2021年末、ようやく安心して一眼レフから移行できるミラーレスフラグシップ機が登場しました。フィルム時代から撮影に携わってきた身としては、半信半疑の機能が多く、Z9が登場するまでミラーレスへの移行は躊躇していました。Z9のティーザー広告を見て、「本当かよ」と疑問に思った方も多いのではないでしょうか。一眼レフを使ってきたカメラマンが、Z9の良いことずくめの広告を見て鵜呑みにしていいのか、実際の作例やファインダーのログを徐々に公開していきますので、そこからご判断ください。カメラは使う人や被写体によって評価が大きく分かれます。ある人にとっては使えるカメラでも、ある人には役に立たないこともあります。そのため、「どんな状況でも最高のカメラだ!」などという評価はできません。事実だけを述べますので、それがご自身の仕事に有用だと判断されたら、きっと使えるカメラなのでしょう。特にこの手のカメラは仕事として使う道具ですから、一眼レフよりも劣っている部分があったら買い替える意味がありません。
個人的には一眼レフからの全面移行を行い、仕事カメラとしては好印象を得ています。
検証
Z9のすべての機能をあらゆるシチュエーションで検証するのは不可能ですので、極めて個人的な使用感やレポートであることをあらかじめご了承ください。
仕事としては、医療カメラマンとして医学・獣医学・薬学系分野での学術論文や教科書、セミナー素材などの撮影と、野生動物、野鳥の撮影を生業としています。医療系の画像は倫理的問題もありますし、見て楽しむものではないので公開はできませんし、あまりに特殊な分野なので参考になることもあまりありません。したがって、このサイトでレポートできるのは野鳥をメインターゲットとしたものになります。野鳥撮影でのZ9の使用をお考えの方々の参考には多少なりともなるかもしれません。
Z9には多くのすぐれた特徴がありますが、その中でも特に一眼レフからZ9に移行する価値があると思われる機能を検証してみたいと思います。おそらく、今まで一眼レフカメラを使ってきた方々が最も気になるであろうZ9のポイントのまとめです。
ファインダー
一眼レフからの移行者が真っ先に不安に思うのがEVFだと思います。おそらくOVFにこだわりを持って一眼レフを使い続けていると思います。かく言う自分もそうでした。
個人的な感想ですが、Z9を使ってみて、今ではもう一眼レフには戻れないと思っています。
被写体検出
個人的にはZ9に一番期待していた機能です。この機能の出来・不出来はZ9の運命を左右するでしょう。世界最多の被写体検出がどのようなものか、様々なターゲットで検証してみました。
もちろん、完璧ではありませんが、自分の仕事での撮影はかなり楽になりました。
被写体の検出はファームウェアのバージョンによって大きく変わるため、被写体検出やAFの挙動はファームウェアの総論を参照ください。
メカニカルシャッターレス
メカニカルシャッターを廃したのは勇気ある英断だったと思います。完全電子化することによって、耐久性が向上し、ほぼ無音の撮影が可能となりました。ミラーレスなのでミラーブレはありませんが、シャッターもないのでシャッターブレもありません。
一方で、今までの電子シャッターで問題となっていたローリングシャッター歪はどのように克服しているのでしょうか。高速で動くものを撮影しても問題はないのか。高速で動く被写体は専門ではありませんが、身近な状況で検証してみました。
プリキャプチャー
2022年4月20日公開予定のファームウェアVer.2.00からシャッターを押す1秒前から記録するプリキャプチャー機能が搭載されます。ハイスピードフレームキャプチャモード時だけですが、瞬間を捉えるシーンでは鬼に金棒となるかもしれません。楽しみです。
メディア
夏になってHOT CARD警告に悩まされる。
レンズとの相性
NIKKOR Z 24-120mm f/4 S
発売と同時に一番人気の標準ズームです。あまりの人気で、発売後すぐに予約した人以外は数ヵ月待ちの状態になってしまったほどです。広角24mmから望遠120mmまでの5倍ズームです。昔は画質を維持したズームは3倍までと言われていましたが、このレンズは特殊な硝材や非球面レンズを惜しみなく使用して、5倍ズームの利便性と高画質を両立したレンズです。その割に価格は抑えられているので人気が出るのもうなづけます。
自分はマクロ性能に期待して購入しました。
AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR +TC14E-III+FTZ II
今まで一眼レフに超望遠レンズを付けて撮影していた人も多いと思います。Z9に移行しても問題ないのか、不安に感じている人も多いでしょう。自分もそうでした。
今回、Fマウントの500mmF4とZ9の組み合わせを検証してみました。
NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
800mmなのに 2385g !、VR5段で手持ち撮影ができるという、夢のようなレンズが登場しました。Z9と組み合わせるとシンクロVRで5.5段の手振れ補正になります。素晴らしい。
NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S
位相フレネルレンズを使用した超望遠レンズの第二弾、通称ロクロクサンと呼ばれる600mmF6.3 が登場しました。驚異的な小型軽量さと4mの最短撮影距離がフィールドによっては有利になります。
Nikon AI AF Zoom Micro Nikkor ED 70~180mm F4.5~F5.6D
一眼レフ時代に仕事でずっと愛用してきたNikon AI AF Zoom Micro Nikkor ED 70~180mm F4.5~F5.6DをZ9で使ってみました。AFがボディ駆動のレンズなので、MFでしか使えませんが、思ったよりも違和感なく使えました。
露出
Z9に限ったことではありませんが、EVFでは撮影前に露出の過不足がわかるので、露出の失敗が劇的に少なくなりました。ハイライト重点測光も一眼レフ時代の挙動とはずいぶん異なる印象です。
