2021年3月10日。いよいよNikonからミラーレス一眼のフラグシップZ9の開発発表がありました。今まで様々な理由からミラーレスへの完全移行を躊躇していた一眼レフユーザーたちも、安心して移行できることを匂わせるアナウンスです。
一眼レフからミラーレスに移行できなかった理由
一眼レフユーザーがミラーレスに完全移行できない主な理由として2つの重要な事柄があります。ミラーレスの時代になっても以下の点については一眼レフが圧倒的に有利であったため、特に仕事としてカメラを使うプロカメラマンたちはこれらが解決されない限りミラーレスに移行することはないでしょう。
オートフォーカス
一眼レフのAFの完成度がかなり高かったためか、ミラーレスではなかなかそれを超えることができませんでした。精度としては撮像面で合わせるミラーレスに軍配があがりますが、AFモードの多彩さや位相差検出によるAF速度は一眼レフの方が圧倒的に有利でした。特に動体に対するフォーカシングには定評があり、ミラーレスとは一線を画する捕捉能力でした。
タイムラグ
一眼レフはレンズで結像する像を直接見ているので、原理的にタイムラグはありません。しかし、ミラーレスは一度センサーで記録した画像を処理し、映像としてファインダーもしくは背面のLCDに表示するため、どんなに処理能力が高いカメラでも一眼レフと比べると遅れが生じます。人の感覚は思った以上に鋭いもので、それがたとえ数十分の一秒であっても違和感を感じるものです。特にターゲットの動きが速いスポーツカメラマンや野鳥撮影などで問題が露呈することがあります。
上記理由で特に動体を撮影する仕事をするカメラマンたちはミラーレスに移行することに踏み切れませんでした。ミラーレスの優位性を認めながらも、上記の2つの問題点が克服されない限り、仕事用カメラとしては一眼レフを使い続けるしかないのです。
ミラーレスの利点
一方、ミラーレスには一眼レフカメラがどうやっても真似ができない圧倒的な利点がいくつかあります。
露出の反映
どんなに良いカメラを使おうと、何十年も写真の仕事をしていようと、ミラーレス以前のカメラでは失敗を回避できない大きな問題があります。それは露出の過不足です。カメラボディの露出決定のアルゴリズムの改善やカメラマンの経験を増やすことによって失敗を減らすことはできますが、完璧ではありません。何十年も写真で食っていながら、未だに「あー、あと1/3段明るくすればよかった」とか「背景に引きずられてちょっと白飛びしてしまった」などと後悔することが多々あります。ミラーレスに移行する前のカメラマンは、どんなプロカメラマンでも多かれ少なかれ露出の過不足と常に戦っていたと思います。
ミラーレス以前のカメラはフィルムだろうとデジタルだろうと、撮影するまでどのように撮影できるか分からないからです。一眼レフになってパララックスはなくなり、ファインダーで構図やピントの確認、被写界深度の確認までもできるようになりましたが、唯一露出だけは撮ってみないとわかりません。これが今までのカメラの最大の欠点です。
そのため、プロカメラマンたちは経験を積み、使っているカメラの癖なども把握しながら、「この背景の明るさだったらこのくらい露出を補正しよう」といった補正値を割り出します。言わば、経験と勘に頼る露出決定がされているのです。それでも不安なため、プラスマイナスに設定したブラケッティングなどをして可能な限り失敗を回避しようとします。かなり原始的な方法ですが、今まではそれしかありませんでした。
それでもデジタルの時代になってからはすぐに確認することができるようになったので、ものによっては撮り直しが可能になりましたが、フィルムの時代は現像に出して、早くても数日は待たないと結果が分からないという状況でした。バックを変えられる中判カメラなどでは、同じ感度のポラロイドフィルムを入れてテスト撮影し、露出を調整してからポジフィルムのバックに交換して本番の撮影をするといったことまでしていました。それほど露出の決定は大変な作業だったのです。
もちろん、スポーツなどの決定的瞬間などは再生して露出失敗したから撮りなおすなどということはできません。自分が仕事としている医療写真や野鳥撮影などもその瞬間が勝負であり、露出の過不足があったから撮り直すなどということは不可能です。
ミラーレスの最大の利点は、撮影前に露出の過不足まで分かることです。今までの一眼レフがファインダーで確認できるすべての情報に加え、一眼レフでは克服不可能な弱点であった露出まで撮影前にファインダーで確認できるようになったのです。これは画期的なことです。
