400mm相当で使う場合はノーマルモードがおすすめです。
追記:Z9 Ver. 5.00(カワセミ)
手ブレ補正
手ブレ補正自体は天体撮影のテストで検証した通り、テレコン付けてDXフォーマットで使う2400mm相当の画角でも十分効果を発揮します。相手は野鳥なので、公称値まではシャッター速度を落とせませんが、1/200前後であれば、2400mm相当の画角を手持ちで撮影できるレベルです。
歩留まり
実際の野鳥撮影は、壁に張ったテストパターンを撮影したり、惑星を撮影したりするのとはまったく別物です。相手が動かないものに対しては、確かに公称値5.5段の手ブレ補正「スゲー」となりますが、野鳥は生きていますから当然動きます。落ち着いた鳥種であっても、とまっている木や草は風で常に揺れています。2倍テレコンを付けると、被写体の動きも2倍になります。VRがどんなに優秀で、2400mm相当の画角で1/60 sで静物はブレずに撮影できたとしても、野鳥はブレます。特に落ち着きのない鳥種では、相当歩留まりが悪くなります。落ち着いた鳥種であっても、風でちょっと揺れているだけでもそれが拡大されるので、被写体ブレを起こします。
例えば、エナガを2400mmで撮影しようとは思いません。テレコンバーターを使う場合はそのことに留意する必要があります。ハチロクサンとZ9のコンビネーションによってどんなに優秀な手ブレ補正機構が実現できたとしても、被写体ブレに対しては無防備です。もちろんこれは三脚を使おうと、一脚を使おうと変わりません。
テレコンを使用するとF値が暗くなる分、感度を上げるかシャッター速度を遅くする必要があります。Z9の高感度耐性はあまりないので、個人的には感度が少なくともISO 2000以下、できれば1000以下になるようにシャッター速度を調整します。しかし、あまりシャッター速度を遅くすると被写体ブレが発生します。テレコンを使う時は、いつも感度とシャッター速度のせめぎ合いです。感度を抑えて、被写体ブレしないギリギリのシャッター速度を探りながら撮影します。
作例
テレコンなし
テレコンあり
総評
画質が大幅に悪くなるという評価は、F値が2段暗くなることによる感度の上昇や、シャッター速度が遅くなることによる被写体ブレなどによる不当な評価なのではないでしょうか。
元のレンズの素性が良ければそこそこ良く写ります。そもそも多少劣化することは前提で使っているので、きちんと理解して正しい使い方をすれば、そんなに叩かれるほどの画質劣化は見られません。自分の用途では、元レンズだけで撮影したデータを2倍に拡大するよりも、テレコンで光学的に2倍にした画像の方が応用範囲は高くなります。
しかし、取り付けや取り外しがかなり煩わしいので、個人的には特別な用途でしか使わないと思います。普段はレンズ単体で使い、どうしても焦点距離が足りない場合のみ装着するような使い方になるかと思います。フィールドで頻繁に付けたり外したりするものでもないし、常時付けておくものでもないでしょう。
撮影も一段とハードルが上がります。決して万人向けではありません。
まず、2400mm相当となると、ファインダーへの導入も困難になります。狙った野鳥にサッと向けてファインダーに捉えるには少し練習が必要です。
また、被写体ブレを考慮してシャッター速度を選ぶ必要があります。また、F13になるので、鳥種に応じて感度とシャッター速度のせめぎ合いをマニュアルで調整する技術も必要になります。高感度耐性が低いZ9で使う場合は、晴天の日中用と考えておいた方が良いでしょう。
テレコン買って装着すれば誰でも使えるという代物ではありません。
マニュアルですべてうまくコントロールできるようであれば、ハチロクサンの元々の素性の良さを活かして高解像の高倍率写真を撮ることが可能です。状況に応じて臨機応変に対応できる人にはおすすめします。
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