画素数
歴代のFマウントのフラグシップと比較するとZ9は高画素機になっています。個人的には仕事柄DXフォーマットをメインに使っているので、FXでのここまでの高画素は必要ないと思っていましたが、大きなメリットがありました。
高感度耐性
一眼レフのD5やD6を使っていた人からするとZ9のISO 25600は不足でしょうか。一眼レフの最高感度まで普通に使っていたカメラマンには不足かもしれませんが、一般にはおそらく25600は十分な感度と思います。しかし、高感度の画質はお世辞にも良いとは言えません。テスト結果から自分はISO 1000前後までを常用として、頑張って2000前後を上限と考えています。とはいえ、高感度ノイズの処理は昔よりも良くなっていて、解像感を残す処理は好感が持てます。
ボディ内手振れ補正
Z9はボディ内手ブレ補正を搭載しています。手ブレ補正がないレンズでも手ブレせずに撮影できます。レンズ内手ブレ補正機構が搭載されたレンズでは相互作用で効きが増すと言われています。
バッテリー
一眼レフユーザーのことを考えて、一眼レフフラグシップ機と共通して使えます。ミラーレスは消費電力が多いと思っていましたが、ミラーの駆動やシャッターの駆動がない分、思いのほかバッテリーの持ちは良いと思いました。付属の新型バッテリーで公称750枚と言われていますが、実使用では3千枚以上撮って残量は半分位でした。公称値よりもかなり持つ印象です。
インターバルタイマー撮影とタイムラプス動画
簡単な設定でインターバルタイマー撮影とタイムラプス動画が作れる機能が搭載されています。
ファームウェア
現代のカメラはファームウェアと呼ばれる本体内部のプログラムを書き換えることで機能や性能を向上させることができます。Unstoppableのキャッチ通り、Z9は頻繁なファームアップによって常に進化しています。
センサーシールド
ミラーレスな上メカニカルシャッターレスなので、センサーがむき出しになってしまいます。しかもZマウントは大口径で、フランジバック16mmと、マウント面の側近にセンサーがあります。そのままでは危険なので、Z9にはセンサーシールドと呼ばれる防御機構があります。
L型ブラケット・L型プレート
仕事柄ストロボのブラケットを取り付けたり、様々ものを取り付けるので、アルカスイス互換のプレートは必須です。Smallrig社からすばらしいL型プレートが発売されています。アルカスイス互換に統一している人にはおすすめです。
アイカップ
Z9標準のアイカップは比較的浅く、横からの迷光の遮蔽にあまり効果がありません。眼鏡使用者には浅いアイカップの方が良いとは思いますが、自分はコンタクトレンズを装用しているので、横からの迷光が結構気になります。サードパーティ製のアイカップがいくつか出ていますので、試してみました。
オールドレンズ遊び
大口径、ショートフランジバックのZマウントの恩恵で、オールドレンズとの相性は抜群です。古いレンズでも最新の手ブレ補正を利かした撮影ができます。
問題
良いことばかりではありません。
野鳥撮影
サンプル画像
総評
購入してちょうど1年が経過しました。撮影が生業ではないので、撮影枚数はそれほど多くはなく、シャッターカウントは1年で約25万枚程度です。医療写真は連写することはないので、このシャッターカウントの99%は野鳥です。週に1~2日なので、1回の撮影で2~5千枚といったところです。
まだまだ不満点はありますが、個人的には大満足です。もう一眼レフに戻ることはないでしょう。
Z9の各機能やカタログスペック上の物理的なことは上記レポートから判断していただくとして、個人的にはスペックには表れないカメラを使う上での気持ちというか、精神状態が変わったなと思ったのが面白いところでした。カメラに対する「安心感」とか「信頼感」です。
どんなに厳しい耐久試験をパスしたフラグシップモデルであろうと、機械部品は必ず消耗して壊れます。カメラの中でも特に壊れにくいと言われているNikonの製品でも、一眼レフではミラー機構やシャッターユニットには必ず寿命があります。10万回、100万回とシャッターカウントが増えてくるともうじき壊れるのではないかという不安感に常に襲われます。ミラーやシャッターユニットを交換した経験があると、シャッターカウントが気になってきます。スポーツ系のカメラマンでしたら、1回の試合で万単位で撮ることもあるでしょうから、意外とすぐにメーカー公表の耐久テスト回数に達してしまいます。それを超えるとすぐに壊れるわけではありませんが、寿命が近づいてくると不安になるものです。
Z9にはその心配がない、というところが仕事カメラとして特筆できることです。メカニカルシャッターレス化によって、壊れる部品を排除した功績は大変大きいと思います。もちろん、完全電子化されても全く壊れないことはないとは思いますが、一眼レフに比べたシャッター周りの故障率はおそらく桁違いに低いでしょう。これは精神衛生上大変良いことです。
一方で、何というか、「撮った感」がないのも事実です。何十年にも渡る一眼レフの音と軽い振動に慣れてしまっている体にはなんとなく物足りなさがあります。特にシャッター音をオフにしたり、小さくしていると、なかなか撮影している実感がありません。そのうち慣れるのでしょうが、一年経っても、手応えという感覚が感じられません。スマホからミラーレスカメラに移行した人には当たり前の感覚だと思いますが、「カメラと言ったら一眼レフだ」と信じていた爺世代には物足りなさを感じます。
しかし、ミラーやシャッターの振動がないことによって撮影の歩留まりは上がっているので仕方ありません。特に超望遠レンズでのブレが圧倒的に軽減されます。手持ち撮影での成功率は明らかに高くなります。そうなってくると「撮った感」なんかクソ喰らえと思うようになってきました。固定概念を捨て、頭を柔らかくして新しい感覚に慣れるしかないでしょう。
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