優れたカメラマンだけが身につけていた露出補正の経験値や勘は必要なくなりました。ミラーレスでは初心者でもファインダーを覗きながら白飛びしないように、または黒つぶれしないようにダイヤルを回して直観的に補正ができてしまいます。白飛びしている場合は、撮影前からファインダーで白飛びしていることが分かりますし、露出アンダーはファインダーで暗すぎることが確認できます。
これはZ9だからできることではなく、全てのミラーレスカメラに備わった機能です。一眼レフとミラーレスを両方使ってみて、仕事カメラとして一番の利点と感じるのはファインダーでの露出の反映と直観的な露出補正です。
ミラーブレ
ブレは様々な原因で起こりますが、一眼レフの機械的に動く部分でブレに一番影響を与えるのはミラーです。一眼レフの名の通り、機構上レンズを通って来た光は鏡によって90度曲げられ、ファインダーに導かれます。シャッターを押した瞬間、この鏡は跳ね上げられ、シャッターが開閉して露光し、鏡が元の位置に戻るという動作を行っています。鏡はガラスでできているため、どんなに薄く作ってもある程度の質量があります。それを高速で上下に移動するので、反作用でボディには逆向きの力が発生し、振動します。振動をキャンセルするために錘を逆向きに動かす機構が組み込まれていたりしますが、完全にキャンセルすることはできません。
広角レンズではあまり問題にならなくても、望遠や超望遠撮影をするときはわずかな振動でブレが発生するため、ミラーブレは大きな問題となります。近年は手振れ補正機能が優秀になってきていますが、それでも状況によってはかなり影響します。
ミラーレスはその名の通り鏡がないため、ミラーブレは起こりません。機械的なシャッターはあるので、まだ可動部分はありますが、ガラスでできた鏡の質量に比べると圧倒的に軽いため、一眼レフのブレよりもかなり改善されます。
追記
2021年10月、Nikon Z9の仕様が公開されました。なんと、メカニカルシャッターレス仕様でした。これには世界中が驚いています。ミラーブレに加えて、シャッターブレも過去のものにしてしまいました。物理的な可動部分がほとんどなくなり、信頼性も飛躍的にアップすることでしょう。
静粛性
一般的に「シャッター音」と呼ばれている撮影した時のカメラから発せられる音は、絞り機構の動作音、ミラーの動作音、シャッターの動作音の合成です。フィルムの時代はそれにドライブの音が追加されていました。つまり、結構うるさいのです。静かなクラシックコンサートのホールなんかでは絶対に使えないうるささです。
モデル撮影などでは、モデルさんはこの音を聞きながらリズムよく次のポーズをどんどん決めて行くので、この音が大切なこともありますが、一般的には静かな方が使える場面は増えるでしょう。
この中でも一番うるさいのがミラー機構の動作音です。
ミラーレスはミラーがないので、この音は出て来ません。一眼レフの場合は撮影時に絞り込みますが、ミラーレスの場合はすでに設定されている値に絞り込まれているので、実質シャッター音だけになります。電子シャッターが使える機種では、機械的シャッターを使う必要がなくなり、ほぼ無音で撮影することもできます。静粛性が要求されるスポーツシーンや音楽ホールなど、一眼レフでは不可能であった撮影が可能になる可能性を秘めています。
追記
仕様公開によりメカニカルシャッターがないことが判明しました。完全に無音撮影ができます。
ボディ内手振れ補正
これはミラーレスだからできるというわけではありませんが、マウントの大口径化やそれに伴うイメージサークルの設計変更などもあり、ボディ側での手振れ補正が各社やりやすくなったようです。今までのレンズ側の手振れ補正機能との相乗効果で、さらに強力な手振れ補正を実現できることもあるようです。これは今後まだまだ発展する余地がありそうです。数秒の長時間露光も手持ちでできるようになれば、撮れないものはほとんどなくなるかもしれません。
Z9はすべて克服されているのか
Nikonのアナウンスによると、「これまでの一眼レフカメラ、ミラーレスカメラを超える」と明言しているので、AFも含め、あらゆる面で一眼レフを超えたものになるはずです。Nikonが自社の一眼レフを超えると言っているのですから、これに関しては間違いないでしょう。
画像を認識して人や動物の顔や目にフォーカスを合わせるのはミラーレスの方が有利になるはずです。また、フォーカシングの方法も位相差検出で素早く合わせ、コントラスト検出で微調整をするというハイブリッド方式によって高速かつ高精度のフォーカシングが実現できるはずです。一眼レフのフォーカシングレベルを凌駕するポテンシャルは元々持っているはずなので、それがZ9で実現できればデジタル一眼レフを遥かに超えるAFも夢ではありません。
タイムラグはファインダー液晶のリフレッシュレートによりますが、一説には120Hzまで高めてくるという話もあるので、ほとんどタイムラグを感じないファインダーになる可能性があります。リフレッシュレートが120Hzになるとタイムラグが1/120秒になるわけではないかもしれませんが、動体の表示はかなり有利になるはずです。 スポーツシーンの撮影や飛ぶ鳥の撮影で、120Hzのリフレッシュレートがあれば十分なのかどうかはまだ分かりませんが、30Hzや60Hzと比べて違和感は少なくなることでしょう。
実際現物を使ってみないとわかりませんが、AFが一眼レフを超え、タイムラグが一眼レフと遜色ないレベルにまで克服され、露出の反映などのミラーレスの恩恵がすべて詰まったフラグシップ機であれば、多くのプロカメラマンは安心して一眼レフから完全移行できることでしょう。
フォーマット
唯一ひっかかっていることは、Z9がFX(フルサイズ)フォーマットであることです。仕事カメラとして使うには信頼性が命なので、デジタルになってからD1x、D2xsとNikonのフラグシップを使ってきましたが、D3からはFXフォーマットになってしまったのでその後はD300s、D500と、DXフォーマット機を使用して来ました。本職である医療撮影にしても野鳥撮影にしても、マクロ撮影の拡大率が1.5倍、焦点距離が1.5倍になるDXフォーマットの方が有利だからです。
医療画像をA4以上に引き延ばすことはあまりありません。また、野鳥画像もカレンダーの仕事でB4サイズ程度です。いずれにしても2千万画素(20Mpixel)あれば十分です。
同じ画素数であれば、術創からより離れて撮影できたり、遠くの野鳥が拡大されるDXフォーマットの方が自分の仕事には向いています。フルサイズのD5よりも、DXのD500の方が仕事には有利だったのです。
しかし、Z9は今までの歴代フラグシップと異なり、高画素機になることが予測されています。そうなるとまた話は変わってきます。今まではあえてDXフォーマット機を選択していましたが、仮にZ9が4500万画素のセンサーを使うのであればD850と同等のフォーマット切り替えができると思いますので、中央部切り出しのDXフォーマットで使っても約2千万画素のデータが得られるはずです。そうなればD500と同じフォーマットでほぼ同じ解像度のデータが得られることが予測できます。
フォーマット切り替えが簡単にできるのであれば、普段はDXフォーマットで使用し、ちょっと引きの写真が必要なときはFXフォーマットで撮るという使い方をすれば、単焦点レンズを2種類の画角で使えることになります。それはそれで有用でしょう。
個人的にはZ9に大いに期待しています。
オリンピック
カメラメーカーとしての東京2020ゴールドパートナーはキヤノンでしたが、ニコンユーザーのプロカメラマンも画面では随分散見されました。キヤノン61.6%、ニコン30.5%、ソニー7.9%(305人を対象調査)という情報が載っていましたが、どこまで信ぴょう性がある数字かわかりません。現在のカメラの売れ方や一般向けのシェアからすると意外です。キヤノンがダントツに多いのは当然として、テレビでパッと見た感じでは、ニコンが3割以上もいたかな?と疑問視するくらいパラパラとしかいなかったように感じました。
ニコンユーザーは、おそらく一眼レフのD6でしょう。動きの速いスポーツ場面では、まだまだ信頼性の面でも軍配が上がるのだと思います。
そんな中、うれしいニュースとしてテスト的に導入されたのであろうNikon Z9が会場で目撃されたという情報があげられています。写真を見る限り、プロトタイプとしてはかなり完成度が高く、オリンピックでの実践からフィードバックを受け、製品の完成度を上げる調整段階にきていると考えられます。世界一のスポーツの祭典で、AF、感度、連射性能など、自社のD6や他社一眼レフやミラーレスを凌駕する性能を発揮できたことを期待しています。
追記:予約開始
2021年11月2日午前10:00から予約が開始されました。Nikon起死回生の一撃となるか。スペック通りであれば、最高のフラグシップになるはずです。
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